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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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受験結果

受験の日から十五日ほど経った頃。

アリシア宛に王都上級学校からの通知が届いた。

受け取ったのは母親のアニーだったが、開封しなくてもその厚さからすぐに内容を理解したため早く渡したかったようで、アリシアが帰るのを落ち着かない様子で待っていた。

アリシアが母親の前で封書を開けると、合格通知と入学手続きの書類、そして、特待生度の案内が入っていた。

王都上級学校貴族コースへの進学を上位の成績で勝ち取ったのだ。


「おめでとう!アリシア」

「ありがとうございます。お母様。お父様にも報告してまいります」


アリシアは父親に報告するため、彼の執務室に書類一式を抱えて向かった。



アリシアがクレメンテの執務室のドアをノックするとすぐに返事があった。


「入りなさい」

「失礼いたします」


静かにドアを開けて中に入った。

すでに、母親から報告があったのか、封を開ける前から落ち着かない母の様子を知っていたのか、相手がアリシアだとわかるとすぐに中に通された。


「お茶を用意するから座りなさい」

「はい」


特に人払いをすることもなく、アリシアが近くの椅子に座ると、向かい側にクレメンテがついた。

それぞれの目の前には温かい紅茶がすぐに用意された。

紅茶を出されたタイミングで、書類を腕に抱えたままアリシアは報告をした。



「お父様、無事に合格いたしました」

「おめでとう」

「はい、ありがとうございます」

「ずっと優秀な成績を修めていたから、あまり心配はしていなかったが、合格通知が来るまでは不安だったな」

「王都上級学校は入学が難しいと聞いていましたから、ずっと不安でした。良い報告ができて嬉しいです」


言葉に出したことでようやくアリシアも合格したという実感が出てきて、後半は少し涙声になっていた。


「王都上級学校に入学すると、アリシアは寄宿舎で生活することになる。初めて領地や家族から離れて暮らすことになるから不安も多いだろう」

「そうですね」

「寄宿舎の部屋が決まったら引越しの準備をして、学校生活が始まる前に入って、寄宿舎という環境に慣れた方がいいだろう。荷物の整理もしなくてはならないし、新しいことを同時に始めると慣れるまでの負担が大きいからな」

「わかりました。まずは持っていくものを決めたいと思います」


王都上級学校入学試験という大きいイベントが終わったため、進学科目の授業が任意出席となっていた。

これから試験が行われる上級学校を狙っている生徒や、自習時間として授業を利用する生徒は出席しているが、他の領地の上級学校に合格した者や、別の進路が決定した者、本年の進学を諦めた者はすでに出席していなかった。

アリシアの他の生徒の邪魔にならないよう、学校に報告の上で今後はこの授業を欠席する予定だ。

この時間を引越しの荷造りや、部屋の整理に使えばちょうどいいとアリシアは考えていた。

その他、王都に関する情報もどこかで調べておかなければならない。

そこまで考えて、ふと思い出したことを口にした。


「そう言えば、お父様は王都上級学校の卒業生でしょうか?」

「その話をした記憶はないが、その通りだよ」

「私はお父様の後輩になるのですね」

「そうだな」

「王都上級学校はどのようなところですか?」


あまり昔の話をしない父だが、陛下にお仕えする立場になるのだから、その登竜門ともいえる王都上級学校の卒業生ではないかと考えたがその通りだったようだ。


「研究所なども併設されているし教育環境がかなり良い。この辺境領の学校設備も王都上級学校にあったものの中から初等教育に必要なものを取り入れているが、教員の質も、学生のレベルも王都上級学校の方が格段に高い。さまざまな地域から来ている生徒と話すと視野も広がるし、勉強したいことがある人には申し分ないところだ。学校の敷地内に寄宿舎があるし、学校に警備がついているから通学だけなら何も心配はない。あと、私はここの学友と今でも付き合いがある。皆、それなりの地位にあるものばかりだ。優秀な人が多いから、縁をつないでおけば将来の助けになってくれる人脈になるだろう。卒業生のほとんどが王宮に仕えたり、領主になったりしているからな」


