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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王都植物園

春の休みも間もなく終わろうとしている頃、寄宿舎にいるアリシアのもとにフランツから手紙が届いた。

受付で手紙を受け取ったアリシアは部屋に戻ってすぐに手紙を開封して内容を確認する。

手紙は辺境領でのお礼に始まり、外出のお誘い、そして最後には今後の予定が記載されていた。


「本当にお誘いが来るなんて……」


一通り目を通してため息まじりに言葉を吐き出したアリシアは、以前マリーに言われたことを思い出していた。

以前は直接的な誘いではなく、参加するお茶会や夜会のことだけが書かれていた。

マリーに手紙の話をした際に、アリシアの予定が知りたいのではないかと言っていたが、直接お誘いが書かれているこの手紙にも、変わらず今後の予定が記載されていた。

そして、アリシアがフランツと同じ催しに参加すると言ったら迎えにくるのでは、という話も、この立場になると現実味を帯びてしまい、アリシアは返事に悩むことになった。

結局、直接受けたお誘いには喜んでお受けしますと、予定に関しては残念ながら参加するものはありませんと返すことにして、筆を走らせるのだった。



お誘いの当日、幸いにも晴天で絶好のお出かけ日和となった。

準備を早めに終えて部屋で待機していたアリシアが窓の外をずっと眺めていると、寄宿舎に王族の馬車が乗りつけようとしているのがわかった。

校門からこちらに向かってくる馬車を見つけて入口で待機するため、慌てて部屋を出た。


「本日はお誘いいただきましてありがとうございます」


何とか馬車の到着より早く入口でお迎えをしたアリシアが声をかけた。

動きやすい服装を考えて今日のアリシアはドレスではなくワンピースにローヒールの靴を選択していたため、寄宿舎内をスムーズに移動することができたのだ。


「待たせてしまったかな?さあ、乗って」


フランツは扉を開けて、身軽に馬車から飛び降りると、アリシアの前に立つなり、手を差し出してそう言った。


「は、はい……」


おずおずとその手を取ると、アリシアもふわりと馬車に乗った。

馬車は二人が乗るのを確認するとすぐに出発した。


「アリシアは僕の助けがなくても馬車に乗れそうだね」


馬車に乗り込む様子をしっかりと観察していたフランツは言った。

儚げな真相の令嬢を思わせるアリシアを目の前にするたびに、どうしても手を差し伸べたくなるのだが、本当は不要なのかもしれない。


「お恥ずかしい話ですが、一人でも乗ることはできます。あと、今日はドレスではないので、靴もそれに合わせて動きやすいものですから」

「そうか……乗馬もするんだから、そうだよね……。でも、一緒にいる時はできるだけエスコートさせてほしい……」


フランツは自分を納得させるように、そして、できるだけアリシアに頼ってもらえるようにと願いを込めた。

そして、思い出したかのように言った。


「そういえば、お出かけとしか伝えてなかったよね。今日は最初に植物園に行って、それから一緒に昼食を取った後、遅くても夕方までに寄宿舎まで送って行こうと思っているんだけど、大丈夫だった?」

