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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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父娘喧嘩

昼食後、アリシアは言われた通りクレメンテの執務室に足を運んだ。

お茶の用意を済ませた状態ですぐに人払いされる。

そして、執務室周辺に人がいないことを確認すると、クレメンテは重い口を開いた。


「そろそろ話しておく必要がある。子供の頃から話している許嫁の話だ」

「はい」

「ただ、今の段階で相手のことは話せない。だが、経緯くらいは知らせておくべきだろうと思うのだ。そろそろお前も年頃だ。何かと不安だとは思うが聞いてもらえるか」

「お願いします」


向かい合って座った二人は、それぞれ覚悟を決めてこの場に挑んでいた。

ピリピリとした空気がお互いの緊張を高めている。


「お前が産まれてまもなく、私のところに手紙が届いた。そこにはお相手のことも少しだが書かれている。家柄はしっかりしているのだが、うちとお相手が親戚になると、強い権力を持つことになる。そうなると、お前の身に危険が及ぶことになるので、相手のことは本人にも伝えないことが条件だ。そして、頃合いを見計らって相手から連絡がくることになっている」


クレメンテは当たり障りのない説明を心がける。

アリシアはその説明から引き出せそうなことから確認をすることにした。


「そうでしたか。今、この話をされたということは、何か連絡があったということでしょうか?」

「ああ、そうだ。そろそろ話を進めていきたいと」

「わかりました」


あっさりと了承したアリシアにクレメンテは訝しげに聞いた。


「いいのか?」

「かまいません。そう言われて育ちましたから、覚悟はできております」


アリシアは父の話を聞いて、やっと少し先が見えたことに少しほっとした。

相手が自分のことを忘れたわけではなく、成人として認められるまで待っていたからで、これは相手側の配慮なのだと、ここまでの説明で感じることができたためだ。

このまま進むなら、確認すべきことを確認しておこうと、アリシアは質問を続けた。


「学校はどうなるのでしょう」

「とりあえず、そのまま通っていなさい。せっかく入学したんだ、退学せずに卒業してほしい。もし相手から何か言われても、卒業まで待ってもらうようにお願いしてみるつもりだ」

「では、卒業後はどうなるのでしょう」

「……そこはまだわからない。だが、就職はしない方がいい。とりあえず領地に戻ってきて生活をしてもらうことになる」

「それはどのくらいの期間なのでしょう」

「それも相手次第だな。ただ、前向きに話を進めたいということだから待つことにはなるだろうが」


だんだん後ろ向きな発言が増えるに従ってアリシアの中に不安がよぎる。

父親からすれば、この話は領地にメリットがあるから受けたのだろう。

だからと言って生まれた時から決められた相手には自分も見てもらえず、また、自分が会うこともできないような相手というのはどうなのだろう。

政略結婚を否定するつもりはないが、本当に自分はただの道具なのではないかと。

そのためだけに教育を受け、自分の希望より家の要望を優先した授業で最高位の成績を修め、苦しい思いもたくさんしてきた。


「期間も分からず、ただ待つだけ、なのですね。私は……本当に必要とされているのでしょうか?」

「そうだな……」


このはじまりだけで充分だった。

彼はきっと、自分よりも相手の言葉を優先して物事を判断するだろう。

小さい頃から“変な子”と言われてきた。

それでも大切にされているのは、きっとそれだけの理由なのだろう。

クレメンテの言葉を遮るようにアリシアは続けた。


「私は政略結婚のためだけに育てられたのですね。これからも、その方のために、私はここに置かれるのですね。ただこの土地に閉じ込められて、何もさせてもらえないのでしょう?」

「アリシア……それはだな……」

「それなら森で暮らしていたほうが幸せだわ。森にいれば、私は一生独りになることはないもの。そのままの私を受け入れてくれるもの」


そう言いきってアリシアは部屋を飛び出した。


「待ちなさい!」


クレメンテは飛び出したアリシアを慌てて追いかけた。

最後にかすれたアリシアの声が、涙をこらえている彼女の心の状態を表していた。

近年、家族に対する不信感を感じさせることはほとんどなかった。

それはアリシアが大人になったからだと、すべて納得しているからだと思っていた。

まさか疎外感を感じているとは思っていなかったのだ。



フランツが扉の前に着くと、声をかける前に大きく扉が開いた。

彼が驚いて扉から少し離れると、その横をアリシアは駆け抜けていった。


「アリシア?」


彼女にその声は届かなかったようで、こちらを見ることもなく、そのまま走り抜けていってしまった。

彼女は迷うことなく森の方に向かって行く。

すぐにクレメンテが追いかけてアリシアが向かった方向を確認するため、扉を出たところで一度立ち止まり辺りを見渡した。

しかし、そこにいるはずのない人の姿を見つけて、彼は動けなくなった。


「あなたは……」

「お取り込み中のようですね」


フランツは得意とする貴族の笑みを浮かべつつクレメンテに対応しながらも、目はアリシアの行く先を追っていた。

その間にクレメンテは息を整え、相手を確認する。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ない……。ここではなんですから、お入りください」


クレメンテはアリシアを追いかけるのを止めて、フランツを家の中に案内することにした。

声をかけてもフランツが森の方に視線を向けていることに気が付いたクレメンテは、


「気にしなくても大丈夫です。アリシアにとって森は庭のようなものです。落ち着いたら戻ってくるでしょう。さあ、こちらへ」


と、付け加えた。

フランツはとりあえずクレメンテから話を聞こうと彼の案内を受けることにしたのだった。

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