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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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初等学校卒業

王都上級学校への進学が決まり、無事にデビュタントを終えたその年。

アリシアは初等学校の卒業することになった。

森の辺境では、初等学校の卒業は本人、もしくは家族の意思によって決定される。

無料教育期間が終了しても有料教育に切り替えて勉強を継続することも可能であったり、家庭の事情で一度退学して再入学する人もいることから、共通科目を修了している場合は、どのタイミングで卒業をしても良いことになっている。

ただし、初等学校を卒業したという肩書きがつくため、最低限の読み書きはできていなければ、卒業証明書は発行できないというスタンスなのだ。

初等学校卒業という肩書きは、上級学校への進学の他、他の領土で就職する際に役立つ場合がある。

他の領土では無料教育を実施しているところが少ないため、そもそも学校に通える子どもがあまりいないのだ。

実は退学と卒業には大きな違いがある。

退学の場合は編入などの試験を受けて再入学が可能だが、卒業の場合はよほどの事情がない限り再入学が認められない。


多くの上級学校が初等学校の卒業を必須としているため、進学をするためには卒業証明書が必要となる。

アリシアは他の領地の初等学校を卒業したわけでもなく、すでに王都上級学校への進学が決まっているため、この年で卒業して証明書を受け取れるようにしておく必要があるのだ。

クレメンテとアリシアは、王都上級学校の合格が分かった時点で卒業を決めていた。

そのため、毎年行われる選択授業の希望を提出せず、代わりに卒業を希望する書類を提出した。



卒業は全ての選択授業の試験が終わった一週間後に決まった。

卒業式は貴族科目の生徒が授業で利用しているダンスホールに集められ、全科目共通で行われる。

卒業生と教職員のみが参列可能で、両親はもちろん、在学中の兄弟もその場に入ることは許されていない。

普段はダンスの練習のために空いている中央のスペースに生徒が着席するための椅子が並び、壁側にも教職員のための椅子が用意されている。

この日は生徒の座席も決められていた。


アリシアは授業のときと同じように、ギリギリに中に入り席に着いた。

しばらくすると、会式の挨拶があり、卒業式が始まった。

壇上で校長が祝辞を述べてから、一人ひとり名前を呼ばれて卒業証書と成績証明書が渡される。

卒業証書授与式という扱いなので席順に立って一人ずつ壇上で受け取る形式だが、流れ作業ではなく、校長が卒業生と会話を交わすため、進みは遅い。

校長とはパーティか卒業式でしか会話をする機会がないため、生徒も気になることは積極的に質問している。

アリシアもせっかくなので何か質問した方がいいのか考えたが、どうしても思い浮かばず、


「お世話になりました」


というありきたりな挨拶をしてすぐに次の生徒に場所を譲った。

授与が終わって三十分程度、教職員との挨拶の時間が設けられた。

生徒たちはお世話になった先生のもとに友人とともに駆け寄っていく。

アリシアは、以前濡れ衣を解消してくれた先生や、王都上級学校への進学を後押ししてくれた先生にお礼を言って回った。

最後に、壇上から降りていた校長に声をかけた。


「校長先生」


先ほど壇上でほとんどの生徒が会話をしたためか、歓談の時間、校長の周りには誰もいなかった。


「アリシア嬢。何かありましたか?」

「先ほどはどのような話をするか決められなかったものでご挨拶がうまくできなくて……この度は推薦状をいただきましてありがとうございました。無事学科試験も合格して進学が決まりました」


そう言って礼をすると、校長は申し訳なさそうに言った。


「私の推薦状がお役に立てたのならよかった。あれは、私たち教師陣があなたにできる数少ないことでしたからね。私が出さなくても誰かが書いていたでしょう。学校では辛いことも多かったはずですが、授業を投げ出さずに最後まで受講してくれたことは本当に感謝しています」

「いいえ、こちらこそ素晴らしい授業をありがとうございました。授業で教わったことがあったからこそ、王都上級学校への進学が叶ったのです。生徒同士のことに関しては対応が難しいことも理解しているつもりです」

「それでも……」


大人として、子どもを見守る立場として、そして教育者として本当はできることがあったのではないかと校長をはじめ、講師たちは考えていた。

しかし、アリシアが回避する努力をしていた上に、証拠を押さえることが難しかったこともあり、なかなか助けを出すことができなかった。

たった一回だけしか、彼女を助けることができなかったことは本当に悔やまれる。

彼女に悪いところがなく、優秀な生徒だったからなおさらだ。

本当なら王都上級学校を卒業したら講師として戻ってきてほしい人材だが、それはこの学校がしたことを考えれば諦めるしかないだろう。


「君のような優秀な生徒が卒業生であることを、わが校は誇りに思います」

「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」


そんな表面的な話をしているうちに時間は過ぎて行った。

結局、数十人の授与式は三時間ほどで終わり、その場で解散となった。



解散後、名残惜しそうにホールを出ていく人たちについて、最後のホールを出た。

他の人たちはそのまま街に繰り出して卒業のお祝いをしたり、友人たちとの別れを惜しんで宴をしたりするらしい。

特に誘われることもなかったアリシアは学校を出たらまっすぐ家に帰ることにしていた。

おそらく誘われても寄り道はしなかっただろう。

すでに引越しの準備は順調に進んでおり、部屋の荷物はほとんどまとまっていた。

あとは先日、両親によって注文されたお茶会用のドレスと夜会用のドレスが届いたら詰めるだけである。


時間に余裕のあったアリシアは、一人でずっと通っていた渡り廊下の奥の芝生と温室を見てから学校を出ることにしていた。

卒業証書を持って学校を出たら、もうここに戻ってくることはない。

許可を取れば入れないこともないが、少なくとも今のように自由に出入りできる立場ではなくなる。

嫌な思い出も多い学校だが、この二ヶ所は自分が家族との密会の場所として選び、ずっと通い続けた場所だ。

芝生は寒さが強いせいか土が多く見えていた。

春になると若芽が出てきてきれいな緑に覆われるが、残念ながらもう少し先になる。

それでもその後ろに見える森も、芝生の広さも変わらない。

温室は、冬の間ずっと通い続けていた。

最後の授業日のお昼もここで取ったので、目新しさはない。

外は寒い日が多かったため、暖かい温室は眠たくなるほど心地よかったことを思い出す。

お昼の際はいつも決まったベンチに座っていたが、今日は温室全体を隈なく歩くことにした。

結局、新しい発見はなかったけれども、歩いたことで思い残すことはなくなった。

アリシアは最後にしっかりこれらの場所を目に焼き付けて、初等学校に別れを告げたのだった。

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