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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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デビュタント

貴族科目の仕上げとして、年一回学校主催で開かれるパーティへの参加があった。

このパーティは一般にも開放されており、マナー、ダンスなど、貴族としての振る舞いを確認する実習という目的と、辺境という場所が王都から離れた場所にあるため、王都主催のパーティなどに参加できない貴族を形式的にデビューさせるという目的を兼ね備えたものとして開催されるのである。


講師も参加しているので、実習生はわからないことがあれば講師に相談することができるが、実習として参加している場合この夜会は成績評価の対象で、粗相をすると減点になる。

社交の場というのは、どのような形で参加していても、マナーを守っていれば問題にはならない。

夜会での飲食は必須ではないため、必ず何かを飲んで飲み方のチェックを受ける、食べ方のチェックを受けるということはないし、会話も内容を聞かれるわけではなく相手が不快な思いをしたかどうかを表情などから読み解く程度である。

積極性も問われないため、壁の花になっていてもいいということだ。

その場で喧嘩や騒ぎを起こして大声を上げたり、飲み物を床にぶちまけたりなど、目立つようなことをしなければ減点の対象にはならない。

なお、夜会での成績加点はない。


学校主催のパーティは公式の夜会となるため参加資格は親が同伴しても十歳以上とされているが、マナーを学んだものであれば貴族である必要はない。

そのため、平民で貴族科目を選択していた卒業生や、その子どもたち、森の辺境に留学で来ていた人々などが毎年参加している。

アリシアは貴族科目の実習という目的でこのパーティに参加するつもりだったが、同時にここでデビュタントも済ませてしまおうという両親の意向もあり、父親との参加となった。



普段は高貴な来客にしか解放されないホールは、着飾った街の人々で溢れかえっていた。

本来は主催の貴族が場を仕切るのだが、主催は学校なので学長が仕切る。

挨拶などの練習も兼ねているので上座には学長が控え、彼らの挨拶を受け取っている。

アリシアとクレメンテも会場に入り、形式通りに挨拶を済ませると、壁によって音楽を待った。

待っている間、こちらをちらちらと伺ってくる人がいるが、二人は気にすることもなく飲み物を片手に話をしていた。

クレメンテは辺境伯領の領主であり、この場には彼より同位もしくは高位の人間などは片手で数えられるほどしかいない。

この場においては貴族の中では高位の人が話しかけなければ、よほど親しくない限り相手から話しかけてくることはない、というマナーを参加者の大半が実践している。

成績のかかった初等学校の講師の目があるためだ。

自分の身内が学校に入った際にどこでここにいる講師に当たるか分からない。

直接成績に関係がなくても、先生に悪い意味で目をつけられないようにしながら、領民が貴重な体験をする場なのである。

領民が無料で好きなだけ飲み食いし、騒いでよいという意味で解放されているわけではないのである。



音楽とともにパートナーを伴った男女が中央に躍り出た。

ダンスが始まると、会場の雰囲気がより華やかになる。

アリシアには書類に囲まれて座っているイメージしかないクレメンテだが、領地を見まわることも王都に行くことも多く、社交への参加も珍しくない。

クレメンテは試験やデビュタントで緊張している人たちが多い中、会場の緊張感に飲まれることなく、アリシアを丁寧にリードしてくれる。


「お父様と踊れて光栄です」

「私もデビュタントでアリシアのパートナーができて光栄だよ。踊りにくくないかい?」

「踊りにくいなんて……。むしろ、安心してついていけます」


アリシアは笑顔で答えた、

踊りながら会話を続け、二人は疲れを見せることなく笑顔で一曲を終えた。

終えると二人は飲み物をとり、壁に寄った。

フロアでは音楽もダンスも続いている。


「アリシアはこれから王都で夜会に出ることもあるだろうが、一緒に出ることができなくて残念だ」

「お父様?」

「……遠くなってしまうからな」


クレメンテはこれがアリシアと踊る最初で最後のダンスになることを覚悟していた。

物理的な距離だけではなく、いつアリシアが手の届かないところに行ってしまうかわからないからだ。

あれから連絡はない。

だが、そろそろ来るはずなのだ。

本当に陛下が送ってきた書簡が真実ならば、アリシアを手放すその時が。


「お父様。遠くに行っても私はお父様の娘です。私はこの先もあまり社交の場に出ることはないと思いますが、お父様と同じ夜会に出席の際は一緒に踊っていただけますか?」


何も知らないアリシアは無言になってしまったクレメンテにそう言った。


「ぜひ、お願いしたい。娘にそう言ってもらえる私は、本当に光栄だな」


クレメンテはアリシアを愛しむように笑いかけた。



その後も二人はそろって行動し、食事に手をつけ、時には父親が話しかけた貴族や騎士たちとの会話にアリシアが混ざるなどしながら時間を過ごしていった。

父を含めた社交の会話は現在の情勢や王都の近況、経済、諸外国のことなど多岐にわたっている上、重い話題が多かったが、状況が常に変わっているという現実をアリシアに突き付ける結果となった。

学校の雑談や、お茶会などで行われているという世間話にはあまり興味はなかったが、社交の場においては、相手を選んで会話をすることで有意義な時間と情報を入手できるのだ。

父はこのような相手を見極めて、自分の周囲に置いている。

そして、一切無駄な交流や狎れ合いを行わないスマートな社交を見せてくれた。

この時アリシアは、自分の父親の有能さと、社交は人間関係だけではなく、最新情報を得るための機会で、貴族たちがこれらを重視する意味をしっかりと理解したのである。



会場内では音楽の演奏が続いており、まだ人がたくさん残っているが、ある程度、交流を済ませると、アリシアとクレメンテは会場を後にした。

ホールから家まで歩いて帰れる距離ではあるが、盛装をしていることもあり、行きも帰りも馬車を利用していた。

クレメンテのエスコートで馬車に乗ると、二人は向かい合わせに座った。


「とても勉強になりました。たくさんの方をご紹介いただいてありがとうございます」

「いや、彼らは今後、大人になったアリシアと深く関わる可能性がある。王都にもよく顔を出しているようだから、王都の社交の場で、もし困ったことがあったら頼るといい。私にできるのはこのくらいしかない」

「はい」


短い馬車での移動を終えて、アリシア初の社交の一日は幕を閉じたのだった。

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