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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王都への帰り道

書簡を受け取って夕方まで読み続けたアリシアだったが、昼食も食べていないことから夕食には来るようにとアニーに言われ、書簡を引き出しにしまい食堂に移動することとなった。

食堂にはアリシア以外の面々がすでに席についており、その中にはやはりすっかり馴染んでいるフランツの姿があった。

特に懐いているのは妹で、しっかりとお兄しゃまと呼び、隣の席を確保していた。


「お姉しゃまはお仕事してるとお嫁さんになれないの?」


アリシアが森に逃げ込んだ一件については、アリシアが仕事をするのを反対されて出ていったという説明になったらしく、妹が果敢にもフランツに疑問を投げかけていた。


「お姉しゃまはお勉強すごくできるのよ?お父しゃまはお姉しゃまが何でもできるようにお勉強しなさいって厳しくしたって言ってたわ。たくさん頑張ったのにお仕事はできないの?」


ちょうどメインディッシュが運ばれてくるのを眺めながらフランツは聞いた。


「君はお肉とお魚を一緒に食べる?」

「いいえ、食べないわ」

「じゃあ、パンとスープだったら?」

「それなら一緒に食べるわ」


素直に答える彼女に、できるだけわかるようにとフランツは説明を続けた。


「もし、お肉とお魚が一緒に出たらどちらかを選ばないといけない。でもパンとスープなら一緒に出てきてもいいよね。でもお食事はパンとスープだけじゃないから、それでおなかがいっぱいにならないようにして、最後まで全部食べられるように、食べる量を調節しないといけないね」

「残すのはよくないわ」

「食事に例えるなら、お仕事をする人と私のお嫁さんは、一度の食事でお肉とお魚を全部食べるのと同じくらい大変なことで、同時にやることは難しいんだよ。だから、どちらかを選ばないといけないんだ。そして、できればアリシアには僕のお嫁さんを選んでほしいなと思っているよ」

「フランツ様……?」


自分の名前が聞こえたため思わず口を挟んだアリシアにも、フランツは、


「僕はメニューに載せてもらうために、これはおいしいですよって薦めているところだと思っていただければ」


食事を口に運びながらも慈愛の笑みを崩さず、さらっと言葉を放つ。


「お姉しゃまがお嫁さんになるなら、お勉強たくさんしなくてもよかったの?お父しゃま、お姉しゃまになんで厳しくしたの?」

「それはだな……」


見かねた父親が口を挟もうとするがそれを制してフランツが続けた。


「食事も同じものだけ食べていると体に良くないから、いろんなものを食べないといけないよね。大人になるために必要なことが、バランスよくできるようになるのも同じだよ。お食事は料理人がバランスを考えてくれているけど、自分のことは自分でバランスが取れるようにならないといけない。でも最初から自分でやるのは難しいから、ご両親や学校の先生が必要なことを教えてくれるんだ。それはお仕事をすることになっても、お嫁さんになってもできないといけないことなんだよ」

「じゃあ、お姉しゃまが頑張ったのは役に立つの?」

「もちろん。アリシアはたくさん勉強してくれているから、僕はとても助かるんだよ。それにアリシアが勉強したことは僕だけじゃなくて、この国の人たちの役に立つんだ。とてもすごいことなんだよ」


