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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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捜索

クレメンテはフランツに事情を説明すべく執務室に案内することにした。

一度人払いを済ませていたが、新たな客人にお茶を用意するように指示を出し、準備ができると再び部屋から出るようにと言いつけ、離す準備を整えた。


「あの、殿下もまさかお一人で……」


アリシアのことがあったためクレメンテがフランツに確認した。

扉の前に一人で立っていたこともあり、まさかと思ったのだ。


「護衛たちには宿に行くように言いました。馬もいますからね」


フランツの答えはクレメンテの納得のいくものだった。


「そうでしたか」


とりあえず、フランツが一人で来たわけではないとわかるとそう答えた。

しかしフランツにとってはそんなことは重要ではないとばかりに早速用件を切り出す。


「何があったのですか」

「少々行き違いといいますか……」


クレメンテはアリシアが卒業後の進路について気にかけていること、婚約の話について煮え切らない態度を取らざるを得なかったクレメンテに対して思うところがあったようだということ、その結果、自分は政略結婚の道具でしかないと言い、飛び出して行ってしまったことを話した。

フランツからのお誘いや手紙に関して返事に困っているということはクレメンテの心に秘めておくことにした。


クレメンテがフランツと会話をしているうちに、執務室に夕日が差し込んできた。

あと一時間もしないうちに明かりのない森の中は真っ暗になってしまうだろう。


「彼女は戻ってきたのでしょうか?」


フランツがぽつりと言った。


「確認させます」


およそ話が終わったところだったため、クレメンテは人を呼び、アリシアが戻っているか確認するように伝えた。



「お嬢様はお戻りではないようです」


少しして状況を確認した執事がクレメンテに伝えた。


「そうか。わかった」


クレメンテは静かにそう言って執事を仕事に戻した。


「まだ戻っていないようです。ですが、暗くなることもわかっているでしょうから、時期に戻るでしょう」


クレメンテはフランツにそのように伝えた。

彼を宿に戻してから、一人で探しに行くつもりだったのだ。


「わかりました。とりあえず彼女を連れ戻しに行ってきます」

「それならば私も……」


まさか探しに行くと言い出すとは思わなかったクレメンテはとっさに同行を申し出た。


「あなた方は家に戻ってきた時のために、部屋を温めておいてあげてください」


しかし、それはフランツによってあっさりと拒否されてしまった。


「そうだ、もし持ち出してよければ彼女にかけるものをお借りできますか?この辺りは日が落ちると一気に冷え込むと記憶しています」


クレメンテは諦めたのか人を呼び、大判のブランケットを持ってくるように言いつけた。


「しかし、お一人で行かせるわけには」


探しに行きたい気持ちを悟られないよう言葉を選んでフランツに声をかけた。


「私は一人ではありませんからご心配には及びません。見つかったかどうかは定期的にこちらに戻って確認しますから、私を探しに使いを出す必要もありません」


フランツは一貫してクレメンテには家にいるようにと繰り返した。

しばらくして執務室に届いたブランケットを受け取ったフランツは、日の沈み始めた森に一人で向かっていくのだった。



「いいのか?一人で」


フランツが彼女を目で追いかけた時に吸い込まれていった森の入口に着くと、エルが話しかけてきた。


「エルや森と話しながら探したほうが効率がいい」

「やっぱりそっかー」


エルはアリシアが森に入ったのを確認すると、しばらくその後を追いかけて、フランツとは別行動をしていた。

体が小さくスピードが出ないエルは、走りっぱなしのアリシアに追いつけないまま見失ったらしい。


「で、どこまで追えたんだ?」

「うーんと、そのあたりの木のところまでは追いかけたよ。そこにいた妖精と話したけど、アリシアはお気に入りの泉があるみたいだからそこに行くんじゃないかって話だった」

「その場所はわかるのか?」


フランツはエルに道案内をされながら、薄暗くなってきた森の中を進んでいく。

薄暗い森の中を奥に進んでいくと、時折ふわふわとぼんやりとした光が漂うのが見えるようになった。


「エル、あの光は妖精たちなのか?」

「ほとんどそうだね。この森は妖精にとって住みやすいみたいだよ?」


フランツが尋ねると、エルが妖精と話した時に得た情報を教えてくれる。


「で、アリシアは……」

「ちょっと先に行って、あそこで聞いてくるよ」


エルは向かう先にいた妖精に話しかけていた。

エルが離れるとフランツの周りが少し暗くなる。

