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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王都上級学校図書室

貴族コースの授業もおさらいレベルの実技や座学から実務に近い実習へと進み、領地経営や報告書の書き方などを身につけるところまできていた。

ここに通っている生徒には、領地を任される貴族が多いこと、また、そのような貴族に仕えると調査や報告を行い、資料を作成することが多いことを説明され、練習として自分の領地を題材とした自由課題を与えられた。

与えられる前に必要と思われる課題を見つけ先に報告したりできるのが理想的だが、仕事でいきなりやれと言われて恥をかかないようにとのことである。

このような実践的調査課題はこれからも増えるということで、生徒たちは学校で授業とテストを受けていればよいというわけではなくなるという。

ちなみに、自由課題の初回が自分の領地に関することである理由は、他領との社交で自領についての知識を持っていなければ常識はずれと思われるので、一度きちんと向き合ってほしいという意向が含まれているため、毎年同じとのことだ。


課題が発表された日の授業では、基本的な報告書の文体や書式について説明された。

あくまで基本的なものであるため、そこに必要な書類や情報をどう入れていくかは生徒たちが考えることになる。

すでに親の手伝いをしている生徒はすぐに理解できたようだが、経験のない生徒は不安そうにしている。


アリシアは父親の書いたものや、父親に上がってくる報告書を読んだことがあるだけで自分では書いたことはなかった。

ちなみにマリーは何度が手伝いをしたことがあるので、言われた通りに書くだけならなんとかなるが、調べるのは初めてだという。


自由課題のため、テーマは自由だが、何を調べるかから考える必要があり、学生たちは悩んでいた。

数回の授業で、一人で考える必要がないことを悟ったのか、近い領地の生徒同士で情報交換をしたり、親に手紙を書いたりする生徒が増えていた。

アリシアは数日間悩んだ末、辺境の森と生活をテーマに設定した。



テーマが決まると、各々が書式に合わせて情報を集めはじめた。

この授業に関しては課題の締め切りまでの間、調査や作業に時間を当ててもよいことになっているため、教師にアドバイスを求めるか、教室で作業した方がはかどると考える生徒しか教室に残っていなかった。

アリシアは授業の数回は教室に足を運び大まかに内容をまとめることに専念した。


大まかに題目を設定したことで、生活に密接する森について書く必要があるのではないかと感じるようになった。

そこで確認のため実物を見ようと校舎の外に出てみたが、辺境の森にある木々は王都周辺で見つけることができなかった。

そこでアリシアもこの授業は、校内の図書室に足を運んだり、校外で確認作業を行ったりする時間にあてることにした。

授業時間が限られているため、授業中は構内の庭を、休みの日には以前足を運んだ教会のある丘に登り確認したが、そもそも森が見当たらないということがわかった。

仕方がないので、アリシアは図書室にある植物に関する書物で足りない内容を補うことにした。


アリシアは、初めての人が読んでもわかるように資料をつけて提出することを決めた。

自分が確認のためにいくら探しても王都の周辺には森もなければ、同じ樹木すらない。

見たこともないものについて、それを示す言葉だけを書かれても、おそらく誰も理解してくれないし、自領のことを他領に説明するのだから、報告の言葉だけではわからないことも多いだろうと考えたのである。

授業時間だけでは資料をまとめる時間が足りないと感じたアリシアは、すべての授業を終えてからも図書室を利用することが増えた。

寄宿舎の部屋では情報をすぐに手に入れることができず、他の授業の課題に手をつけてしまい、進まなくなってしまうためである。



授業中は同じ授業を受けている生徒たちがいるため人が多い図書室だが、放課後はとても静かだった。

本は借りることもできるため、時折、貸出の手続きをする声がするものの、それ以外の音はほとんど聞こえない。

床全面にカーペットが敷いてあるため、歩く音も吸収されてしまうようだ。

寄宿舎に部屋があるためか、机などの勉強スペースは用意されているが、長時間滞在する利用者がほとんどいなかった。

アリシアは調べながら課題を進めるため、机に勉強道具を置いて複数の分厚い本を抱えては戻り、必要な内容を写し取っては棚に戻して、次の資料を交換することを繰り返した。

図鑑はイラストが入っているため大変分厚く、大きくて重たいので持ちかえるのも大変なので、図書室にいる時は情報収集と、自分の知っている情報を追加した資料の作成を中心に作業していた。



ある放課後。

いつものように本を探すため図鑑の多く揃えられている棚に向かっていると、図書室の古い文献を扱うコーナーを通りかかった。

そこには分厚く装飾の多い本がずらりと並び、背表紙を見るだけでも圧巻だった。

アリシアは自分の資料を探すのを中断して、その棚の前で足を止めた。

よく見ると棚の本と本の間には表紙の装飾品の出っ張りからできる隙間が多くあった。

ところどころ大きい隙間ができているのは装飾品同士が当たっているのだろう。

しばらく眺めながら棚に沿って歩いていると、図書室の角に近い本でできた隙間の広い場所に違和感を覚えた。

音をたてないように覗いてみると、その棚の上を小人のような小さな妖精がうろうろしているのが見えた。

違和感は妖精が動いている際にできる不自然な影だと気がついたアリシアは、周囲を確認してから小さな声で話しかけた。


「こんにちは」


自分が見られているとは思っていない妖精はそのまま棚の上をうろうろしていて、立ち止まることはなかった。

アリシアがもう一度声をかけると、やっと自分のことだとわかったようで、嬉しそうにアリシア近くに寄ってきた。


「君にはボクが見えるんだねー」

「ええ。お仕事しているの?」

「そう。今日はボクが当番なんだよー」

「当番?」

「うん」

「じゃあ、お邪魔してしまったかしら?」

「大丈夫。休憩する」


妖精はアリシアの近くの棚の端に座った。

その位置だとアリシアの近くに誰かが来た時にわからない。

初対面とはいえ、妖精との久々の会話がとてもうれしかった。

彼ともっと話していたいと思いつつ、もしここで誰かに見られてしまったら、初等学校時代と同じことになってしまう。

そこでアリシアは彼にてのひらに乗ってもらうようお願いし、壁を背にして、人が来ても分かるように自分から通路が見える角度で立ち直した。

体勢が落ち着いたところでアリシアは再び話しかけた。


「いつもここにいるの?」

「ううん。いつも違うところにいるよー。図書室の中の本を確認しながらぐるぐる回ってるー」

「この図書室を管理しているってことかしら?」

「そうー。みんなでかわりばんこで見まわりしてるー」

「じゃあ、図書室のことで分からないことがあったら教えてくれる?」

「いいよー。本の場所なら任せておいてー。じゃあ、ボクそろそろ交代するから戻るね」


妖精が仕事に戻るというので、アリシアは彼の乗ったてのひらを元の棚の位置に近付けた。

彼はアリシアの手から棚に飛び移ると、大きく手を振って、


「またねー」


と言って、本と本の間に消えていった。



それからというもの、アリシアはこっそり図書館の妖精に挨拶をしてから作業をするようになった。

彼らは人の少ない古い本の周りにいることが多いようで、周囲に気づかれずに声をかけることができるのはありがたかった。

資料の場所が分からない時や、彼らに時間のある時は、探している資料の話をすると一緒に探してくれることもあった。

アリシアは彼らの協力もあって、自身のレポートに使う資料を満足いく形で作成することができた。

時間はギリギリまでかかったが、資料がある分、他の生徒よりボリュームのある報告書が完成することになったのである。

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