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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王宮の夜会

国王主催のパーティは、王宮内で行われていた。

フランツはひとつ高い位置に用意された自席から、監視するかのように、入口を眺めていた。

時間になり、次々と入場してくる貴族たちの顔と名前を確認し、頭に叩き込んでいく。

王宮で行われていても、毎回全員が参加するわけではない。

多くの社交に参加しているフランツにとって、顔と名前を覚えるのは義務でもあるが、暇つぶしでもあった。

ところが、いつものように、ぼんやりと眺めていた入口に、目麗しい女性が二人で現れた。

フランツはすぐにアレクを呼ぶ。


「今日のことなんだが、マリー嬢から何か聞いているか?」

「いえ、なにも……どうかされましたか?」

「いや……」


とだけ呟いて、フランツが一瞬だけ指で方角を示す。

その方角に黙って目をやり、その先にいた二人を見つけたアレクは息を飲んだ。


「マリーとアリシア嬢?」

「僕は頭が混乱しているよ」


フランツは動揺を隠しきれず苦笑いしていた。



華美ではない二人だが、その内面から滲み出る品の良さと可憐さは、男性貴族の目を引くには充分だった。

可憐でかわいらしいマリーと、儚く美しいアリシア。

この二人が仲良くパーティに現れた。

明るく朗らかで話し上手のマリーは、元々人気があり、ひそかに憧れているご令息が多いことで知られている。

マリーはご令嬢とのお茶会には出席することが多いものの、夜会にはめったに出席していなかった。

アリシアにいたっては、そんな人気者のマリーが連れている上、お茶会や夜会に全く参加していなかったため、特に注目を浴びることになってしまったようだ。

ほどなくして、彼女たちは次々と男性に声をかけられるようになった。


「申し訳ありません。人を待っているものですから」


マリーが率先してうまくあしらっていく。


「さすがね」


周囲から人が減ったところでアリシアが感嘆の声をあげた。


「そんなことないわよ。普段はそんなに声をかけられることがないから不安でしかたないわ」

「お相手がいる女性にはあまり声をかけないものね」


周りを見渡しながらドリンクを求めて二人で場内を歩きながら話している足を止めると、再び声をかけられる。

基本的に答える内容は変わらないが、だんだん合流する相手がいないか、まだ来ていないと彼らに判断されたのだろう。

誘いの声は増える一方である。


「とりあえず、歩きまわるしかなさそうね」


アリシアがそう言うと、マリーも黙ってうなずいた。

そして二人は会場内を周回するように歩き始めた。


二人がバルコニー近くを歩き始めた時、場内で音楽が始まった。

ダンスが始まる時間になったのだ。

パートナーのいる人たちが次々に踊り始める。

視線は会場の中央に集まり、自分たちを見ている様子はない。


「アリシアはバルコニーに隠れていて。私は飲み物をもらってすぐ行くから」


そう言ってマリーはアリシアを見つからないようにバルコニーへ送り出すと、音楽の流れる中、一人で飲み物を取りに行くことにしたのだった。



アレクはフランツの代わりにマリーとアリシアの様子を、一定の距離を保ちながら見守っていた。

対象となる人物が二手に分かれてしまったためアレクは判断に迷ったが、アリシアの方が危険だと判断しバルコニーに人が入らないよう、マリーを目で追いつつその場に残ることにした。

フランツは自席からアレクとマリーの行動を把握し立ち上がると、バルコニー近くにいるアレクのところに向かった。


「悪いな」

「いや」

「マリー嬢は入口近くの壁側に追いやられて囲まれてるから、救出してくるといい」


美形二人が耳元で囁きあう様子は、女性の目からみると、目の保養として素晴らしいものだったが、二人からは何人たりとも近づくなという空気がにじみ出ていた。

パーティの華やかさとはかけ離れた、真面目な表情で話し込んでいる。

声をかけたり、話を聞いてしまったことで、面倒事に巻き込まれたくないと、彼らのことは見て見ぬふりを決め込んだ。

これもある種、自己防衛のために必要なマナーである。


会場の視線が自分たちから反れたことを確認して、彼らは行動を開始した。

アレクはバルコニーの扉に一番近いカーテンの裏側にフランツを隠し、風圧でカーテンが揺れないよう押さえた。そして、フランツが扉を開けてバルコニーに出たことを確認すると、急いでマリーの元に向かった。



「アレクさま、アレクさま」


アレクが声をかけるまでもなく、アレクの姿を見つけるなりすがり付いてくるくらいにマリーは混乱していた。


「マリー、どうしたのですか?」


自分のもとに駆け寄ってくる婚約者を受け止めて確認した。

様子を見ていたので、彼らを前に助けに来たとは言わない方がいいと判断して言葉を慎重に選ぶため、彼女から話を聞くことにしたのだ。


「私の周りに人がたくさん集まってしまってどうしていいか分からなくなってしまったのです」


マリーはアレクの服を握って震えながら彼を見上げた。

社交に慣れてきているとはいえ、女性が知らない多くの男性に壁側に追いやられて一人で対応するのは難しい。

アレクはマリーを腕の中にかばいながら周りを見回してため息をついた。

そして牽制するためにあえて周りに聞こえる声で聞いた。


「どうしてこのようなことになっているのですか?」


すると、マリーからすぐに答えが返ってくる。


「皆さまがアリシアと親しくなりたいみたいで、私とお話ししたいとおっしゃるのです」


マリーがそう言うと、目を見開いたまま固まっている者、絶句しているものをその場に生み出した。

さらには小競り合いしていた者の手も止まっており、この場においてはそれだけの破壊力を持った言葉だったことが良くわかる。

アレクがマリーの背に腕を回したまま、視線を男性に向けると、大きく息を吐いた。

一方のマリーはまっすぐにアレクを見上げて助けを求めている。

いたって真面目だ。


「申し訳ないが、彼女はこういう場に慣れていないので、少々混乱してしまったようです。少しお休みさせようと思いますので連れて行きます」


そう言って呆然としている男性陣を置き去りに、マリーを連れてその場を後にした。



落ち着かせるため、囲まれた位置から離れた場所に椅子を確保し、マリーを座らせた。


「大丈夫ですか?」


飲み物を渡すと、彼女は一気に飲み干す。


「ありがとうございます」

「今日はどうしたんですか?」

「学校の友達にアレク様を紹介したくて一緒に来たのですが、こんなことになってしまって……あ、アリシアが、どうしよう」


アレクは飲み物を持っていない方のマリーの手に自分の手を添えた。


「まずはあなたが落ち着いてください。一緒に行きますから」

「ごめんなさい」

「次からは一言声をかけておいていただけると嬉しいですね」

「でも、アレク様はお仕事ですし、もしエスコートをお願いしてしまったらアリシアが一人になってしまうから」

「そうですね。……それでも、相談してもらえれば気にかけることができますし、そうさせてもらえると私は嬉しいです。本当に驚きましたから」


マリーは何も言わずにうなずいた。


「マリーも落ち着いたようだし、お友達を迎えに行きましょうか」


アレクが立ちあがって手を差し出すと、マリーもそれに従って手を添えて立ち上がった。


「あっちなのですが……」


気がつけば人に押されてバルコニーからかなり離れた場所に移動してきてしまっていた。

マリーはそのことに再び動揺する。


「大丈夫ですよ。行きましょう」


目立たないよう壁伝いにエスコートし、途中で空のグラスを給仕に渡すと、二人は目立たないようバルコニーに向かっていった。

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