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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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バラ園のお茶会

寄宿舎からほどなくして馬車は王宮に到着した。

馬車を降りると、マリーはアレクの手を借りて馬車を降りた。

続いて奥に座っていたアリシアが、馬車から下りようと頭を出すと、


「どうぞ」


と、すぐに手を差し出された。

驚いて声の主を確認すると、そこには笑みをたたえたフランツの姿があった。

アリシアはためらいつつも断れず、フランツの手を取って馬車を降りた。


「ありがとうございます……。わざわざ殿下自らいらっしゃったのですか?」

「私がお誘いしたのですから」


フランツはアリシアの手を握ったまま答えた。

彼と一緒に来ていた執事らしき男性が、タイミングを見計らって


「お待ちしておりました。ご案内いたします」


とお辞儀をした。

彼らはそれを合図に、男性の後を追うように移動を始めた。



馬車から庭までフランツにエスコートされていたアリシアは、庭に続くアーチに咲くバラの花に目を止めた。

一瞬だったが、バラの花のところに妖精がいる気がしたのだ。

もしかしたら自分たちが通るので隠れたのかもしれない。

アリシアは手を取られていることを忘れ、つい立ち止まってしまった。


「どうしましたか?」


すぐにアリシアが歩みを止めたことに気がついてフランツは足を止めた。


「あ……、いえ。きれいなバラがあったもので」


アリシアは自分が目を止めたバラを指さした。


「切りましょうか?髪にさしてもお似合いだと思います」


まさか妖精がいるかもしれないからもっとよく見たいとは言えない。

そして、ここに妖精がいたということは、その妖精にとってこの花は大切なものに違いないから、この場に長居するために花を手折ることはしたくない。

そこで咄嗟にバラを欲しいと望んだわけではないことを、強調するようにアリシアは言った。


「いいえ。このままにしておいてください。ここにあるから美しいと思ったのですから、他の方にも楽しんでいただきたいので」

「わかりました。では行きましょうか」


フランツは再びアリシアをリードして歩みはじめた。



お茶会の会場は王宮内のバラ園の中に用意されていた。

庭園の中には広めの丸いテーブルがあり、そこに四つの椅子が置かれている。

すでにいくつかのワゴンがテーブルの周りに置かれていて、いつでも振る舞えるよう準備が整っていた。

参加する四人に対して給仕をする人数が多く、席からは一定の距離があるものの囲まれている感じがした。

フランツに席に座るよう促されて全員が着席する。


「たくさんの方がご準備されているのですね」

「これでも今日は少人数なので普通のお茶会よりは少ないのですよ」


本当はさらに見えないところに護衛がいるが、それを知っているのはアレクとフランツだけで、女性二人は気が付いていなかった。


「きれいな庭ですね」


アリシアはあたりを見渡していった。

そのような話をしているうちに紅茶やお菓子がテーブルに並べられていく。

給仕が落ち着いたところで、フランツはじっとアリシアの方を見つめて話し始めた。


「先日は申し訳ありませんでした。驚かせるつもりはなかったのですが、危険な目に合わせてしまいました」

「謝らないでください。怪我も何もしていないのですから。私の方こそ申し訳なく思っております。しかもこのようなお席までご用意いただいて……」

「アレクとマリー嬢には同席していただきましたが、私があなたとお話ししたくて用意した席です。今日は色々とお話を聞かせてください」


フランツはそこまで言ってもまだアリシアから目をそらさなかった。

アリシアが必死に考えて言葉を紡ごうとしたところで、アレクが助け船を出した。


「アリシアさんは森の辺境伯のお嬢様ですよね。先日はまさかと思いましたが、マリーと仲がいいと聞いて驚きました」

「私も驚きました。アレク様がマリーの婚約者だったとは思いませんでしたから」


アレクに話を振られてアリシアは、ようやくフランツから視線をそらせることができた。

フランツはアレクの方をちらちらと見ながらアリシアの様子をうかがっている。


「アリシアはアレク様を知っていたの?」


マリーが不思議そうに言った。


「知っていたというわけではないし、今お話をした感じで間違いはないと思うけれど、アレク様は森の辺境領の初等学校に三十日留学にいらっしゃった方だと思うわ。私は同じ授業を受けていないから、ごあいさつ程度しかしていないけれど、お二人とも学校で人気があったので覚えていたの」


アリシアが説明するとマリーは納得して目を輝かせた。


「それなら今度、アレク様にもアリシアの故郷のお話を教えてもらえるわね。私も一度行ってみたいと思っているのだもの」

「そういえば……」


アリシアは思い出して付け加えた。


「アレク様、ご一緒に留学にいらしていたロビンソン様はお元気なのでしょうか?確か王都にお住まいだったと記憶しているのですが……」


この言葉にアレクは一瞬目を彷徨わせたがすぐに笑顔を繕い、誰の視線も受けていなかったフランツもカップを持っていた手を一瞬震わせたが、強く握って何もなかったかのようにお茶を飲んだ。


「申し訳ありません。聞いてはいけないことだったでしょうか?」


アリシアはアレクの反応に何か後ろ暗いことがあるのではないかと恐る恐る聞いた。


「そんなことないですよ」


アリシアに言葉を返したのはフランツだった。


「王都からは色々な領地に留学生を送っています。中央で報告を聞いているだけでは分からないことも、一度足を踏み入れているだけで理解度が上がると考えているからです。地留学をしたからといって王宮で働いているとは限りませんし、海外に行く者もいますから、ここで働いていないのであれば、すぐに消息を探すのは難しいですが……」


アリシアと目を合わせていることが辛くなって、少し目を伏せたフランツに複雑な感情が生まれ、言うつもりのなかった言葉が口からこぼれた。


「彼に……会いたいですか?」

「え?」


アリシアの驚いた声に我に返ったフランツは、慈愛の笑みを作ると話題を変えた。


「いいえ。何でもありません。……そう言えば夜会の時も庭を眺めていましたよね。お疲れでなければ案内します」

「はい。お願いします」


フランツとアリシアは庭を歩くために席を立つことにした。



フランツとアリシアが席を離れたことで、アレクとマリーがその場に残された。

二人の様子を見ていたマリーがふと口にした。


「アレク様……、もしかしてロビンソン様というのは……」


マリーが言いかけた言葉を封じるようにアレクは自分の人差し指をマリーの唇にあてた。


「マリー、それ以上は口に出してはだめだ。もし君の考えが正しかったら国家機密に抵触する可能性があるからね」


マリーの耳元でアレクは素早く囁いた。


「わ、わかったわ……」


思わぬ内容に目を丸くしながら理解を示すと、アレクはマリーから体を離した。


「マリー」


アレクに声を掛けられてそちらを向くと、アレクが苦笑いしたままマリーを見ていた。


「まだ表情が驚いたままになっているから、彼らが戻ってこないうちに普通に戻してくださいね」

「ご、ごめんなさい。衝撃が大きすぎてしまったの」


首を横に何度も振ると、マリーは表情を引き締めた。


「もう大丈夫かしら?」


アレクはその様子を楽しそうに見ていたが彼らがテーブルに向かってくるのがわかると、


「大丈夫ですよ。先ほどの話は内緒ですからね」


と笑顔で返したのだった。



そうこうしているうちに時間が経ち、お開きの時間となった。

彼らは行きと同じように馬車のあるところまで戻る。

フランツはアリシアの手を離す前に声をかけた。


「また、お誘いしてもいいですか?」

「え?……ええ。お声掛けいただけたら光栄です」


別れ際に社交辞令とわかる回答を受けたフランツは苦笑いしながら、彼らの乗った馬車を黙って見送ったのだった。

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