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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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引越しの挨拶

「今度王都の学校に行くことになったの。みんなにはしばらく会えなくなっちゃうわ」


卒業式が終わり、学校が休みになった晴れの日。

アリシアは一人で森の奥にある泉のほとりにある草原に腰を下して、今後のことを森の家族たちに報告した。


「そうなんだー」

「さみしくなるねー」


アリシアの周りを飛び回っている妖精が思い思いの言葉を発し、うさぎや犬や鳥たちはアリシアの周りに群がって、体を寄せている。

この場所はまだ未開拓であり、森のかなり奥の方にある。

迷う人がいない限り人間が入ってくることはない。

アリシアにとって大切な場所なので開拓をしている人たちには申し訳ないが、この場所は秘密にしてあるのだ。

ここではゆっくり森の家族たちと話ができる。

この場所ならば妖精も動物も一緒にいられるのだ。


「私も寂しいわ。でも時々帰ってこられるから、その時はお話を聞いてほしいの」

「もちろんだよ」

「いつでも遊びに来てね」


妖精たちは言葉で励まし、動物たちは体を摺り寄せて答える。

アリシアは犬の頭をなでたり、鳥を手に乗せたりしながら話を続ける。


「みんなのおかげで何とか学校にも通い続けることができたのよ。頼れる人がいなくなるのは不安だわ」


森から学校まで来て、密会をすることで何とか精神を維持してきたアリシアにとって、これほど頼れるものはなかった。

彼らに王都まで来てくれとはさすがに言えない。


「王都にもボクたちみたいな妖精は住んでるよー。アリシアならきっと仲良くなれるよー」


そんな心配に気がついたのか、妖精の一人が教えてくれた。


「そうなの?」

「うん。ボクたちは主にこの辺りの森とか植物を守ってるけど、王都にも庭園という自然がいっぱいのところとかあって、そこを見てる子もいるし、古い建物とか本とかも大事なものは妖精が守ってたりするから、そういうところにはいると思う。みんながいい子ではないと思うけど、きっと力になってくれるよ」

「ボクたちと仲良くしてたって言ったら大丈夫だよー」

「時々お話しするんだー」

「情報交換だよー」


妖精は自然のものだけにしか身をよせないというわけではないようで、長い間大切にされるうちに、いつの間にか妖精になってそれを守るようになるらしい。

そして、彼らは情報交換などもしているという。


「どうやって情報交換するの?」


もし、その方法が使えるなら遠くにいてもアリシアは彼らと話ができるのではないかと考えた。


「うーん。人間が移動する馬車にくっついて移動してみたり?」

「王様がつないでくれたり?」


色々な方法があるらしいが、どれもアリシアが使える方法ではないようだった。


「でも、向こうの妖精が来るときにアリシアが元気かどうかは聞いてみることにする!」

「王都に行ったら探してみるから見つけてね」


森の家族はいつまでもアリシアに過保護だった。

彼らの過保護さにどれだけ助けられたか分からない。

ちょうど初等学校に入学する時に弟ができ、その後、年の離れた妹が生まれ、子どもの面倒をみることはあっても、子どもとして甘やかしてもらうことは少なかった。

もともと両親は甘やかして子どもを育てるタイプではないが、必要以上に心に深い傷を負っていたアリシアにとって、ただ寄り添って落ち着くまで傍にいてくれる家族は本当に大切だった。

彼らがいなかったらアリシアはさぞ性格が歪んだ状態で育っていったことだろう。

弟もすでに初等学校に通学しているが、幸いなことに、アリシアとは違い楽しく学校生活を送っているようだった。

自分のことで嫌がらせを受けなくて本当によかったと心の底から思っている。


「できれば私の両親や弟妹のことも教えてほしいし、見守っていてほしいわ」


自分が学校では嫌な思いをしたということもあるのでお願いした。


「でも、彼らはボクたちのこと見えないから助けるのは無理かも」

「わかってるわ。でも何かあったら私に教えてほしいの」

「がんばるー」

「ありがとう」


気がかりなことが少し解消されたところで、アリシアは持ってきていたおやつを広げ始めた。


「今日はみんなで食べようと思ってたくさん持ってきたの。まだまだ時間があるからゆっくりお話できたら嬉しいわ」


草の上に包んでいた布を広げ、その上にパンやスープ、クッキーを並べ、アリシアは動物たちが興味を持って見ているパンをちぎっては分け与え、鳥たちの口にも入れてあげる。妖精たちはクッキーが気になるようだったので、持てるサイズに割ってから戻した。

アリシアは家から持ってきた冷めたお茶で口を潤しながら、まんべんなく手をつけていく。


「たくさん持ちだしちゃったから、本当に食べられるのかって心配されちゃったわ」


実は妖精や動物に分けるとは言えず、今日はおなかがすきそうだからたくさん持っていきたいと頼んでバスケットいっぱいの食料を持ち出していた。

そのため、すべての食べ物に手をつけて、どの食べ物について聞かれても答えられるようにしなければならないと、少しずつでも全種類食べることにしたのだ。


「少しずつでもバスケットいっぱいはやりすぎちゃったかしら?でも、みんなにも食べてほしかったし、ゆっくり話がしたかったのよね。最後になると思うと寂しくて……」

「最後じゃないよー?」

「また会えるし」

「行くかもしれないし」

「新しいところでお友達たくさんできていそがしくなるかもしれないし」


感傷的になっていると、妖精たちに励まされる。


「そうね。そうよね」


どちらかと言えば人間とはあまりうまく関わってこられなかったが、それは自分に対する偏見があったからだということに、さすがのアリシアも気がついていた。

自分から関わらないようにしていた短期留学生とも、人のいない温室では、なんとなく普通に話せていた気がする。

それはきっと彼らが自分に偏見を持たずに接してくれていることを感じたからだと思う。

これからの新生活、何が起こるか分からない。

妖精や動物たちと交流できることさえ知られなければ、そのような話が伝わっていない場所なら、もしかしたら人間の友達も作れるのかもしれない。


「頑張ってお友達を増やしていこうと思うわ。みんなに甘えてばかりでは、いつまでも大人になれないものね」


アリシアが決意を口にすると、


「そうだよ」

「できるよ」


と賛同してくれる。

その中に時々、


「でも私たちのことも忘れないでね」

「いつでも頼っていいからね」


という甘やかしの言葉も含まれている。



ちょうど食べ物がすべてなくなったところで、辺りが薄暗くなってきた。


「みんな、ありがとう」


アリシアは最後に出していた布をバスケットにまとめて、立ち上がってそう言って頭を下げた。


「いってらっしゃーい」

「気をつけてねー」


顔を上げたアリシアに森の家族は温かく声をかけて送り出した。

家に帰る途中、何度も振り返り、名残惜しそうにする彼女を、ギリギリのところまで見送って動物と妖精たちは森の奥に帰っていった。

一方のアリシアも、森を出て、振り返って誰も居なくなったのを確認すると、歩みを速めて自宅へと急ぐことにしたのだった。

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