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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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困惑の執務室

春の長期休暇初日の昼。

先に出発したアリシアを寄宿舎の入口で見送ったマリーは、お昼を食堂で済ませると、部屋で実家の馬車が到着するのを待っていた。

領地に出発するのは翌日だが、両親が王都まで来るので夜はアレクとマリーの家族で食事をすることになっているのだ。

そのためマリーは両親が宿泊する王都の宿に一泊する。

今回食事に利用するのは王都のレストランで、平民も利用するお店のため、服装は街を歩く少しお洒落なくらいで充分だと言われていたため、すでにいつでも外出できるようにすでに着替えを終わらせていた。


お昼を食べ終わってからほどなく、両親が到着したため、マリーは受付に挨拶をして寄宿舎を出発した。

学校を出た馬車はすぐに両親の宿泊先に到着した。

もし、まっすぐに領地に帰らないのであれば、学校から歩いて行ける近距離の宿屋に泊るなど贅沢でしかないのだが、領地に帰る都合もありそのようにしたと、マリーは両親から説明されていた。

荷物をおろして馬車を預けると、三人は部屋でお茶をしながら食事の時間まで家族の時間を過ごした。



宿からレストランまでは歩いていける距離ということなので、いい頃合いに宿を出た。

夕暮れ時だったこともあり、辺りが徐々に暗くなっていく。

そして暗くなっていくその周辺から、街灯がつき始め、街の景色を変えていった。

レストランの前に三人が到着すると、アレクがすでに入口で待っていた。


「いやぁ、待たせて悪かったね」

「いいえ。仕事を終えてから直接来たもので、少し早く着いてしまいました」


マリーの父親とアレクがそんな挨拶を済ませると、四人でレストランの中に入って行った。

席について、ドリンクや料理が運ばれると、口をつけながら雑談を始めた。


「そういえば、寄宿舎で仲良くしているというお友達とはうまくいってるのかね」

「ええ。彼女は実家に戻ると今朝早く寄宿舎を出ましたわ。森の辺境から来ているから、馬車で二日かかるって言ってました」

「そうか、それは帰省するだけでも大変だね」

「最初は帰らないってことにしていたみたいなんだけど、実家から連絡が来て帰らなくてはいけなくなったらしいの」


マリーの両親は料理を食べながら耳を傾けているだけだったが、アレクは少し違っていた。

そんなアレクには気がつかないマリーは言葉を続ける。


「いつかお父様とお母様にも紹介したいです。夜会とお茶会のこと、すごく感謝していたのでよろしくって言われました」


穏やかな表情でマリーの両親はうなずきながら彼女の話を聞いていた。

話が途切れたところで、アレクが確認するように言った。


「マリー、それはアリシア嬢のことかい?」

「そう、アリシアのことよ」

「今日、出発したのか。どこかに宿泊するのだろうか」

「いいえ、アリシアは一人だし、荷物もほとんどないから馬に乗って帰るって……」

「う、馬?」


控えめでおとなしい印象しかないアリシアが馬に乗るという話はアレクにとっても驚きのものだったようで、マリーがアリシアに話を聞いた時とさほど変わらないような反応を示した。


「学校の騎士コースの馬を借りて、宿を取らずに一人で馬を走らせて帰ることにしたって言ってたわ。馬で帰るなら、朝出たら暗くなる前には着けるって言って……。でも護衛とか付けないって言ってたからちょっと心配なんだけど……」

「そうか……」


心配、だけでは済まない事態だ。

しかし、アレクはマリーからもう少し情報を得ようと話を続けた。


「アリシア嬢の家で何かあったのかい?」

「あまり詳しくは聞いていないけれど……婚約のために呼び戻されたみたいなことを言ってたわ。もしかしたらお相手の方と顔合わせが決まったのかもしれないわね」

「それはおめでたい話じゃないか」


マリーの父親が会話に入ってきた。


「そうなんだけど、この時期だから心配もあるの。お話しが決まったら学校を退学しなければいけないんじゃないかって。たぶんそういうことも含めて話をしてくるんじゃないかなって思う……。できれば一緒に卒業したいもの」

「まあ、それぞれ事情があるからね。お相手が待ってくださるかもしれないし、もしそのために帰ってのだとしても、彼女は一度戻ってくるんじゃないかな。荷物は寄宿舎に置いてあるんだろう?」

