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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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袋のネズミ

マリーに促されてバルコニーに出たアリシアが静かに辺りを見回しながら様子をうかがっていると、幸い外に出ている人は誰もいないようだった。

少し安心してため息をつくと、景色を見るため手すりの方に近づいた。

バルコニーの入口から離れて下を見てみると、眼下には美しいバラの庭が広がっていた。

夜なのに庭の様子が見えるのは、ところどころにランプが設置されているからなのだろう。

それがこの場所では日常なのか、それとも夜会のために明るくされているのかは分からないが、風に乗ってくるバラの香りや、色はわかりにくいが、そこに多くの花が咲いている様子がうかがえた。

そして、そのバラの近くにはこちらに気が付いていないと思われる妖精の姿があった。

バラの周りをくるくると飛び回る様子は、彼女に辺境の森を思い起こさせた。


「王都にも妖精がいるのね。これだけ広くて整えられた庭だからかしら?」


アリシアは無意識につぶやいていた。

今は話すことができなくてもいい。

彼らと少しでも近付きたい。

人目が多いから森の辺境にいた妖精たちと同じように接することは難しくても、元気な彼らの姿が懐かしかった。

久々に見る妖精の姿をもっとみたくて、アリシアは手すりに手をついて身を乗り出した。



アレクに見つからないようにバルコニーに出られるよう誘導されたフランツは静かに外に出た。

そこにはアリシアが一人、バルコニーの手すりから身を乗り出すようにして庭を眺めている姿があった。

黒いストレートの髪と、紺色のドレスの後姿は夜の闇に吸い込まれそうな美しさで、フランツは息をのんだ。

少し自分の気持ちを落ち着かせてから、静かに彼女に近づいた。


「庭はお気に召しましたか?」


フランツが後ろから声をかけると、彼女が驚いて体を起して振り返った。

その時、手すりにかかっていた彼女の手が滑り、体が外に傾いた。


「危ない!」


フランツは咄嗟に彼女の手首をつかみ強く引き寄せると、自分の胸の中に飛び込む形となったアリシアの腰に腕をまわしてしっかりと受け止めた。


「大丈夫ですか?」


フランツが恐る恐る声をかけると、胸に顔をうずめる形になっていたアリシアは顔を上げた。

アリシアが顔を上げると本気で心配していることがわかる表情で、声の主が自分を見下ろしていた。


「大丈夫です」


目が合った恥ずかしさから、少しうつむいてアリシアは答えた。


「よかった……」


フランツは彼女を見下ろして安堵の表情を浮かべたのだった。



マリーがバルコニーの扉を開けて、静かに外に出ると、そこにアレクが続いて、手早く扉を閉めた。

アレクが出てくるまで会場の方を向いていたマリーが振り返ると、そこには一枚の絵のような光景が広がっていた。

庭園とバルコニーを月明かりが照らす中、美しい男女が見つめあい、体を寄せ合っている。


「……アリシア?」

「フランツ様……」


呆然とその光景を眺めるマリーと、ぎょっとした表情を浮かべたアレクが同時に声を漏らした。

その声に反応した二人が同時に彼らの方に目を向ける。


「ああ、アレクか」


フランツはアリシアを引き寄せていた腕と、掴んだままの手の力を緩めた。

アリシアはその隙をついてフランツから距離を取り、何も言わずに頭を下げた。

立ちつくしていたマリーも慌てて頭を下げる。

アレクは顔をあげたまま周りを警戒しながらも、じっとフランツを見ていた。

フランツは大きくため息をつくと、三人を見回した。


「そんなに固くならないでください。まずは顔をあげてください」


アリシアとマリーが顔をあげた。


「驚かせてしまって申し訳なかった」


フランツの目線はアリシアに向いていた。


「いいえ。ご心配をおかけいたしました。ご配慮感謝いたします」


アリシアはまた静かに頭を下げた。


「いいや、こちらこそもう少し配慮するべきでした。何もなくてなによりです。そんなにかしこまらなくていいですよ」


フランツに促されてアリシアは恐る恐る顔を上げた。

フランツはやさしい笑みを浮かべたまま、アリシアを見ていたが、顔を上げるのを確認するとアレクを呼んだ。


「かしこまりました。マリー、アリシアのところに行っておいで」


アレクは呼ばれただけでフランツの言いたいことを察すると、マリーをアリシアのところに送り出した。


「アリシア!」


マリーはアリシアに駆け寄ると、彼女の手を取って寄り添うと、フランツに少し警戒するように見た。


「マリー、大丈夫だから」


アリシアがマリーをなだめるかのように言った。


「いや、警戒されても仕方がないな。今度改めてゆっくりお話をさせてください。別の日に場を設けます。アリシア嬢だけお誘いするとマリー嬢が不安でしょうから一緒に。マリー嬢とアレクも同伴ならば問題ないですか?」

「……はい」


フランツの誘いにアリシアが返事をすると、フランツはアレクの方に歩み寄り帰りの馬車の手配を頼む。


「かしこまりました。マリー、少し離れるけど、すぐに戻るからここにいてください」


アレクは静かにバルコニーを後にした。

フランツは彼女たちと距離を取ったまま、特に何をするでもなくそこに立っていた。

ほどなくしてアレクは戻ってくると、


「すぐに用意ができるそうです」


と、主に報告した。


「お二人は、今日は大変だったようですし、寄宿舎までお送りしましょう。私は会場を離れるわけにいきませんが、アレクを同伴させますから安心してください」


アリシアとマリーは顔を見合わせてお互いの意思を確認すると、フランツの方を見て頭を下げた。

そこでフランツは思い出したように言った。


「バルコニーは追い詰められたときに逃げ場がありませんから推奨できませんね。袋のネズミです。今後は何かあったら入口の者にかくまうよう伝えておきます」

「お気づかいありがとうございます」

「それではまいりましょう」


アレクはマリーの手を取ってバルコニーから会場内に戻って行った。


「馬車までのエスコートは私でよろしいですか?」


フランツが手を差し出した。


「そんな……もったいないくらいです。よろしくおねがいいたします」


フランツの手に静かに自分の手を重ね、彼のエスコートに任せてバルコニーを後にした。

フランツのエスコートで会場内を歩くと、周囲が驚いたように避けて道を開けた。

多くの視線を感じながら、フランツは人々の間を優雅に歩いていく。

アリシアはその注目度の高さに一瞬ひるみそうになったが、表情を崩さないよう、なんとかその場を取り繕って彼の隣を歩くのだった。

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