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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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留学終了

「明日はいよいよ最終日ですね」


寮の部屋の整理を済ませた夜も、二人はロビンソンの部屋で語らっていた。

夜に二人でその日のことを話すのは、留学生活の日課だった。


「そうだな。明日の授業が終わったら王都に向かって出発か」


ため息交じりにロビンソンが言った。


「森の辺境は思っていた以上に豊かで安定しているようだな。街に獣が出るようなこともなかったし、備えもある。さすが国内一の領土を管理しているだけのことはある」

「ええ。領民の満足度も高いですし、教育水準も中途半端な領地より高い。何より教育内容が実用的で、きちんと将来を見据えていることがわかります」


滞在中に受けた教育と、行ける限りの場所を見て回った感想を各々が述べ、二人は窓から外に目を向けた。

寮の窓からでも塀の向こう側に広がる森がよく見える。

月に照らされて、その奥に何があるか分からない闇の部分が見え隠れしていた。

風が吹けば眼下に広がる黒い森はうねった波のように葉を揺らしていた。


「気になりますか?」

「まあ、な」


温室の日以降、ロビンソンはアリシアと話すどころか姿を見かけることすらできていなかった。


「成績は優秀なようですし、彼女が進学すればこちらに来ることもあるでしょう」

「ああ、ぜひそうしてもらいたいな」


寮の中ではいつ人に聞かれてもおかしくないため、お互いに省ける単語を省きながら会話を進めていく。


「王都では彼女のことを知る人はいないだろうから、良い生活を送ってもらえるといいけどな」

「そもそも、彼女が進学を選択しない可能性はありますけど?」

「ああ、それは手を打っておくから問題ない」

「そうですか」


珍しく自分の権限を行使するのだなと、アレクは思った。

ロビンソンと呼ばれる男との最後の夜は、他人が聞いても分からない程度の私情と公務に関する話が入り混じった、たわいのない会話で終了した。


翌日もいつも通り準備を済ませ、二人は寮から教室に向かった。

留学中の荷物は寮の入口に二人分積んであった。

本日は晴天のため、荷物は室内ではなくすでに屋外にある。

授業が終わって彼らが寮に戻った時には、王都から来た迎えの馬車に荷物が積まれている予定だ。

そして、その馬車と一緒に彼らは森の辺境の地を後にする。



授業はいつも通り行われた。

特に教職員から彼らの留学終了日などは一切告知されることもなく、生徒は最終日なことを知らないのか、別れを惜しむような言葉をかけられることもなかった。

中途入学や退学者が多い学校では生徒が突然いなくなるのは普通のことなのだろう。



昼休み、アレクとロビンソンは少しだけ校内を周っておくことにした。

最終日なこともあり、何とか二人でうまく周りにいる人たちを巻いて目的地に向かう。

質問されたら最後に校舎のことを心に刻みたいとでも答えようと念のために回答を考えながら、ロビンソンの足は渡り廊下に向かっていた。

後ろからアレクがついていくのは変わらない。

そして、人の少ない渡り廊下で足を止め、木々の隙間から芝生の方に目をやると、そこに彼女の姿があった。

ロビンソンは迷った末、声をかけることを諦めた。


「いい子だと思うんだけど」

「そうですね。なんであのようなことになるのか不思議です」

「か弱そうだから……だろうか?」

「わかりませんが、この土地の子どもは彼女を気味悪がっているようなので、昔に何かあったのかもしれませんね」

「調べれば、いずれわかるのかな」

「時間はまだありますから」

「そうだな。それに自分もやらねばならないことが増えたから、まずはそこからだ」


芝生に座って鳥たちに笑顔を向けている黒髪の少女を目に焼き付けて、ロビンソンは決意を新たにする。

その時のアレクにはロビンソンの言う、やらねばならないことの中身はわからなかったが、その決意が間違ったものではないということだけは直感的に理解できた。


「できる限り協力いたします」

「ありがとう」


アレクからの回答に満足したのか、ロビンソンはお礼で返し、名残惜しそうに少女の方を見ながら渡り廊下から次の教室方向へと足を進めた。



「お世話になりました」


最後の授業を終えて寮に戻った二人は、お世話になった寮の職員に丁寧に頭を下げると馬車に乗り込み、学校を出発した。

馬車は街の中をゆっくりと進みながら、森を背に領地を離れていく。

ロビンソンは名残惜しげにしばらく外の様子を眺めていたが、代り映えのしない景色になったところで目線を馬車の中に戻した。


「お疲れさまでした」


やっと現実に意識が戻ってきたと思われるロビンソンにアレクが言った。


「お疲れさま……だな。やっとこの眼鏡と毛染め生活から解放されると思うと嬉しくて仕方がないよ。本来の自分を忘れてしまいそうだったからね」


ロビンソンは笑顔で答えた。


「これから王都まではしばらくかかりますから、ゆっくり休みましょう。お互いに」

「そうだな」


そうして二人は馬車に揺られながら眠りについた。



なお、アレクとロビンソンが短期間で多くの生徒の人気を獲得してしまったことで、突然失った穴は意外にも大きく、彼らがいなくなった後の学校がしばらく暗い雰囲気に包まれたことを彼らは知らない。

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