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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王都上級学校卒業

数ヶ月も過ぎると、アリシアに対する関心は少しずつ薄れ、注目される度合いも減ってきていたが、一方でよそよそしく話しかけてくる生徒が増えてくるようになった。

クラスメイトには普通に話してほしいと伝えていることもあり、教室ではそのようなことは起こらなかったのだが、廊下ですれ違う後輩や、別のコースの人には気を使われるようになってしまった。

婚約を周知して時間が経ったこと、そして、夜会でフランツが変わらずどの令嬢も相手にしなかったため、婚約が真実味を帯びてきていると感じさせたためだった。

さらにアリシアは頻繁に王宮で行われるお茶会にフランツと共に参加するようになっていた。


逆に夜会の招待は以前の倍以上に増えたが、すべて欠席することになった。

これはフランツの要望のため、アリシアはそれを守っただけである。

また、正式に婚約が決まってからも研究所やラボからは絶えずお誘いが届いていたが、もらう毎にお断りの連絡を送り続けることも忘れなかった。

幸い学校内からほとんど出ることのなかったアリシアは、フランツの婚約者だからという理由で絡まれることはなかった。

そのあたりは貴族平民問わず、国の最高峰である王都上級学校に通っている生徒としての自覚がしっかりしており、学校側も対応に慣れているためだった。

図書室の妖精に癒しの時間をもらいつつ、何とか授業をこなしながら、気が付けばもうすぐ卒業という時期を迎えていた。



アリシアは夕食を済ませて部屋のベッドに横になると、ぼんやりとこの一年を振り返った。

ちょうど一年くらい前のこの時期に父親からの手紙を受け取り、領地に戻るなり婚約の話を聞かされて、戻ってくる時は婚約者と一緒、しかも相手は第二王子で、すぐに陛下に謁見したかと思ったら、知らない間に婚約発表が行われて……。

そして卒業したらアリシアは王妃教育を受けることが決まっている。

将来が見えないことに対する不安が、将来を見据えたことによる不安に変わるとは思わなかった。

自分でいいのか、自分は何をしなければならないのか、という矛盾したものが頭の中をグルグルと回っている。

そんなことを考えているうちに、アリシアはそのまま眠ってしまうのだった。



いよいよ卒業の日。

この日は上級学校最後の成績発表、卒業証明書の授与、卒業パーティなどのイベントが予定されていた。

卒業生はそのすべてに参加し、交流を深めたり別れを惜しんだりするという。

この日もアリシアはマリーと一緒に行動することになった。

卒業生は各コースごとに正装で参加しなければならず、またしてもマリーの侍女たちが出張してアリシアを助けてくれた。


医学コースや研究コースであれば白衣、商学コースや外交コースであればベスト、騎士コースであればマント着用など、王都上級学校内での正装は、コースによって異なっている。

アリシアやマリーの在籍する貴族コースは盛装を基準とするためドレスアップが必要となったのである。


「マリー、卒業の日まで迷惑をかけてしまったわ。ありがとう」

「迷惑じゃないわ。でもこれが最後だと思うとなんだか残念ね」


二人はアリシアの部屋に着替えを持ち込んで、同じ部屋で着替えをしながら話していた。


「卒業したらあまり会えなくなるのかしら」

「そうね、アリシアが王宮に入ってしまうから、なんだか急に遠い人になっちゃう気がするわ」

「立場のことを言うのなら、まだ婚約の段階だから問題ないとは思うのだけれど……」


アリシアが卒業後に王妃教育を受けるのと同じように、マリーも卒業後は婚約者の実家に住み、花嫁修業を行うことになっている。

お互いに新しい環境に対応しなければならず大変なことには変わりない。


「新しい生活が落ち着いたら会えるように考えましょう?マリーだってアレク様のところに行くのでしょう?」

「ええ。でも、私はアレク様のご家族とも懇意にしているし、家にも何度も伺って、今後の生活のこともずっと話してきたからあまり不安はないのよ。私はアリシアの方が心配だわ。急に決まって、まだ人となりがわかるくらいまで話したわけではないだろうし」