「そ、そうよね。本人も何も分からないから説明できないって言ってただけだし、私の考え過ぎかもしれないわ」

「それだけ心配できるお友達がいるのは素晴らしいことよ。これからも大切になさいね」


マリーの母親が笑顔を向けて言った。

アレクは途中から口を挟むことなく会話を聞きながら、頭の中を整理していた。

自分がフランツから聞いている話からかけ離れているのだ。

それ以降、アリシアに関する話題はなく、お互いの近況報告や雑談でこの食事会はお開きとなった。

マリーとその家族を宿の入口まで見送り、彼らが中に入るのを確認するとアレクは王宮に足を向けた。



マリーの話は筋が通っていた。

アリシアはよくわからないといいながらも、婚約の話で領地に呼び戻されている。

確かにフランツはアリシアとの話を進めるために動いている。

そこまではアレクも知っているが、正式に婚約する話には至っていないはずだ。

現時点ではフランツが国王に書面を出すよう申請しているところで止まっているはずだ。

その申請が通った後、フランツのもとに書面が戻って、彼のサインを入れたものを領主に届けなければならないが、その書面はまだない。

そして仮にも王族の婚約者となる人が一日かかる距離を一人で、馬を使って移動しているという事実。

非公開なので婚約を理由に襲われることはないだろうが、貴族の女性が行う行動ではない。

よほど急いでいると考えるべきなのかもしれないが、その内容は不明である。



王宮に戻るとフランツの執務室にはまだ明りが残っていた。

急いで通路を抜けて彼のもとに向かう。

アレクは外からノックをして返事を確認するやいなや、勢いよくドアを開けた。

フランツの書類に向けられていた視線が驚いたようにアレクに向けられた。


「どうした?忘れものか?」


声を掛けられてはっとしたように丁寧にドアを閉めると、アレクはフランツの前に立った。

乱れた息を整えると、周囲を見回し、部屋に他の人間がいないことを確認すると、アレクはフランツの正面に立った。


「いいえ……。失礼しました」

「ずいぶん慌てているから、大事なものでも忘れたのかと思ったよ。今日は婚約者家族とお食事だったよな」

「それは、今終わりました」

「そうか。で、そんなに慌てて戻ってこなければならないようなことがあったのか?」


フランツの穏やかな問いかけに、やはり彼は何も知らないと判断したアレクは、マリーが話した内容を彼に伝えた。


「アリシアが森の辺境領から、婚約について話があると言われて実家に戻ったか……」

「はい。何か進展があったのか、それとも別の話なのか、……別の縁談なのかはわかりません」

「そうか……」


フランツは引き出しから一枚の紙を出すと、アレクに見せた。


「実はアレクが帰った後、それが届いたんだ。でも、ここにあるんだよなぁ……」


フランツの手元にある紙、それは彼がやっと手にした正式な婚約の申し入れ書だった。


「明日、森の辺境まで行ってくるよ。なんか、面倒なことになってそうな気がする。クレメンテはあまり軽薄な行動を取る人間ではないから、逆に何のためにアリシアを呼び戻したのかが読めない。ついでにこれを届けて承認させてしまえばいい」

「ついで……ですか」

「ああ、書類なんてついでだよ。アリシアを連れて帰ってくることに比べればね」


慈愛の笑みを浮かべたフランツの裏を読むようにアレクは言った。


「まさかお一人で行くつもりではないですよね?」

「あー、そうだね。近衛数人くらい連れて行けばいいかな。僕も行きにのんびり途中の街に泊まるとか考えてないから、馬に乗れるものを連れて行こうと思う。帰りはどうしようかな。アリシアがいるから馬車にも後発で来てもらうか。馬の乗り手を乗せてきてもらえば、馬車の中でゆっくり話ができそうだよね」

「馬車だとどちらかに宿泊しなければなりませんよね?」

「それは、うちの別荘のどこかに立ち寄ればいいかな。兄上がよくふらっと立ち寄ってるみたいだし、僕がたまに使っても何も言われないよ。一応馬車を扱う御者が行きに立ち寄るだろうから、先触れは出しておくつもりだけど」


どこかの宿に泊まると言い出しかねないと心配したアレクだったが、フランツにその気がなかったことを確認すると安堵の息を吐いた。


「アレク……さすがに彼女をそんな雑に扱ったりしないからね?自制ぐらいはする」


ここまで慎重に話を進めてきた人間に何を言うのかと、フランツはアレクにじっとりとした視線を向けた。


「そうですね。それでは馬と護衛と馬車に関しては、明日の朝に出発できるよう手配しておきます」

「ああ、頼む」


アレクは返事を聞くと執務室を後にした。

フランツは気合を入れ直し、目の前に積まれた書類をすべて処理して出発するべく、再び仕事に取り掛かるのだった。

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