フランツは周囲を気にしながら、エルの向かった方に歩を進めた。



そんなことを繰り返していると、急に木がなくなり開けた場所に出た。

背の低い草の生える草原のような場所で、その奥には小さな泉が広がっていて、沈んだ太陽の変わりに月が水面に写っていた。

そして、泉の近くに座っている人影があるのを確認すると、フランツは迷わずに駆けつける。


「アリシア?」


ひざを抱えて座り込んでいるアリシアに声をかけてみるが返事はない。

そっと近づいてみると、少し呼吸が乱れているようだが、眠っているようだった。

その頬にはうっすらと涙のあとが残っている。

涙をぬぐおうと頬に触れると、ひどく冷たい。

そして、彼女は触れたのと反対側の芝生にそのまま倒れこんでしまった。

眠っているのではなくすでに意識を手放していたのである。

フランツが慌てて彼女の体を抱き寄せると、その体は完全に冷え切っていた。

そして、彼女の冷え切った体はフランツからも体温を奪っていく。

日の落ちた泉の近くの草原で、地面と水辺の冷たい風にあたりながら眠ってしまったのだろう。

帰りたくないと言っていたというのだから、彼女自身がこのままでいいと思ってそうしたのかもしれない。

フランツは自分の上着を羽織らせ、上からブランケットをかけた状態でアリシアを抱き上げると、彼女の家へと急いだ。



「申し訳ないが、このまま彼女の部屋まで上がらせていただきます」


森を抜けて領主邸までアリシアを抱えたまま戻ってきたフランツはそう言うと、近くにいた人間に部屋までの案内を頼んだ。

フランツは彼女をベッドに横たえると、さらに指示を出した。


「洗面器にお湯、湯浴みの温度くらいのものを。あと、タオルとお茶を入れる温度のお湯をポットに持ってきてください。あと女性で身の回りのことをお手伝いできる方に来てもらってください」


指示を受けた人間が慌ただしく動き始めた。

入れ違いにアリシアの両親が部屋に入ってくる。


「アリシア!」


アニーが冷たくなって意識のない娘に駆け寄った。


「勝手に指示を出しました。まずは彼女の体を温めて体温を戻さなければ危険です」

フランツはクレメンテに現状を伝えた。

「申し訳ない」


フランツに謝罪を述べると、


「アニー。アリシアについていてあげなさい。子どもたちは私が見ていよう」


そう言ってクレメンテはアリシアの部屋から退出した。

いつの間にかやってきて心配そうにドアに張り付いている子どもたちを引き離し、二人を抱えて別の部屋に連れていく。

その後も子どもたちは不安を和らげようと、自分を抱えた父親にしがみついて離れようとしなかった。



アリシアの部屋には、準備を整えた侍女たちが次々と頼まれたものを運び込み、フランツの指示で彼女の体を温め始めた。


「まずは体の先から温めていく。体に毛布をかけてこれ以上冷やさないようにして、手先と足先から温めたい。足は素足にしたいのだが、私がするのは気が引けるのでお願いしたい。タオルをお湯につけて温めて、手先と足先からゆっくりと温める。心臓の近くを温めたり、全身を一気に温めると心臓発作を起こして危険だから少しずつだ」

「はい!」


フランツは率先してタオルを取り、自ら洗面器に手を入れ、お湯でタオルを温めてからよく絞ると彼女の手をくるんだ。

そしてタオルが冷えてくると、また同じようにタオルを温めるところから繰り返す。

それを見ていたアニーが迷わず反対側の手を同じように温め始めた。

足元は侍女たちがまとっていた布を取り除き、遅れながらも同じように温め始める。

あまった人員は洗面器で冷めてしまった水を捨て、お湯と交換したり、いつでもお湯が使えるようにとお湯を沸かして準備したりしている。



どれくらい続けただろうか、徐々にアリシアの肌の血色がよくなっていくのを確認するとフランツは言った。


「そろそろ大丈夫でしょう。指先を温めるのは止めましょう。ここまでくれば少し多めに毛布をかけておけば体温で温まると思います。心配であれば交互に見回りに来て、汗をかくようであれば毛布の量を調整したり、冷えないようにしてあげるだけで充分でしょう」


フランツの発言を受けて、寝ずの番の侍女を交代で置くことに決めると、片付けるものを手にして一斉に部屋から退出した。



アニーはフランツにお礼を言うと、客室の用意ができているので泊まるようにと勧めた。

すでに宿も調べて連絡を入れているといい、必要であれば使いを出して近衛の人間も呼んでくるという。

この最中によくそこまで気が回るものだと驚くと共に、これがアリシアの母親であり、屋敷を切り盛りする夫人の手腕なのだと理解した。


「お言葉に甘えます」


フランツはそう伝えて客室への案内を頼み、一通りの案内を受けるとすぐに休むことにした。

こうしてフランツが森の辺境伯の家を訪れた初日は終わりを迎えたのだった。

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