「そうね……。でも仕方がないわ。決まってしまったことだもの。私は自分のことは最悪自分でなんとかするから大丈夫よ」


二人はこれから始まる自分の生活に対する不安を隠しつつ、相手を労わり合った。


そんな話をしているうちに着替えが出来上がり、各々がヘアセットをするため、マリーが部屋に戻ることになった。


「あ、準備ができたらここに戻ってくるから待ってて」

「ええ。一緒にホールまで行きましょう」


一度別れて準備を終えた二人は、侍女たちに見送られて卒業式の行われるホールへと向かっていった。



卒業式は入学式が行われたのと同じホールで行われた。

コースごとに場所が決められているのも入学式と変わらない。


「なんだか、入学式を思い出すわね」

「ほんとだわ。入学式もこうしてアリシアの隣に座ったのよね」


席に着いてからそんな話をしていたが、違うのは同じコースに座っている全員が二年間一緒に過ごし、顔も名前も知っているクラスメイトであるということだ。


「入学式と同じメンバーしかいないはずなのに、あの時とは違って和やかな気持ちだわ」

「そういえばアリシアは学校に知り合いが一人もいなかったのだものね。私は顔見知りが何人かいたからそこまで緊張しなかったけど、それでも不安はあったもの。懐かしいわ」


席に座って開会を待っているうちに、徐々にホールに人が増えていく。

正装している人が固まって並んでいる様子は圧巻だ。

すでに別れを惜しんで涙している人もいれば、楽しそうに雑談をしている人もいる。

静まり返っていた入学式とは雰囲気が違うのは当然だろう。


やがて、校長や教職員が入場し、開会の宣言が行われた。

宣言と同時に会場は静かになった。

生徒が静かにしている中、校長からお祝いの言葉が贈られ、一人ずつ壇上に呼ばれ、卒業証明書や成績表が渡される。

受け取った後は自分の席に戻って各々が自分の成績と向き合っていた。

全員への授与が終わると、生徒たちは一度教室に戻るように伝えられた。


アリシアとマリーも言われた通り、ホールを出て移動した。

教室に戻ると、すでに戻っているクラスメイト達が別れを惜しんで雑談していた。

アリシアはマリーと離れて自分の席に座ると辺りを見回した。

マリーはすでにグループで話している人たちの輪の中に入り、会話を楽しんでいる。

初等学校を卒業する際には何も感じなかったが、このクラスや教室を離れることを寂しいと感じている自分がいることに、アリシアは驚いた。

泣くほど悲しいというわけではないが、もうここに来ることがないのかと考えると複雑な気分で、同時にまたここに来ることができたら足を運んでみたいとも考えていた。


しばらく教室で待機していると、卒業パーティの準備ができたという連絡が伝えられた。

もうこの教室には戻ってこないので、忘れ物をしないようにという。

準備のための人払いだけではなく、忘れ物を確認し、持ち出す機会を与えられたということのようだった。

念のため全員で教室内を確認し、忘れ物がないことを確認すると、再び全員がホールに移動することになった。

最後に出たアリシアは、ドアを閉めるために教室の方を振り返った。


「お世話になりました」


教室全体を眺めてからぽつりとつぶやくと、静かにドアを閉め教室に背を向けると他の生徒たちの後を追うのだった。



パーティは立食形式で準備されていた。

終了の時間は決まっているが、パーティの時間内は出入りが自由で、食事を済ませて校内を見て回ったりすることに時間を使ってもいいと説明された。

一応ダンスなどの時間も設けられているということで、貴族コースの人たちは身分を気にせずダンスを楽しめる最後の機会としてほとんどの人がホールから出ないというが、アリシアはどうしても足を運んでおきたいところがあると、席を外すことにした。


アリシアが向かったのは図書室である。

幸い卒業式の日でも図書室は通常通り開いていた。

向かったのはお世話になった妖精のところである。


「こんにちは」

「あ、今日はどうしたのー?ドレスなんだねー」


今日も古書の確認をしながらふわふわと動き回っている妖精たちは今日もいつも通りのようだった。


「卒業式なのよ」

「そっかー。じゃあ、もうあんまり会えなくなっちゃうね」

「ええ、だから、どうしてもお礼を言いたくて」

「お礼?なんかしたっけ?……まあいいや。また遊びに来てよ。卒業生なら受付で手続きすれば、図書室はいつでも利用できるからさ」

「そうなの?」


初等学校は学生でなければ保護者も中には入れなかったし、上級学校も卒業したら中に入るのが難しいと思っていたアリシアは驚いて聞いた。


「そうだよー。みんな卒業したら来なくなっちゃうけどね。まあ、人間と話すことは滅多にないから、よく来ていた人がいつの間にかいなくなっちゃうって感じだけど」

「領地が遠い人もいるし、お仕事が忙しくなる人もいるからかもしれないわね。外出が許されるようになったらまた来たいと思うわ。いいかしら?」

「もちろんだよ。待ってるね」


アリシアはまた来られると聞いて、別れを惜しんでゆっくりする必要を感じなくなり、図書室を出ることにした。

制度が変わっていないか図書室の受付に確認すると、卒業生であれば今後も利用可能であると、妖精と同じ答えが返ってきた。

その後アリシアはダンスなどをするつもりがなかったため、ホールに戻って壁の花に徹することにしたのだった。

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