帰省
アリシアは王都を出発し、途中休憩をはさみながら無事、夕方には実家の門の前に到着した。
日は落ちかけていたがまだ周囲は明るく、領地内であれば、子どもが買い物のために出歩くことができるくらいの時間である。
アリシアは門の中に入り、芝のあるところで馬を下り、邸宅の裏にある馬小屋に馬を連れていった。
「お嬢様、どうされましたか!」
見たことのない馬を連れた彼女を見て、世話係をしていた男は驚いて声を上げた。
「お父様から戻ってくるように言われて、急いで戻ったのよ。この馬は学校から借りているの。申し訳ないのだけれど滞在している間、一緒にお世話をお願いできないかしら?」
「それは構いませんが……あ、とりあえず荷物は降ろしてしまいましょう」
男は馬に乗せていた荷物を手際よく下ろすと、馬を小屋の中に入れて、荷物を持った。
「私が運びますから、お嬢様はそのまま向かってください」
そうして、アリシアが前を歩き、後ろから男が付き添う形でアリシアは家に入って行くことになった。
扉を開けてもらい家の中に入ると、エントランスも突然の帰省に騒然となってしまった。
「お戻りになるんでしたらお迎えにあがりましたのに」
「すぐにお部屋を確認しますから少々お待ちください」
そんな騒ぎを聞きつけたアニーと弟妹も自分の目で確かめようとエントランスにやってきた。
「あら、おかえりなさい。元気そうでよかったわ」
アニーが声をかけた。
妹はアリシアの姿を見るなりつないでいたアニーの手を振りほどいて全力で飛びついてきた。
「おねぇしゃまー」
そう言いながら、両足にしっかりとしがみついている。
成長した弟が、
「おかえりなさい」
と言いながら、そんな様子を苦笑いしながら眺めていた。
「ただいま戻りました。お父様は、まだお仕事中かしら?」
足元にしがみついている妹を抱き上げながらアリシアは聞いた。
「ええ、そうなのよ。今日帰ってくるなんて知らなかったから驚いたわ。お部屋の準備も整ったみたいだし、荷物を置いて少し休んだらいいわ。夕食の時にゆっくりお話を聞かせてちょうだい」
アニーはそういいながらアリシアに抱えられていた娘を受け取った。
「さすがに少し疲れました。お言葉に甘えて休ませていただきます」
そう言って懐かしの自室に戻ったのだった。
部屋は以前から変わったものはなかった。
掃除も行き届いていて、日ごろからきれいにしてくれていたのだろう。
クローゼットの中のものも残したままになっていて、すべてがこの家を出た時のままになっていた。
「本当にそのままにしてくれていたのね」
アリシアは整えられたベッドに体を横たえると、そのまま泥のように眠ってしまった。
数時間後、アリシアは何とか起こしてもらい夕食の席に着いた。
アリシアが戻ってきて準備が遅れたせいなのか、クレメンテの仕事の終わりが遅かったのか、夕食の開始がいつもより少し遅めとなっていた。
「アリシア……戻ってくるようにとは言ったが、一人で戻ってきたのかい?」
「はい。学校の馬を借りて戻ってきました」
「ああ、騎士コースのか」
「そうです。馬車で往復したら四日かかってしまいますから、滞在日数も短くなってしまいますし、お父様のお手紙を見る限り、早く戻った方がいいような気がしたものですから」
「それは悪いことをした。急ぎではないのだが……。それに一人で戻るのは考えものだな」
「でも……」
「とにかく今日はゆっくり休みなさい。そんな疲れた状態ではちゃんと話せないだろう」
「そうですね。食事が終わったら、今晩はゆっくり休みたいと思います」
家族そろっての食事は父親との会話から始まった。
会話が途切れると、妹や弟が王都や城下町について色々聞いてくる。
その様子をほほえましく見ているアニーは聞き役に徹していて、何も言葉を発しなかった。
食事も終盤に差し掛かった頃。
「お母様?」
会話をしていないことに気がついたアリシアが母親に話しかけた。
「どうしたの?」
「聞きたいこととかあったのではないですか?」
「そうねぇ……。私の代わりに聞きたいことはこの子たちが聞いてくれたわ。私はあなたが元気な姿を見せてくれただけで嬉しいもの。お話は明日にしましょう。今日はすぐに休むといいわ」
穏やかな笑みを浮かべながらアニーはアリシアに休むよう言った。
そして食事を済ませると、
「さあ、二人とも、アリシアは長旅で疲れているから、お話はまた明日にしましょうね」
そう言って子どもたちを連れて席を離れていった。
アリシアもクレメンテも席を立ち、それぞれの部屋に戻ることになった。
部屋に戻ったアリシアは体を清め、ベッドに入ると、夕食前と同じように泥のように眠りにつくのだった。
翌朝、朝食の際にアリシアはクレメンテから呼ばれた。
帰省を促した理由について話がしたいので、昼食後に執務室に来るようにということだった。
いよいよ自分の将来について、少し見えるものがあるのではないかと期待しながら、午前中は弟妹と家の中で遊んで過ごしその時を待つのだった。




