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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王宮への引越し

夕方前。

マリーを見送ってからしばらく食堂で一人、お茶をしていたアリシアのところにも迎えがきたという連絡が入った。

伝えてくれた受付の人に感謝を伝えてアリシアは馬車に乗り込み、寄宿舎を後にした。

窓から見慣れた景色を眺めながら、また来てもいいと言われたことを思い出した。

そして、自分が外に自由に行けるようになったら足を運ぼうと心に決めたのだった。



王都上級学校の寄宿舎の前に迎えに来た馬車に揺られて王宮に到着すると、アリシアはすぐに客室に通されることになった。

入口でずらりと並び頭を下げる人々に恐縮しながら、その中央にいた女性が、こちらへとだけ言ってアリシアについてくるように促したのである。


「あの、ご挨拶は……」


馬車を降りてすぐに案内をしてくれた女性に声をかけた。

王宮について大勢の人にお出迎えをされて、そこで挨拶を交わしてから客室まで、お互いに一言も話していなかった。

移動がてら案内をされるかと思っていたが、部屋のドアを開けたところで下がろうとされてしまったのだ。


「顔合わせは夕食の際に行うと聞いております。夕食の際はお迎えに上がりますので、どうぞそれまでごゆっくりお過ごしください」


彼女はそれだけ言うと、礼をして退室していった。

夕食の時間もわからないまま、部屋でゆっくりと言われたアリシアは、一通り部屋を確認して回った後、とりあえず部屋に積まれた荷物を片付けることにした。

馬車で先に寄宿舎を出た荷物は、すでに部屋にまとめて置かれていた。

アリシアはまず服の入った箱をあけ、手際よくクローゼットに収めた。

そして、靴や下着なども片付けていく。

順調に片付けを進め残ったのは勉強関連の箱だった。

そこには本や授業を記録した紙、新しい紙と筆記用具、そして寄宿舎に届いた手紙がまとめられている。

アリシアは新しい紙と筆記用具だけ取り出すと、残りは箱に入れたままクローゼットに押し込んだ。

最後に空箱を積み上げて、片付けを終える。

部屋にある簡易キッチンで手を洗い、寄宿舎からそのまま運んできたお茶セットを使って紅茶を入れることにした。

茶葉の残りが数回分と心もとないが、翌日以降、相談する機会もあるだろう。

そんなことを考えながら、茶葉をティーポットに準備しながらお湯が沸くのを待つ。

寄宿舎での生活のおかげで、本人も気が付かない間にお茶を入れる手際が良くなっていた。

椅子に座って飲み慣れた紅茶を口に入れたところで、ため息が漏れた。

引越しの片付けを終えたのはいいが、自分の置かれた状況があまり理解できない。

説明してくれる人がいないのだ。

お昼から随分と時間が過ぎたので、お菓子をつまもうか悩むが、それで夕食を食べられなくなっては困る。

そして夕食後、何かしなければならないことがあるのだろうか?

明日の予定もわからない。

結局、紅茶を飲みながら時間を潰し、そんなことを頭に浮かべながら、誰かが夕食の迎えに来るのをただ待つしかなかったのだった。



夕食の知らせは、やはり先程と同じ女性が現れた。

ノックの後にドアを開けた彼女は、ドアを開けたまま、


「夕食の準備が整いました。ご案内いたします」


と言うと背を向けると歩きだした。

アリシアは飲みかけの紅茶をテーブルに置くと、慌てて部屋を出てドアを閉めると彼女の背中を追いかけた。

名前も知らない女性は、自分のことを一切話さないだけではなく、必要な情報もアリシアに与えなかった。

話しかけようにも、歩く速度が速いため、声をかけることもできない。

むしろ声をかけられたくないため、歩くのに必死になっているようにすら見える。

今日のお迎えの様子からも、自分は歓迎されていないのだなと感じるのに充分だった。



「アリシア!」


大食堂の入口まで来たところで後ろから声をかけられた。

立ち止まって振り替えると、フランツが歩みを早めて近づいてきた。


「そっか。もう到着していたんだね。今日から同じ屋根の下でアリシアが生活しているのかと思うと、それだけで感無量だよ」


そう言ってさりげなく手を差し出した。


「ありがとうございます……」


アリシアはそう言いながら案内の女性を確認するため視線を動かしたが、いつの間にか彼女は居なくなっていた。

フランツが来た時に静かにその場を離れたのだろう。

アリシアは彼女を気にすることを止めて差し出された手を取り、フランツにエスコートされながら中に足を踏み入れることになった。



国王と王妃、そして第二王子であるフランツとアリシアというメンバーで会食が行われた。

第一王子はまだ国外から戻っていないらしい。

会食は家族団らんのような雰囲気だが、この中でアリシアだけは部外者である。

まだ婚約者というだけで、王族ではない。

食事に同席しているだけで恐れ多いことである。


食事は手際よく運ばれてきた。

運ばれてくるものはすべて一番おいしく食べられるよう計算されているのか、スープなどはすぐに手をつけてもやけどをしない温かさで、デザートはひんやりとしているが、味がしっかりとわかる冷たさになっていた。

アリシアは料理を堪能しつつ、彼らの会話に耳を傾けて情報を集めることに専念していた。

好きなもの、嫌いなもの、これからのこと、そのような話を聞きとることができれば、その中に自分の必要としている事柄や、今後役に立つ情報を知ることができると考えたのである。

幸い、自分から話題を振ることはできないため、振られた話に対して答えていくだけである。

そして、彼らもアリシアには当たり障りのない会話しか求めてこなかった。

自分を調べさせた部下の情報などは知っていても、対面した回数は少ないこともあり、国王も王妃も手探りになっているのだろう。

アリシアは会話がぎこちなくならないよう気を使いながら、なんとかその場を乗り切ったのだった。



顔合わせを兼ねた夜の会食を終えたアリシアは、客室に戻るため立ち上がった。

すると、食堂を出ようと出入口に向かうアリシアの元にフランツが寄り添うようにやってきて手を差し伸べた。


「部屋まで送ります」

「あ……ありがとうございます」


一人で戻るつもりだったアリシアは驚きながらも彼の手を取った。

先ほど案内をしてくれた女性はこの場にいないし、迎えに来る様子もない。

一度しか歩いていない、しかも速足で周りを確認することもできない状態で連れてこられた客室まで戻れるかどうか不安があったこともあり、本当にありがたい申し出だったのだ。

そうしてアリシアはフランツにエスコートされて部屋に戻ることになったのだった。

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