フランツが話し終えると、妹はきらきらとした目をして何度もうなずいていた。


「やっぱりお姉しゃまはすごいのですね」


ふふふっ、と嬉しそうに笑いながら体の向きをテーブルに戻して妹は食事をはじめた。

こうしてこの日の夕食の時間はあっと言う間に過ぎていったのだった。



アリシアはフランツの用意した馬車で王都に戻ることになった。

前日に到着し、当日は家の前に用意された馬車だが、自分が乗ることになるとは考えていなかった。

アリシアの借りた馬とフランツの馬は、馬車で来た騎士が乗り、一緒に連れて帰ると説明された。

家族に挨拶を済ませ出発を決めると、フランツがスマートに手を差し出した。


「……ありがとうございます」


手を借りずとも乗れるのだが、淑女としてこのエスコートに甘える形で馬車に乗り込んだ。

馬車には二人しか乗っていない。

横には二人の騎士が付き、あとは御者がいるだけだ。

しかし、行きは御者と二人、帰省も一人でこなしたアリシアからしてみれば、違和感がある。


「あの……殿下がいますから仕方ないのかもしれませんが、物々しい感じがしますね」

「これでも最低限の人数なんだ」

「そうでしたか……」

「これからはアリシアの周りにも人を置くことになる。常に見張られていて気分の良いものではないと思うが、これから慣れてもらわなくてはならない」

「わかりました」


会話が終わると二人は窓の外に目を向けた。

しばらく会話はなかったが、ふとフランツが思いを口にした。


「あの、アリシア。本当に良かったの?」

「……なんの話でしょうか?」

「いや、婚約の件だけど」

「はい。物心ついた時から、結婚は選べないものと言われていましたから」

「それでも……」


君に思う相手はいなかったのか、とは続けられなかった。

いたらどうするつもりなのだ。

それでもこの婚約を受け入れた彼女に何て言うのだ。

もし、いたと知ったところで自分に身を引く覚悟はあるのか。

フランツが一人で葛藤していると、アリシアからすぐに答えが返ってきた。


「思いを寄せる方はいませんでしたし、そういう方がいても結ばれないとわかっていましたから、そのような関係になる方を作ることも考えませんでした。私にとっての婚姻は始めから決められたものでしたから」


フランツはその答えに安堵したが、同時に不安も覚えた。

彼女は相手が好ましくなくても、そういうものだと受け入れるということだ。

これでは自分がどう思われているかわからないし、婚約する相手だと知られてしまった以上、例え好ましくないとしても、彼女はそうは言わないだろう。

悶々としながらも話題を変えることにする。


「そうか。ところで……アリシアは休みの日は何をしているのか聞いてもいいかな。ずっと気になっていたんだ」


手紙には当たり障りのない返事しかなく、彼女自身の情報があまりにも少なかった。

もし見知らぬ婚約者に気を使っただけなら聞いてもいいだろう。


「そうですね……部屋にいたり、街に出たり、図書室に行ったりして過ごしています」

「あのさ、もう誘ってもいいよね?」

「え……?」

「休みの日に一緒に出掛けたりできませんか?」

「あ……はい。大丈夫です」

「うん。そうか。よかった」


馬車移動の初日はお誘いと世間話で過ぎていった。


その日の夕方、街にある王族の別宅に宿泊し、翌日も朝から馬車に揺られることになった。

別宅での生活は宿に泊まっている状態に近く、食事の提供を受けた後、用意された客室で一人ゆっくりとくつろぐことができた。


翌朝、出発の際に馬車の横につく騎士と馬が変わっていることに気が付いたアリシアは、馬車が動き出してからフランツにそれとなく尋ねた。

アリシアとフランツの馬に乗った騎士は別宅に宿泊せず、そのまま王都に戻り、騎士と馬は王都から交代でここまで来たのだという。

結局森の辺境領を出てから二日、彼らは工程通り王都に戻ることができたのだった。



アリシアは一度寄宿舎に戻って荷物を置いてから、騎士コースの馬舎に向かった。


「いやぁ、王宮の騎士が連れてきたから驚いたよ」

「すみませんでした……色々あって」


自分で返しに来れなかったことを謝罪する前に飼育員から話しかけられた。


「まあ、騎士が連れてくるくらいだから、よっぽどなんだろう。わざわざ足を運んでくれて申し訳ないくらいだ。無事に帰ってきたし問題ないよ」

「あの、あの馬のところに行きたいのですが……」

「ああ、構わないが……臭いとかきついが大丈夫か?」

「ええ、うちにも馬小屋がありますから、環境に関して気にしません。すぐに出てきますから」


アリシアが言うと、彼は戻った馬の場所を教えて仕事に戻っていった。

彼が少し離れたのを見計らって、彼女は馬に小さな声で話しかけた。


「大変だったわよね。ありがとう」


そう言って鼻の頭をなでてやると、大丈夫だという意思を表すようにその手に擦り付けるように首を振った。

帰りも無理はさせられなかったようで、比較的元気そうな姿を見て安心したアリシアは、中に通してくれた飼育員にお礼を言うと、寄宿舎へと戻った。

そして部屋に戻り、体をベッドに横たえると、翌朝までぐっすりと寝てしまったのだった。

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