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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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謁見

植物園の温室にあるテラスで充分な休憩を取った後、少し暖かくなった温室の外へ散策に向かうことにした。


「冬だから花も咲いていないし、あまり外の植物を見ている人は少ないけど、いいの?」


フランツは温室だけを見せようとしていたようだったが、せっかく来たのだからとアリシアの希望で外をあることになったのである。

芝生の間に小石を敷き詰めて作られた道をたどっていくと、寒さに耐えながら立つ低木や、弦を巻きつけて立つ植物を見て回った。

各植物の前には、それぞれ説明書きがあり、アリシアはそれを真剣に読みながら、植物と説明書きを見比べていることが多かった。


「もう新芽が出ているものもありますから、春ももうすぐですね」


新芽を見つけて笑顔を見せるアリシアに温かいものを感じながら、フランツは彼女の隣を歩いていた。

同時に、やはり彼女と自然は切っても切り離せないのではないかと少し不安も感じることになったのだった。



植物園の温室も外も堪能した二人は再び馬車に乗り込むと昼食を取るため場所を移動することになった。


「実は……」


馬車に乗り込んでからフランツは、今日の予定を伝えなかった理由について説明を始めた。


「お昼は王宮に用意しているんだ。だから、この馬車は王宮に向かっている」

「え……?」


アリシアが目線を下げて、自分の服に目をやったことに気が付いたフランツは続ける。


「もし、服装のことを気にしているなら、それは気にする必要はないですよ。街に行ったついでに寄るだけですから。それに最初からこの話をしていたら、せっかくのお出かけが楽しくないものになってしまうと思ったんだ」

