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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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正式な申し入れ

翌日、クレメンテをはじめ、多くの人にアリシアの介抱に尽力したことを感謝されて朝を迎えたフランツは、アニーの気遣いで部屋に運ばれてきた朝食を食べていた。

“お疲れが取れたようでしたら昼食はご一緒にいかがでしょうか”というお誘いのメッセージも添えられていて、彼女の心配りが感じられた。


フランツはアニーの誘いに応じて、昼食を領主一家と共にすることにした。

アリシアはよほど体力を消耗しているのか、昼食にも顔を見せなかった。

聞くところによると、眠ったまま一度も起きていないという。

しかし、顔色が良くなっていることと、呼吸も安定していることから、一日ゆっくり寝かせて様子を見るということになったらしい。


「フランツ様、この度は本当にありがとうございました。本当でしたら昨日訪ねてくださった時にご用件をお伺いしなければならなかったのですが、家のことに巻きこんでしまいまして……」


改めて謝罪するクレメンテに、フランツは本来の目的を告げなければならないことを思い出した。

忘れていたわけではないが、アリシアの体調が気がかりで後回しにしてしまったのである。


「大切なお話しなので、別の場所でお時間を取ってもらいたいのですが」

「執務室でよろしいでしょうか」

「そうですね。その方が話しやすいでしょう」


クレメンテは、フランツが何を切り出すのか分かってしまった。

だからこそ一番声の漏れない別の場所として執務室を選択したのだ。

どうやらその選択は間違っていなかったようで、食事の後、二人はすぐに執務室に移動することになった。


「申し訳ないが、この後は二人にしてもらえないか。子どもたちも部屋から出さないようにしてくれ」


思いつめたような声で、そう妻に指示を出し、執務室には近づかないように注意を促した。


「わかりましたわ」


アニーも察したのか表情を繕って返事をすると、子どもたちを部屋に連れていくため席を立った。



しばらくすると、それぞれの部屋のドアの閉まる音がして、外が静かになった。

執務室の中も人払いがされているためとても静かだ。

フランツは念のためエルに回りを確認させて、誰にも聞かれていないことがわかったところで話し始めた。


「今回の件、アリシア嬢が何かを隠しているようですが、彼女が隠している内容についてご存知のことをお話ください」


フランツがクレメンテに静かに問う。


「隠しているとは……?」


心当たりがないため、クレメンテは首をかしげるしかない。

フランツは表現を変えて再び質問した。


「では、アリシアはなぜ森に身を置こうとしたのか心当たりはありませんか?彼女は何を頼りに生きていくつもりだったのでしょう」

「正直なところ、私にも解りかねるのですが……」

「彼女は森で暮らすと言ったのですよね?」

「そうですが、野宿などはさせたことがありませんし、多少の護身術は学ばせましたが、武術や狩りを学ばせたりさせたことはありません。あの子がどのように生活をするつもりだったのかは見当もつかないのです」


クレメンテはそこまで話してふと昔の話を思い出した。


「ただ……」

「ただ?」

「幼いことに少し変わったことを言うことがありました」


伝えるべきか悩むところだが、過去のことだし今はそのようなことを言わなくなったのだから、もういいだろう。


「どのようなことでしょうか」


フランツもしっかりと話を聞く姿勢を取る。


「妖精や動物と話ができるとか……。実は妖精や動物に教えてもらったとアリシアが持ってくる未開の土地の情報は正確なものばかりだったのですが、一方であの子はそのような場所に一人で入っても迷わず帰ってくるので、実際は自分の目で見たものなのではないかと……」

「なるほど。あなたはそれを否定したのですか?」

「否定と言いますか、アリシアには見えるかもしれないが他の人には見えないから、そのことは外では言わない方がいいと言い包めました。それ以降あの子はその話を一切しません」

「そうでしたか。わかりました。この話は頭の片隅に留めておきます」


指輪を受け継ぎエルと話ができない状態であれば、この話は子どもの妄想だと切り捨てただろう。

しかし、フランツは実際にエルという妖精と話ができるし、森にたくさんの妖精が住んでいるのをこの目で確認していた。

だからこそ、アリシアが言っていたことはすべて本当のことだったと確信が持てた。


「森のことを把握しているアリシアが、生活できるというのなら、おそらく本当に生活する方法を知っていたのでしょう。ただ、私が見つけた彼女は、自分を森に還そうとしているように見えたので、もしかしたら最初から元気に生活するということを考えていたわけではないのかもしれませんが……」

