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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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寄宿舎退去

卒業式から数日しても、寄宿舎には卒業した生徒たちがまだ残っていた。

卒業後のことについて、実家と何度もやり取りをしていたアリシアだったが、最終的には王族側の意向に従うことになり、王宮の一室に引っ越すことが決まっていた。

王都上級学校を卒業したアリシアは辺境領に戻ることなく、寄宿舎に置かれた荷物もそのまま運ばれることになったのである。


アリシアもマリーも新入生入居期間の前に設けられた退去期間の最終日に寄宿舎を離れることが決まっていた。

アリシアは卒業に向けて、ある程度荷物をまとめておくことにした。

持ちこんでいるものが少ないため、いくつかの箱に衣類や勉強道具、日用品を分類して詰め込んだ状態にして、部屋の入口近くに積み上げる。

こうして片付いた部屋を見ると、寄宿舎に入った日のことがなんとなく思い出された。

入学の前の状態に戻った部屋と、積み上げた荷物は、自領を出る時に準備した量とほとんど変わらない。

他の生徒の搬出の邪魔にならないのならば、一つずつ運べば、自分で入口に積み上げて馬車が来るのを待つこともできるだろうと思ったが、前日までの様子では、馬車が次々と乗り入れてきており、多くの荷物を搬出している人も多いようだった。

いくら少ないとはいえ、荷物を置いていたら邪魔になることは間違いない。

寄宿舎最後の夜、アリシアはすでにほとんどの荷造りを終えていたため、がらんとした部屋と、積み上げられた荷物の箱を眺めながら休むこととなるのだった。



当日の朝、指定の時間になると、王宮から派遣されたという人たちが受付で手続きを済ませてアリシアの部屋にやってきた。

ノックの音がしたためドアを開けると、そこには男性が数名立っていた。


「失礼します」


と言って背筋を伸ばして動かない彼らをアリシアが部屋の中に促すと、ようやく動き出した。

お互い挨拶を済ませると、彼らはすぐに作業に取りかかったが、すでにまとめられた荷物を運ぶだけだったため、さほど時間がかからずに終わった。

アリシアは、彼らが淡々と仕事をこなす様子を、部屋の隅で邪魔にならないように眺めているしかなかった。

手際の良さから荷物などの運び出しや運び込みに慣れているようなので、手伝いを申し出ても足手まといになるくらいだった。

最後の荷物が部屋から運び出されるのを確認したアリシアが、その荷物を持っている男性の後ろを黙ってついていくと、入口につけられた馬車の中にきれいに荷物が納められた。

最後の荷物であることを確認すると、


「荷物を降ろすため一度王宮に戻り、食事を終えた頃に迎えの馬車を遣わします」


と御者をしている男が言った。


「ありがとうございました。よろしくお願いします」


アリシアがお礼を伝えると、彼らはそれを合図に馬車を出した。


馬車への積み込みを終え、二年間過ごした部屋に忘れ物がないかを確認して、アリシアは受付に鍵を返した。


「お世話になりました」

「こちらこそ。声をかけてもらえれば、食堂は利用できますから、いつでも遊びに来てくださいね」

「はい。ありがとうございます」


アリシアは挨拶を終えるとその足で食堂に向かった。



「マリー。お待たせ」


すでに食道の広めの席に座っているマリーを見つけたアリシアは声をかけた。


「アリシア、お疲れさま。手伝ってくるなんて偉いわね。それに私は全部任せちゃったから時間があっただけよ。しばらく会えなくなっちゃうから、最後にお昼を一緒に食べたいって誘ったのは私だもの」

「手伝った……というわけではないわ。ただ見ていただけだもの。私がここに入るとき、御者と二人で荷物を運んだのに、王宮からは何人も人が来てくれて、全部彼らが運んでくれたから何もしていないのよ。最後に部屋を確認して、鍵を返しただけ」

「そうなのね。あ、私もまだ注文していないの。一緒に頼もうと思って。何を頼むかは決めてあるからどうぞ」


メニューをアリシアの方に向けてマリーは言った。


「ありがとう。せっかくだもの、一緒にいただきたいわ」


アリシアが注文するものを決めたところで、二人は昼食の料理を注文した。


「まさか、こんなすぐに王宮に移るなんて思わなかったわ」

「殿下たちの中で、一番早い婚約になるし、その分期待が大きいのよ」

「領地が遠いから往復だけでも大変だから、気を使ってくれたのかもしれないけど、私は一度戻りたかったわ」


学生生活で必要な最低限のものしか持ち込んでいないのは、寄宿舎を退去して辺境領に戻ることが前提だった。

一度戻るからこそ、フランツと王都に戻る際にも荷物は動かさず辺境領に残してきたのだ。

それに婚約が決まってから森の家族にこのことを報告できていない。

遣り残したことが多かった。


「必要なものがあるなら、きっと向こうで用意してくれるわよ。ご家族にしばらく自由に会えないことは残念だと思うけど」

「そうよね、仕方がない……わよね。落ち着いたら相談してみるわ」


アリシアは自分の話を終えるとマリーの今後の話を聞かせてほしいと、話題を変えるのだった。



席に運ばれてきた食事がテーブルに並び、手をつけ始めても話は止まらない。

「私は自分が誘った夜会で、アリシアが見初められたっていうのは、これだけで自慢になるわ」

「そう……。そんなことで自慢ができるならいつでもお茶会のネタに使って」


友人を騙している罪悪感を少し感じたが、本当はすでに決められた相手でしたとは言えない。

仮にマリーがその事実をどこからか聞くことになったとしても、おそらく忖度して何も言わないだろう。


「私はね、アリシアが王都に残ってくれるの、本当にうれしいのよ。領地同士の行き来は王宮と違ってスムーズにできるかもしれないけど、森の辺境領は遠いから会いに行くのが難しくなってしまうもの。それにね……」


マリーは少し前に体を倒すと、周りに聞かれないようにトーンを落として続けた。


「アレク様がフランツ様のところで働いているから、お互いの近況はわかると思うの。モノは無理でも手紙なら渡してもらえると思う」

「そうね」


顔を見合わせてお互い微笑むと、元の態勢に戻って再び食事をはじめた。



そうして雑談をしながらの食事を終え、お茶を飲みながら話をしていると、マリーの従者が迎えに来たと受付から連絡が入った。

マリーは素早く紅茶を飲み干すと席を立った。


「このままにしておいてもらっていいかしら?私は戻ってくるから」

「かしこまりました」


アリシアはマリーを見送るために席を残してもらえるよう食堂の人に頼むと、マリーの後を追いかけた。


「それじゃあ、またね」

「ええ。気をつけて」


寄宿舎の入口で先に迎えのきたマリーを見送ったアリシアは、再び食堂に戻り、お茶をしながら、いつ来るのか分からない王宮からの馬車を待つのだった。

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