クレメンテの話から、今後のアリシアに多くの人脈が必要かどうかはわからないが、学校の生徒とは無理のない範囲で仲良くしておいた方がいいということはわかった。

あまりにもぎくしゃくしてしまうと、トラブルの原因になるということなのだろう。


「できるだけ領地に貢献できるよう努力いたします」


アリシアが言うと、クレメンテは言った。


「アリシア、私が言ったことは結果論だ。まずは学生生活を存分に楽しんでほしい。自由の利かない大人になる前の最後のステップだ。アリシアがずっと勉強を頑張っていることはよくわかっている。これからも努力は怠らないでほしいが、それだけにはなってほしくないんだ。王都の街を散策したり、友人と遠出をしたり、学生のうちから社交の場に出て行ってもいい。夜会やお茶会も、学生のうちなら友人と出席していても何も言われない。多くの経験、それら全てが今後の人生の糧になる。大人になってしまってからではできないことが多いからな」


辺境の地に縛られて、国からの命令に縛られて、なかなか身動きの取れない立場であるクレメンテの言葉は説得力があった。

基本的に辺境の領土を離れることが難しいのが辺境伯という立場である。

彼も本当は自由に出かけたり、好きな土地まで遠出したり、ゆっくりする時間が欲しいのだろう。

アリシアには話を聞きながら黙ってうなずくことしかできなかった。


「学校の寄宿舎には相談室もある。何か困ったことがあったら相談してみるといい」

「はい。そういたします」


実家に手紙でやり取りしようにも間に合わないような困りごとが出てきた時、学生の相談に乗ってくれる相談室があるというのは心強い。

広い地域から集まる学校だからこそ、用意されているものなのだろう。

他にも学校生活で役に立ちそうなことを先輩である父に色々聞いてしまったが、執務室でアリシアのために長く時間を使ってもらうのはよくない。


「また、心配が出てきたら相談させてください」

「わかった。いつでも聞きに来なさい」

「ありがとうございました」

アリシアは立ち上がって頭を下げると、クレメンテの執務室を後にした。



その日の夜はいつもより少し豪華な食事が並んだ。

そして、アリシアの進学の話題になると、クレメンテが説明を始めた。


「春からアリシアは王都の学校に通うことになった。家から学校には通えないから、アリシアは王都に住むことになる。春からはあまりアリシアに会えなくなるからそのつもりでいるように」


この話が出てくると、合格のお祝いムードが少し寂しい空気に変わった。


「お姉様に会えなくなるのですか……」


弟と妹は寂しそうにうつむいてしまった。

すごく仲が良いというわけではないが、アリシアが小さいころから母親を手伝って面倒を見ていたこともあり、二人にとってはいるのが当たり前の存在となっていたのだ。


「でも、王都の学校では、遠くから来ている人たちが多いのもあって、長いお休みがあるみたいだから、その時には帰ってくるようにします。学校に慣れるまでは大変かもしれませんが、できるだけたくさんの手紙も書きますね」


アリシアがなだめるように言った。


「まあ、春までまだ時間もあるのだから、今のうちに話したいことはたくさん話しておきなさい。一緒に行きたいところにも行っておくといい。こんなに長い間家族が離れて暮らすのは初めてだから不安もあるだろうが、アリシアは危険なところに行くわけではないのだから安心して見送ってあげなさい。王都上級学校に合格したことはおめでたいことなんだ。お前たちもいつか受けることになるだろうしな。その時はアリシアから学校の話をたくさん教えてもらいなさい」


クレメンテが続けると、弟妹は何度もうなずいた。


「そうよ。今日はアリシアが難しい試験に合格したお祝いなんだから、楽しく過ごしましょう」


食事の手が止まってしまったのを見て、アニーが食べながら話すことを促すと、全員が食事に手を伸ばした。

そこからはいつもよりゆっくりと食事をとり、たくさん会話を堪能する。

この日の夜は、ゆっくりとした家族の時間を過ごすことができたのだった。

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