「……」


いくら実家で数日共に過ごしたとはいえ、彼が王族であるという意識はしっかりある。

確かにフランツの言う通りなのだが、その意識からアリシアにはフランツと出かけることを心から楽しめるほどの余裕はなかった。

それでも王宮に行くとなれば服装もきちんとしなければならないだろうし、行く前から気疲れしていたのも間違いない。

黙り込んでしまったアリシアを見て、フランツは気まずそうにしていたが、馬車はすぐに王宮に到着し、止まった。


「まずは二人でお食事をしましょう」


先に降りたフランツに手をひかれ、馬車から下りたアリシアは、困惑しながらも貴族の笑みを浮かべて対応するのだった。



食事を終えたアリシアはフランツに付いていくと、王宮内の一室に通された。

言われるがまま中に入り、しばらくすると男性が数名、部屋の中に入ってきた。

最後に入ってきた男性は姿を確認するとフランツに迷わず声をかける。


「ああ、来たな」

「父上」


そのやり取りで最後に入ってきたのがこの国の王であることを理解した。


「へ……陛下?」


アリシアは初めて立ち入ったがこの部屋は謁見に使われる部屋だったのだ。

礼をしたまま頭を上げられないアリシアを座ったまま見ていた国王は、穏やかな笑みを浮かべながら頭を上げるよう促した。


「突然呼びだして驚かせてしまったようだね」

「いいえ……。光栄です」


意図が見えないため、アリシアはなんとなく探るような返事を返しつつ、じっと国王の表情を観察していた。

敵意は感じないが感情も読めない、にこやかな表情を貼り付けている様子は、まさに完璧な貴族の見本のような印象を受けた。

その周囲に立つ人たちは無表情で、やはり感情は読み取れないが、常に周りを警戒しているためか張りつめた空気を醸し出していた。

国王の周りに控える男たちもアリシアから目を離すことはなかったため、アリシアがそちらに目を向けると目があってしまう。


そんな緊迫した空気を穏やかな声で打ち破ったのは、国王だった。


「この春に行われる最初の行事で君たちの婚約を発表してしまうつもりだ」

「はい」


フランツは心から喜びを示したが、アリシアは動揺を隠せずにいた。

驚いて声は出せなかったものの、ただ黙って首を縦に振っていた。


「話は以上だ。もし時間があるならフランツとお茶でもしながらゆっくりしていくといい」


国王はそう言い残すと席を立ち、一緒に付いてきた男たちを連れて謁見の間を後にした。

忙しい中、この話をするためだけにここに現れたのだろう。

礼をして退出を見送った後、フランツに促されてアリシアは謁見の間を後にすることになった。


「ごめんなさい。頭では分かっているのだけれど、気持ちが追いついていなくて……」


つい先日、帰郷した際に起こった出来事ですら、夢ではないかと思ってしまうくらいなのに、婚約の条件が整って真相を知らされた途端動き出したことに驚きを隠せない。

王族の方々は知っていたとはいえ、側近たちすら知らなかったはずのことだ。

それなのにこんなに早く準備が進むということは、それだけ負担をかけているということになるのではないか。


「あの、春に発表……というのは」

「ああ、そうだね。ちゃんと説明するからもう少しお茶にお付き合いいただいていいかな」

「はい」



歩きながら話をしているうちに到着したのは応接室だった。

すでに準備が進められていたのか、腰を下ろすとすぐにお茶と焼き菓子が目の前に置かれた。

その手際の良さに驚きつつも、アリシアはお茶に口をつけてから言った。


「婚約はそんなに急がなければならないものだったのですか?」

「まあ、婚約期間というものをきちんと設けることを考えたら早い方がありがたいかな。アリシアには卒業したらすぐに王妃教育を受けてもらうことになるし……」


本当はアリシアの上級学校卒業を待って発表でも国としては問題なかった。

しかし、ここで焦ったのはフランツだ。

今は近くにいる男性の影は見えないが、今後はどうなるか分からない。

このままにしておいてはアリシアが研究所に取られてしまうことも考えられる。

それらを避けるため、決定したのだから今すぐに、特に研究所の件を強調して国王に計らいを求めたのだ。

すべてを伝える必要はない。

伝えた内容に嘘がなければ問題ないだろう。


「王妃教育ですか?」


フランツは第二王子である。

第一継承権の持つ第一王子であるフランツの兄は留学中とはいえ、いずれこの国に戻ってくる。

アリシアには王妃教育が必要になるという理由がわからなかった。


「うん。理由はいくつかあるけど、結婚するから王妃のように振る舞ってほしいということではないんだ。ただ、兄と結婚する人はそのように振る舞う必要があるからサポートしてほしいと思う。その態度や判断に理解を示してほしいとも思う。そして僕もそのような教育の中で育ったから、それを知ってほしい。あとは……、王位継承順が変わることはあるかもしれないけど、そこは気にしなくていいから」


フランツの最後に言った理由が一番なのかもしれない。

王位継承順が変わる、それを具体的に示すと不敬になる可能性があるため彼でも口にはできないのだろう。

気にしなくていいと言われたが、本当に王族の一員になるということが、どれだけ大変なことなのか、改めて考えなければならないとアリシアは思った。


「わかりました」


これ以上、深く聞くのはよくない。

フランツは婚約に関しては一応拒否権もあると言っていた。

しかし、その話を聞く前に進めていいと父に伝えたのはアリシア自身だ。

身につけなければならないものがあるのなら、それをこなすところから始めるしかない。


この話が終わる頃になると、ちょうど日が傾き始める時間になっていた。

春が近いとはいえ、この時期はまだまだ日が落ちるのが早い。


「そろそろ送りましょう」


フランツはそう声をかけた。

フランツとしては名残惜しいが、彼女に付きあってもらうのは夕方まで、という約束は守るつもりだ。

彼は入口に用意されていた馬車のアリシアと一緒に乗り込んだ。

フランツからすると少しでも一緒にいる時間を作りたかっただけだったが、アリシアは驚いていた。

お茶会の時のように入口まで送られるだけだと思っていたのである。

そんな彼女の動揺は誰にも汲み取られることなく、馬車はフランツを乗せたまま出発した。


アリシアが何も言わないことをいいことに、フランツは向かい側の席に座ってじっと彼女を見つめていた。

アリシアは、途中でフランツの視線に気が付くと黙ってうつむいてしまったが、それでもよかった。

結局、王宮からの帰路は距離が短いこともあり、ほとんど会話をすることはできず残念な思いもあったが、フランツは彼女を寄宿舎の前まで送り届けると、役目を終えたと安堵の表情を浮かべて王宮まで戻っていったのだった。

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