王都の城下町
王都に来てから十日が過ぎていた。
寄宿舎でマリーと出会って入学式まで三日、入学してから七日である。
アリシアは新しい環境に慣れるのに必死だったり、マリーが話しかけてくれたりしたおかげで王都に来てから寂しさを感じることなく過ごしていた。
その日、授業が終わって自分の部屋に戻ると、アリシアはぼんやりと窓の外を見ながらつぶやいた。
「みんな元気かしら?」
寄宿舎の部屋から下を見下ろすと、騎士コースのためのものか、柵と小屋があり、そこに馬が放されているのが見えた。
さらに遠くに目をやると、夕方のうす暗い中で建物に明かりが灯っていく様子がわかる。
そして空を見ると赤み残る暗い空に明るい星がいくつか見える。
しだいに室内が暗くなってきたことを感じて、アリシアも部屋のランプに火を入れて窓から離れた。
アリシアは机に向かうと、自宅に手紙を書くことにした。
寄宿舎に到着した日に御者に言伝を頼んで以来、何の連絡もしていなかったことを思い出したのである。
ずっと一緒に暮らしていたため、改めて手紙を書こうとすると不思議な感じがする。
しかし、弟妹とも約束をしたのでそろそろ出しておいた方がいいだろう。
そこで両親に宛てた手紙に近況を書き、弟、妹には別々にわかりやすい言葉を使った簡単な手紙をしたためた。
これで手紙を取り合ったりはしないに違いない。
手紙を書きながら、内容が学校のことだけになっていることに気が付いた。
王都にいながら城下町には足を運んだことがなかった。
そこで、次の休みには城下町に足を運んで、その様子がわかるような手紙と弟や妹に喜んでもらえるようなカードを送ろうと決めた。
「マリー、相談があるのだけれど……」
手紙を出した翌日、アリシアはマリーに城下町の様子を教えてほしいと頼むことにした。
「なぁに?相談って」
「マリーは城下町に詳しいかしら?私、自分で歩いたことがないから、お休みの日に行ってみようと思っているのだけれど、何かアドバイスがあったら教えてほしいと思って……」
「なんだ、そういうことね」
先日の話が重かったこともあり、楽しい話で安心したというようにマリーは言った。
「アリシアは何か欲しいものとか、見たいものとか、食べたいものとかあるの?」
「何があるのかわからないから、そこから知りたいの。あと、もし買えたら弟妹たちに喜ばれるようなカードを手紙につけたいと思っているの」
「素敵!アリシアはやさしいお姉さんなのね」
マリーは、アリシアが弟妹にも気を配るやさしいお姉さんという一面を見て喜んでいた。
「そうかしら?王都で生活すると言ったら寂しがってくれたから、せめて手紙で喜んでもらいたいと思っただけなの。手紙を書くって約束もしてきたから」
「わかったわ。私も次のお休みは予定がないの。よかったら一緒に見て回ってもいいかしら?ぜひ案内させてほしいわ」
王都に何度も足を運んでいるというマリーが一緒であれば心強い。
しかし、自分のために時間を使ってもらっていいのだろうかとアリシアは少し不安に思いつつ、恐る恐る聞いてみた。
「お言葉に甘えていいかしら?」
「もちろんよ!とても楽しみだわ!」
それから、マリーとアリシアは城下町に行く予定を立てて別れたのだった。
城下町に繰り出す当日。
動きやすい服と靴でというマリーの助言を受けて、アリシアはシンプルなワンピースにヒールの低い靴を履いて出かけることにした。
このスタイルはアリシアが森を散策していた時にもしていたので、疲れて歩けなくなるようなことはないと考えてのことだった。
寄宿舎の入口で待ち合わせてお昼前から出かけることになっている。
少し早めに入口に立っていたアリシアは間もなく声をかけられた。
「おまたせ。アリシアが部屋を出たのがわかったから、私も出てきちゃったわ」
マリーはアリシアが出かける際にドアを閉めた音が聞こえたので出てきたという。
「急がなくてもよかったのに」
「用意はできていたもの。さあ、行きましょう」
二人は寄宿舎から学校の校門に向かって歩き出した。
マリーが考えた予定では、比較的安全な広い道だけを見て歩くことになっている。
主なお店や観光地に向かう道は広く作られているため、二人が行きたいお店をめぐるには充分だった。
まず、中心の大通りまで行って文具のお店でカードを買い、大通り沿いのオープンカフェで休憩を兼ねた昼食をとって、マリーがお気に入りの教会へ行って暗くなる前に戻ってくるという時間に余裕のあるコースにした。
街を歩きながら途中で寄り道をしても夕方までには戻ってこられるようにしたのである。
校門から出ると、寄宿舎に入る当日に通った大きな道が広がっていた。
マリーとアリシアは雑談をしながら道沿いに歩いていった。
大通りまでは思ったほど遠くなかった。
寄宿舎に入る日にこの通りが長く感じたのだが、それは校門での検査があったからのようだ。
活気のある大通りに入ると人口密度が高くなった。
マリーとアリシアははぐれないように手をつないで歩くことにした。
マリーが先導していく道をアリシアがついていく。
大通りをしばらく進んでマリーが足を止めた建物は一軒の文房具店だった。
「入口は狭いけど種類はたくさんあるのよ。行きましょう」
アリシアの手を引いて中に入っていった。
入口をくぐると、中はとても広い空間になっていた。
立ち止まって見渡すと、ペンやインク、書類用の用紙、絵画用のキャンバスや額縁などの専門用品だけではなく、一般的に利用される便せんや封筒、絵葉書やカードなども豊富に揃っていることがわかる。
「こっちよ」
マリーはアシリアを絵葉書のコーナーへと誘った。
「この辺りの絵葉書は、王都の風景を書いたものが多いの。後は王家の方の絵姿もあるわ。男の子なら馬のような動物の絵、女の子にはお花の絵が人気だわ」
マリーがアリシアに解説をはじめた。
結局アリシアは、お城や教会の絵葉書と、きれいな便箋と封筒を購入することにした。
次に案内されたのはオープンカフェだった。
店舗の入口よりも先に外にあるパラソルとテーブルセットが目に入るおしゃれなお店である。
マリーとアリシアが外のテーブルの席を取ると、お店の人がすぐに注文を確認に来た。
おすすめを確認すると、お昼限定のセットが人気ということだったので、二人ともセットを注文することにした。
すでに準備されていたのか、ほどなく彼女たちのテーブルに食事が運ばれてきた。
一つのトレーに、パン、スープ、サラダ、ムニエル、リンゴのタルト、紅茶が乗っていた。
テーブルに二つのトレーが届いたところで食事をしながら話し始めた。
「ここって寄宿舎の食堂と同じで、自分でメニューを選んで席で注文するのね。知っていてよかったわ」
「ほんと」
二人はくすっと笑い合った。
「この後は教会に行く予定だけど、他にほしいものはない?」
「今日は大丈夫よ。急ぐものはないし。城下町にはこれからも来るようにして、少しずつ何があるか覚えていくわ」
「路地裏に入らなければ安全と言われているけど、一人はやめた方がいいわ。私でよかったらまたご一緒させてほしいわ。まだまだ案内したいところがたくさんあるの!」
「ぜひお願いしたいわ。買い物に出るごとに一か所の観光地を覚えていくのも素敵だわ」
そんな話をしながら二人は食事を終えるとお店を出た。