「はい。本日は一日空けていますから、……よろしくおねがいします」


アリシアは礼をして頭を上げると、微笑みを返したのだった。



寄宿舎を出てほどなく、目的地である植物園に到着した。

植物園は人が簡単には登れないような高い柵で覆われていた。

入口は柵に設けられた門のところにあり、そこでチェックを受けて入場する仕組みである。

門をくぐるとすぐにそこに広がる光景に目を奪われた。


「思っていたより広いのですね。植物園はこのガラスの建物だけだと思っていました」


一面通路以外の場所は緑の芝生で覆われていた。

芝生の所々に低木が植えられており、視界を邪魔するものが少ないためか植物園を一望できる。

休憩する場所となっているのか東屋や売店のような建物と、奥にはガラス張りの温室が見える。

緑の芝が生育するには季節がまだ少し早いはずだが、すでにこの場所の芝は青々としている。


「アリシアはここには来たことないの?」

「はい……」

「レポートにあれだけ森の植物について詳細を書いているから、ここにも来ているかと思ってた」

「見晴らしの良い場所から王都を観察したのですが、探している木々は見つからなかったので諦めたのです」

「なるほどね。今日は勉強じゃないからゆっくりしよう。まだ少し寒いから温室に行こうか」


フランツに促されるまま、二人は奥に見えるガラス張りの温室に向かって歩き始めた。


フランツが温室の扉を開けると、暖かい空気が外に溢れだした。


「どうぞ」


扉を押さえているフランツに促されたアリシアは、急いで中に足を踏み入れた。

温室は暖かいだけではなく、天井が吹き抜けのように高く開放的な空間だった。

天井まで一面ガラス張りとなっているが、背の高い南国の木などもあるため、所々に日陰ができている。

周囲にはいくつか階段があり、階段を上った先にはバルコニーのようにせり出しているテラスとなっていた。

そこは自由に利用することができるということで、休憩や歓談を楽しめるよう配慮が感じられた。



中の植物を歩いてみて回った二人は、フランツに誘われてテラスを利用することになった。

前もって予定されていたのか、テーブルにつくなり、二人の前にはお茶が用意された。


「あのさ、前にお茶の席で言ってたロビンソンのこと、少し教えてくれないかな」


落ち着いたところで急にロビンソンの話を振られたアリシアは困惑しながらも答えた。


「ロビンソン様ですか……?アレク様がずっとご一緒でしたから、アレク様にお伺いした方が……」

「ああ、素性を知りたいわけではないのです。何というか、印象みたいなものを聞かせてほしいと思いまして」

「そうですか……。実はあまりお話ししたことがないので、わからないのです。ご本人から詳しい個人の話は伺っていませんし。王都から来た留学生ということでしたけど……」


アリシアはフランツから植物の方に目を移しながら言った。


「そういえば、この植物園のことはお話しされていましたね」

「ここの話?」


フランツはアリシアとの会話で、この場所の話をしたという情報を頭の中で探しながらアリシアに続きを促した。


「私がきちんと会話をしたのは一度だけでしたけど、お話しした場所が初等学校にある温室で、王都では植物を見るなら植物園と言っていらして……」

「……そうだね。確かにそうだけど、なんでその話が印象に残っているの?」


フランツは温室での話を思い出しながら、誤ってそれを口に出さないように無難な質問を投げた。


「森の辺境領では、森に行けばいくらでも自然の植物に触れられますから、わざわざ植物を見るためだけに植物園に行かなくてはいけないということが、ここにくるまで不思議だったのです」

「ああ、そういうことか」


住んでいる環境が違えば感じ方も違うということだとフランツは理解した。

そして同時に少し不安を覚えた。

彼女は家を飛び出した時も森に入っていた。

初等学校で目撃した時も植物のある温室や、動物と触れ合える芝生の上にいた。

妖精や動物たちがいるからというだけの理由ではなく、彼女自身、自然が好きなのではないか。

領地から遠いこの地は、彼らとも実家とも交流が取りにくい。

さらに王都周辺は開発が進んでいるため自然が失われている。


「アリシアにとって、自然の少ない王都での生活は窮屈ですか?」


わざわざチケットを購入して植物園まで来なければ自然に触れ合えないのは、彼女にとって辛いのではないかと考えた。


「最初は自然に触れられないことがストレスでしたけど、学校に通っているうちに慣れました。新しい友人もできましたし……」


アリシアは最後の言葉を濁した。

図書室や教会にも住んでいる子がいたし、寄宿舎の前には馬もいる。

王宮の庭には妖精もいるようだし、きっと彼らと交流が持てれば、森の家族のことも教えてもらえるようになるかもしれない。

たまに実家に帰ることができれば森に行きたいと思っているが、森に行く理由が、森の家族との交流で、それができないから寂しいということは言えない。


「これから、この街が生活の拠点になります。不便なことや、窮屈なことがあったら言ってください。できるだけ改善します」


フランツの声で現実に引き戻されたアリシアは、


「ありがとうございます。気が付いたことがあったら伝えますね」


と、心遣いに感謝する言葉を述べた。

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