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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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泉の女神

翌朝、フランツは日が昇る直前に静かに屋敷を抜け出した。

太陽は出ておらず空気は冷たいが、すでに東の空は赤みを帯びて周囲は明りがなくても歩ける状態である。

澄んだ空気の中、静まり返った街を背に森に向かう。

行き先はアリシアが意識をなくしているのを見つけた泉だ。

そして一緒に連れていくのは護衛ではなくエルである。


昨日、夜になってもアリシアは目を覚ますことがなかった。

熱があったり、呼吸が乱れたりしているという様子は見られない。

ただ、目を覚ますことなくずっと睡眠を取り続けているという状態なのである。

健康状態に問題はないと医師が判断する状態で目を覚まさないのはさすがにおかしい。

このまま寝たきりで飲食をしない状態が続けば、体力がなくなり弱ってしまう。

そこで、意識を失くす前に一緒にいた森の者に解決策を教えてもらうことにしたのである。



フランツは先日歩いた道を思い出しながら森の中を進んだ。

幸い間違えることなく泉に来ることができたが、ここに来るまでに妖精や動物を見かけることはなかった。


「時間が早かったのか?随分と静かだな」

「うーん。特に用事がないから出てこないだけのような気がするけどな。ちょっと見てくるよ」


エルはそう言って泉の周りを偵察に行った。

フランツは泉の近くの草の上に座ってエルが戻るのを待つことにする。

彼が座ったのはアリシアが泉を眺めていた位置の近くだった。

ここで彼女は何を見ていたのだろうか……?

フランツは座ったまま辺りを見回した。

そして最後に泉の水面をじっと見つめた。

泉は透明な水をたたえていて美しいが、底が見えなかった。

どれだけ深いのか、遮るものがあるのかは分からない。

覗き込めば鏡のように空と自分の姿を映し出す。



しばらく泉を覗き込んでいると、風もないのに水面が揺れた。

魚でもいるのだろうかと顔を上げると、そこに人のような姿をした白いものが立っていた。

白いものはふわふわと上下に揺れており、足の部分が水面に触れると、底から波紋が広がった。


「あなたは人間の王なのですね」


女性の柔らかい声のような音で白いものがフランツに話しかけた。


「王ではない。王の子だ」


フランツは事実を簡潔に答えた。

まだエルが戻っていない。

目の前に見えている白いものの素性がわからない以上余計なことは言わない方がいいだろう。


「あなたは何をしにここへいらしたのでしょう?」

「昨日ここにいた女性の意識が戻らない。原因を調べに来た」


質問は続く。


「そうですか。あなたはアリシアとどういう関係なのでしょう?あの子のために森に入る人間はそういないと思うのですけれど?」

「彼女は……私の婚約者だ」

「では、あなたが昨日アリシアを連れて森を出た人間なのですね」

「そうだ」

「あなたはこの森をどうするつもりですか?」

「どうするとは……?何もするつもりはありませんが……」

「わかりました」


そんな問答をしているうちにエルが戻ってきた。


「……あれ、泉の女神じゃん。人間の前に出てくるなんて珍しいね!」


フランツに声を掛ける前に女神の姿を見つけたエルは彼女に近づいていった。


「エルですか。エルは今、王の子についているのですね」

「そうだよ。王族担当だからね」


古くから生きている者同士、再開の挨拶を交わしていたが、そこにフランツが割って入った。


「アリシアはここに何をしに来ていたのか、教えてほしい」

「それはできません。あの子がそれを望むとは思えませんから」

「では、この森とアリシアの関係を教えてほしい」

「ああ、そうですね。あの子は私たちのことを家族だと言っていましたよ」

「家族……ですか」

「ええ、自分以外に認識されない私たちのことを友人であり家族であると。あの子は人間には好かれていないようでしたし。私たちはあの子のことを幼いころから見守ってきましたから、森の者から見てもあの子は家族同然です。あの子に危害を加える者がいるなら、相手を害しても守ることを厭わない」


フランツはその話を聞いて思い出した。

彼女が初等学校の中庭で動物に助けられていたことを。


「つまり、森の者はアリシアに危害を加えないし、アリシアに危害を加えようとするものから守りたいと考えているということですね」

「その通りです。森は彼女を愛しています」


フランツはそこまで聞いて、泉の女神を信用することにした。



「ところで、彼女が昨日から目を覚まさないのだが、それは森と関係あるのか」

「そうですね。もしかしたら会話しすぎたのかもしれません」

「精神を磨耗したということだろうか」

「そうですね」


自分がエルと会話ができるようになった時、ノイローゼになりかけた。

それ以外にも精神的な……というか、脳の疲労が酷かったのだ。


「以前にも彼女はそういうことがあったのか?」

「意識が遠のきかけたことはありますよ。その時は意識がなくなる前に薬草を飲ませて意識を手放さないようにしていたので」

「そうか……」


精神はすり減るものの、動物や妖精などの話せる相手がいたからこそ、病むことなく今まで生活をすることができたのだろう。

アリシアは彼らと話すために人目のないところ、地図にない人間の立ち入らない場所としてここを選んだのかもしれない。

この女神もきっとアリシアの良き相談相手だったのだろう。


「自然に目が覚めないようなら、薬草を使ったほうがいいかもしれませんね。使い方をお教えしましょう」

「ありがとうございます」

「まず、使うときに水滴が薄いピンクのものを使います。青いものは穢れが入っているので使いません」


示された方向にある草は朝露がついて輝いていた。

よく見ると水がピンクのものと青のものがある。


「本当は採った葉をすぐ強く噛んで飲み込むのが一番いいのです。採取してから時間が経つと、成分が変化したり穢れたりしてしまうので、使う直前に水につけて、水の色を確認してください」


ここに生育している草は初めて見るものだ。

おそらく毒にも薬にもなるのだろう。

フランツは確認するとしっかりうなずいた。


「効果は落ちますが、色のついた水でも効果がありますので、飲ませてみるといいでしょう。その際は葉をつぶす必要はありません。いくつか持って帰るといいでしょう」

「あと、使うのは本当に目を覚まさない場合だけにしたほうがいいですね。刺激がかなり強いので、本来はあまり使うことをおすすめできないものですから」

「わかりました」


フランツは女神に教えられた薬の中から水滴がピンクのものを採取し、水滴を落として鞄の中に入れていった。

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