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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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留学の報告

「戻ってきたな」


アレクが執務室のドアを開けると、目の前にはすでに仕事を始めている部屋の主の姿があった。

主は金色の瞳でアレクの姿を認識すると、柔らかい笑みを浮かべて迎え入れた。

この部屋は王都の王宮内にある第二王子フランツの執務室である。


「お久しぶりです」


アレクがフランツの前で一礼する。


「そうだな。まともに会うのは何ヶ月ぶりだろうか」

「半年ぶりくらいでしょうかね」

「全領土はさすがにきつかったな」


書類に目を落としながらフランツは言った。


「さすがに短い期間であちらこちら回ってるから、わけがわからなくなりそうだ。まあ、一度見ているのと見ていないのでは違うんだろうけども」


ため息交じりに答えるとアレクも仕事を開始した。


「いや、本当に助かったよ。後で各領地の感想をじっくり聞きたいね」

「この書類の山が片付いたらそうしよう」


二人は書類に目を通しながら話を続ける。


「ああ、そうだ」

「なんでしょう?」

「外での言葉遣いには気をつけてくれ。しばらくフランクな会話しかしていなかったから、戻すのは大変だろうが……」

「ああ、そうですね。気をつけます」


学生気分が抜けないままでは色々やらかしてしまいそうだと、アレクは気を引き締めた。



昼食をはさんで留守中の書類の山を片付けたフランツとアレクは、執務室内でお茶の時間を迎えた。

二人はテーブルを挟み、向かい合って座ると、アレクがテーブルの上にレポートの束を並べ、お茶はテーブルの脇にある背の低いワゴンに移動させた。


「これが今回の留学先に関するレポートです。各領地別にまとめてあります。辺境の領地はどこも手腕がすばらしいですが、王都に近い商業地域と農業地域を主体とする領地は改善の余地があるでしょう」

「そうだな。現時点で問題はないが、商業地域には進化が見られず今のままだと荒廃していくだろうし、農業地域は自然災害時の対策を強化し、もっと備蓄を積極的に進めていかないと、不作の時に大変なことになるだろう。備蓄は王宮内で行っても構わない気がするが、それだと彼らに危機感を植え付けることはできないか……」


レポートをめくりながらフランツは目を細めた。


「とりあえず、陛下に見せる材料はそろっているし、不足については僕から説明を入れればいいかな。これが受理されて、やっと一連の留学が終わったと言えるんだ。頑張るよ」


フランツはひとつひとつ丁寧に作られたレポートを手に取ってひとまとめにすると、机の端にまとめた。


「とりあえず、お茶でも飲んで休憩しようか」

「はい」


アレクは先ほどワゴンに戻したティーカップに二人分のお茶を入れてテーブルに置いた。



留学に関する報告のため、指定された時間にフランツは父である国王陛下の執務室に足を運んだ。

早速レポートを提出し確認を仰いだが、レポートに関してはさほど質問を受けずに終わった。

各領地から定期的に報告を受けている国王にとって、珍しい情報はなかったのだろう。


「留学はどうだった」

「大変有意義でした。先ほど執務を終わらせて参りましたが、より内容がスムーズに入ってくるようになったと感じております」

「そうか。今後、現地に足を運んでもらうこともあろう。次に訪れた時、留学の日より変わっているところもあろうが、その変化をしっかりと捉えてよき道を提案できるようになってもらいたい」

「はい。この経験を生かし、兄上とも話をしてみたいと思います」

「そうするといい」


フランツの兄、第一王子もとい皇太子は、公務といいながら色々なところに足を運んでおり、諸国を回り続けていて、どこに居るのか所在がはっきりしない。

無事ではあるようだが、いつ帰ってくるのかも不明だ。

そのためその間の公務は第二王子であるフランツが受け持っており、公式行事にも代行で出席することが多い。

フランツは兄が国王として即位した場合、自分は文官として支えることになるだろうと考えており、ずっと城内にいることになるのではないか、市井を、現実を知らないまま置いていかれるような不安をずっと抱いていた。

現地に足を運んで、という言葉を国王である父から受けられたことは、ずっと抱いていた不安を払拭するのに充分だった。



「ところで……」


国王は続けた。


「森の辺境には行ったな」

「はい」


もうひとつ、留学の大切な目的について確認されるようだとフランツは身を硬くした。


「アリシア嬢に関してはどうだ」

「残念ながら、あまり接触できませんでした。少し話をした限りでは、内気で穏やかな印象を受けましたが……学内での生徒からの評判があまり良くないようです。辺境伯の娘が領内の初等学校にいるということが原因なのか、他に原因があるのかはつかめていません。彼女が公序良俗に反する行いをしている様子はありませんでした。優秀で勉学、実技ともに成績はかなり良く、教職員からの評判は良いです」

「王家に迎えるとしたらどうだ?」

「問題ないと思います」

「ほう。そうか。よほど気に入ったのだな」


フランツが問題ないと即答したことで、気に入ったと認定されたらしい。


「……どうでしょう」


正直、一度しか話をしていない。

気に入ったといえば気に入っているが、この場で子どものようにうなずくのは違うため、苦い回答をするしかなかった。


「お前の報告には内面のことしかないようだが、外見のことも聞いておこう。会ったことはないのでな」

「長い黒髪に、黒い瞳の絵画に出てくるような美しい少女でした。目の前を通り過ぎるだけで目を奪われるような……」


そこまで言ってフランツは言いよどんだ。

鳥に囲まれ、動物に守られ、自然に愛される女神のような……、間違いではないこの言葉が、この席で適切なのかはわからない。


「どうした」


国王が続きを促した。


「いえ、遠くから見た彼女は、まるで女神のようだったと、思い出しておりました」

「まだまだだな」


国王はフランツの目が一瞬泳いだのを見逃さなかったらしい。


「申し訳ありません」


フランツは頭を下げた。


「お前の頑張りに期待している」


フランツが顔を上げると、そこには座ったまま笑みをたたえた父の姿があった。


「仰せのままに」


礼のために頭を下げると、フランツは執務室を後にした。



「あと七年か」


アリシアの年齢を計算し思わずつぶやいた。

七年の間にやらねばならないこと。

まずは彼女を守るだけの力をつける。

暴力的なものはもちろん、誹謗中傷からもだ。

そして、彼女が王都に来たらすぐに接触する。

彼女が結婚できる年齢になるまで七年あるが、それまでに何としてでも彼女と出会ったという事実を作らなければ先には進めない。

だから人との接触を避けている彼女と出会うためにあらゆる手段を使おう。

接触できない間も彼女の方法はできるだけ集めておかなくては。

フランツは頭の中に未来への道を描きながら、一人で思案するのだった。

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