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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王妃教育初日

翌朝、寄宿舎にいる時と同じ時間に起床したアリシアは、自分で身の回りの準備を済ませ、部屋で一人、お茶を飲んでいた。

窓の外に見えるバラの庭を眺めながら、ぼんやりと昨日のことを考えていた。

自分でも何が起こったのかわからなかった。

フランツのことが嫌だったわけではない。

身体が反射的にあのように動いてしまったのだ。

理由がわからない以上、自分でどう気をつけたらいいのかすらわからない。


しばらくして、ドアをノックする音が聞こえて我に返ったアリシアは、すぐに立ち上がるとドアを開けた。


「おはよう、アリシア」


変わらず慈愛の笑みを浮かべているフランツが声をかけた。


「おはようございます。フランツ様」


アリシアは気まずくなってうつむきかけたが、部屋の様子を窺っていたフランツが冷めた口調で話し始めたので、下を向くことはできなかった。


「今朝も誰もいないんだね」

「はい。そうですね……」

「大丈夫?」

「何がですか?」

「いや……」

「特に今のところ不自由はしていませんから大丈夫ですよ」


昨日は確かにアリシアが一人の方がいいと言っていたが、昨夜のことを誰かに話したわけではない。

そのため、フランツはすでに侍女が来てアリシアの支度を手伝っていると思っていた。

アリシア自身、自分で何でもできてしまうのか、特に不便さを訴えてくる様子はない。

今はまだ本人が対応できる程度の不手際だが、このままだとさらに色々な問題が出てくるだろう。

そんな考えを巡らせながらも、彼はアリシアにそんなそぶりを見せずに言った。


「あのさ、朝食、一緒にどうかと思って来たんだけど……」

「ぜひご一緒させてください。また声をかけていただけるのかわからなかったもので、食堂まで様子を見に行こうと考えていたところだったのです」

「そうか。……じゃあ、ここに運ばせていいかな」

「はい。お願いします」


フランツはドアから頭だけ出して、廊下で待機している人に指示を出すと、入ってきた時と同様に、少しドアを開けた状態で戻ってきた。


「外でお待ちの方がいらしたのですね。入っていただいてもよかったのですが……」

「いや、それはダメだよ。……僕が」


支度のためにアリシアの部屋に出入りする人が増えたため、フランツは言葉を切った。

正直、昨日の今日で、自分が部屋を訪ねてどのような反応をされるのかが怖かったのだ。

避けられたら、怯えられたら、自分が平静を保っていられる自信がないし、そんな姿を臣下に見せるわけにはいかない。

それから朝食が整うまで二人は無言だったが、準備を終えて彼らが部屋の外に出ていくと、フランツが口を開いた。


「昨夜は……怖がらせてしまってごめん。朝食の予定はもともと入れてあったけど、どうしようか迷ったんだ。キャンセルすると変な憶測を呼ぶからそのままにしてしまったから、急に訪ねてくることになってしまった」

「いいえ、私の方こそ申し訳ありませんでした。……フランツ様が嫌でということではなくて、その……、自分でもわからないのです。反射的にあのようなことをしてしまって……」

「わかった。気にしなくていいから。そうだ、アリシアは今日から王妃教育が始まるんだったね。僕は公務があるから、あまり様子を見に行けないけど、朝食と夕食はできるだけ一緒に取るようにするから、その時に話を聞かせてほしいな」


侍女のこともあり、アリシアの周囲の環境が心配なフランツは、できるだけアリシアから情報を引き出そうと思いそのように言ったのだが、


「はい。早くお役にたてるように頑張ります」


アリシアはフランツが教育の進捗を気にしているのだと考えて返事をするのだった。



王妃教育の初日は、貴族としての所作や知識がどの程度身に付いているのかを確認される授業が大半だった。

まず、時間になると、部屋に先生方が全員そろってやってきて、応接室に移動することになった。

移動した応接室に到着すると全員着席し、共通認識となる教育方針や、各先生の紹介や担当科目の説明を受ける。

そして能力の確認作業は、先生の偏見が含まれないよう、先生全員の目がある状態で行われた。

応接室の一角に不自然な広いスペースがあって、アリシアは室内に入った時から気になっていたが、ダンスを確認するために空けたものだったらしい。

知識に関しては筆記ではなく口頭で質問に答えていくのだが、雑談形式で話を進めていく形であった。


教育方針としては、貴族の基礎ができてから、王族の基礎を学ぶということになっているという。

これは、王族の中で育った歴代の王族メンバーも同じで、いきなり王族としての振る舞いを学ぶと、後に臣籍降下した際や、他国で生活をしなければならなくなった際に、彼らが対応できなくなっては、国の恥となるという考えから行われている。

また、臣下となる貴族たちの行動が適切か不適切かを判断する基準を持つためにも重要で、上に立つ者として必要な教養という位置づけとなっているという。

学校で優秀だと称されたアリシアにとって、学校の試験を応用すれば問題ない範囲のことが多く、どれも問題なくこなすことができていた。

上級学校ではあまりないような外交の話や外国語についても、初等学校で選択していた商学科目の外交科目や外国語、神学科目の古語や宗教学の知識があったため、先生をうならせる知識を披露する結果になった。

少なくとも大きな指摘を受けるようなことはなく、授業という場では問題がないとされた。

強いて言うならば、公の場にほとんど姿を見せていなかったため、実践回数が他の貴族より少ないことが気がかりだと指摘をされたが、それに関してはこれから積んでいくしかない。


全教科の先生によって行われた能力確認を終えたアリシアは、最後に翌日からの教育内容について説明を受けた。

翌日からは、今日確認できた内容、持っている技能と知識を参考に、先生方が考えたカリキュラムをこなすことになるという。

特に知識や教養が高いと判断されたアリシアは、王族としての振る舞いなどを学びながら、貴族として公の場に慣れるため、実践部分を強化していくことになりそうだというのが、先生方の一致した意見ということで、この先はフランツの婚約者として、彼と共に公の場に姿を出して経験を積んでほしいとのことだ。

そこではまだ貴族としての振る舞いをする必要があるので、王妃としての振る舞いをしないように気をつける必要があるが、フランツは第二王子であるため、もしかしたらこの所作は生涯使わないかもしれないということも付け加えられた。


アリシアは、王妃としての振る舞いを学ぶことは、王族が貴族の行動を適格かどうか判断するために貴族の振る舞いを学び理解するのと同じように、王族が貴族になぜそのような行動や発言をするのか知るよい機会であり、とても貴重なことだと考えていた。

知識を身につけることを楽しむことのできるアリシアには、普通では勉強できない新しい知識を学ぶことができる機会の方が、その後の使用有無よりはるかに有益なのだ。


「それでは明日から、我々が一日、あなたの指導を行います。朝食後から夕食前までは授業となります。昼食もレッスンとして指導時間となりますので、本日はゆっくりとお休みになって、明日に備えるようにしてください」


ここに来て何もすることもなく、客人としても中途半端な扱いを受けている状態で、居心地の悪かったアリシアは、自分に役割ができたこと、ここにいる意味を与えられたことが嬉しかった。


「明日からよろしくお願いいたします。授業、楽しみにしています」


アリシアはそんな思いを隠しながら笑顔で返事をするのだった。

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