「まさか……」


人生を悲観して追い詰められた先にあるもの、クレメンテはそこに目を向けて青ざめた。


「あくまで可能性です。あなたが責任を感じる必要はありません。そうだとしたら、こちら側にも非があります」

「しかし……」


これ以上は本人のいない中で、彼女の感情がどうであったかという不毛なやり取りを続けても仕方がない。


「結論から申し上げましょう。私から正式に婚約の申し入れを行いたい。今回はそのために足を運んだのだ。彼女とあなたの意思を確認したい」


ついに核心の言葉をフランツは発した。


「私としてはもったいない良縁ですから承認するつもりです。アリシアは貴族の役目として話が進むのであれば、相手がだれであろうと受け入れると言っています。今回はいつ進展するか分からない不安をあの子が抱えたためにこのようなことになりましたが、先のことをもう少し具体的に話せるようになるならば問題はないでしょう」


クレメンテはアリシアが出ていく直前に確認した内容を含めて前向きに進める旨をフランツに伝えた。


「わかりました。念のためアリシアが目を覚ましたら本人の意思も確認させてください。それから、この先の話ですが……」


フランツは婚約の正式発表までは話を広めるべきではないと考えていた。

どこから漏れるのか分からないから、この家の人間であっても知る人間は最小限に留めたい。


「ところで、お子様方はこの話をどこまでご存知なのですか?」


フランツの問いにクレメンテが答えていく。


「子どもたちには何も話していません。アリシアに婚約者がいることも特に話していませんから、アリシアが話していない限り何も知らないかと」

「ちなみにご家族で王都に足を運んだことは?」

「王都に行ったことがあるのは、私と妻とアリシアだけです」

「わかりました。そうであればご子息とご令嬢は、私の立場を存じないということで間違いないですね」

「はい。王都にも連れて行く年齢ではございませんので、謁見もしておりません」


自分の立場が知られる前にアリシアの弟妹とは身分の隔たりなく、できるだけ親しくなっておこうとフランツは考えていた。

もし彼女の弟妹が自分を彼女の将来の伴侶として扱ってくれたら、彼女もそれを信じてくれるだろう。

そう、彼女を手に入れるための協力者として、彼らほど強い味方はいないのだ。


「じゃあ、こうしましょう」


フランツは家族に説明するための言い訳として、ほぼ現実に近いシナリオを提示することにした。


「私が王都でアリシア嬢に一目ぼれし、交際を申し込んだ。しかし、彼女にはなかなか良い返事をもらえないので、ここまで追いかけてきた。そして、私はアリシアの父親であるあなたを先に説得するために時間をもらった」

「それではお立場が……」

「いや、事実なので問題ない。現にアリシアは飛び出していってしまったし、そこは私の力不足で申し訳ないところではありますが」

「殿下の力不足などということはございません。娘が至らぬばっかりに……」


クレメンテの言葉に引っかかりを覚えたフランツは、一つ条件を付け加えることにした。


「ああ、殿下ではなくフランツでお願いします。貴族の男が求婚しに来た、と説明した方がいいでしょう」

「かしこまりました」

「とりあえずこの先については、あなたから良い返事をもらえた、という流れならありがたいのですが、急な話なので少し考えているという答えでよいかと思います」

「はい、そのように」


一通り必要なことを確認したフランツは仕切り直すことにした。

最後に大切なことを伝えなければならない。

これは王族としてではなく、個人として、一人の人間として、彼女の父親に聞いておいてもらいたいフランツの思いだ。


「それから……、私が婚約を解消しなかったのは王家のつながりのためではなく、私が彼女を本気で妻に迎えるつもりだからです。気に入らないのであれば、いくらでも解消する機会はありました。そちらにはなくても、こちらにはその権利がある。ですが、初めてお会いしてからも、今も、私はアリシアを愛おしいと思っています。ですから、私からは彼女を手放すようなことはできません」


フランツは一方的に話し終えると、まだ手元にあった婚約の申し入れ書をクレメンテに手渡した。


「娘をよろしくお願いします」


フランツの思いをしっかりと受け止めたクレメンテは、そういって頭を下げた。

そして娘の将来を決める大切な一枚の紙を大切に受け取りサインをすると、それを鍵の付いた引き出しにしまったのだった。

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