ロビンソンの狙い
アリシアと温室でのひと時を終えて授業に戻ったロビンソンは教室でアレクと合流した。
授業が始まる前に色々確認しようとアレクが声をかけた。
「どうでしたか?」
「いや、それが……」
「何か問題でも?」
「次の約束を取り付けられなかったんだ」
教室のため小声で話をしていた二人だったが、最後のロビンソンの声は消えそうなくらい小さくなっていた。
アレクは大きく息を吐いて会話を進めた。
「そうでしたか。それでそんなに複雑な表情なんですね」
「顔が複雑かは分からないけど。せっかくお昼に囲まれるの一人でやってくれたのに申し訳ないよ」
「ちなみに、どうやって誘ったんですか?」
「森の中を案内してほしいって伝えたんだ」
ロビンソンは目を伏せた。
断られていることを気にしているのは自分の方だ。
「それは……だめですね。だって、初対面の子にデートしてくれって言ってるよね?」
「デートしてくれとは言ってない」
「でも、二人で出かけてくださいって言ってるように聞こえるけど?」
「……」
確かにロビンソンは彼女のことを知ろうと焦っていた。
少しでも多く話をして、一緒に過ごして、できるだけ彼女に関する多くのことを理解したいと思っていたのは間違いない。
「ちょっと焦りすぎだと思いますけど」
「わかってるよ。でも時間がない。森の辺境は広いし今まで話しかけてきた人の中に、こちらが知りたい場所を案内ができる人がいなかった。彼女なら森に詳しそうだし、案内してもらいながら親交を深められたらいいなって思ったけど」
「とりあえず、校内であったら挨拶するくらいのところから始めるしかないですね。警戒された気がするし」
アレクの言葉にロビンソンはむっとして言った。
「何もしてないよ?お話しながらお昼食べただけなのに」
「何かしてたら困ります」
「でも、美辞麗句を並べるのも良くないよね?廊下ですれ違ったあなたがあまりにも美しかった。芝生で鳥と戯れる様子は絵画に残る女神のようで……」
「もういいよ」
アレクは教室内でアリシアを讃える言葉を並べ始めたロビンソンの会話を遮った。
「本気なのに」
「よくそんなポンポン出てくるよな」
「まあ、大人の世界の会話に慣れているからね。どんな人でも持ちあげられる自信は……それなりにあるよ?」
「悪かった……」
アレクもロビンソンに貴族の話術で対抗する気はない。
学校内では気弱そうにしゃべっているが、彼の会話は計算されたものが多い。
自分の欲しい答えを引き出すための話術は、大人と渡り合う中で鍛えられたものだ。
珍しく感情で喋っているところが見えたので突っついてみたが、話しているうちにいつもの調子に戻ってしまったようだ。
「とりあえず、アレクの言う通り、彼女に会ったら挨拶はするよ」
ため息交じりにロビンソンがつぶやいたところで、授業が開始されたため、彼らは授業に集中することにしたのだった。
留学生活も後半となったものの、相変わらずアレクとロビンソンは人だかりの中心にいた。
そのため、二人が昼休みに芝生や温室に直接足を運ぶと、彼らがついてきてしまう可能性があり、アリシアに配慮するならば行くべきではないと判断し、できるだけこれらの場所は遠ざけるようにしていた。
教室移動の際にアレクがうまく言って周りの人を引き付けて、ロビンソンが何とか一人で行動できる時間を作ったりもしてみたが、彼はなかなか彼女には巡り合えていない。
アリシアが授業終了と同時に教室を飛び出して、移動中は人の少ない廊下を駆け抜け、次の教室の周辺で見つからないように身を隠しているとは知らない彼らに、アリシアを見つけるのは不可能だった。
彼女は生徒に見つからないように隠れているのだから、よほどのことがない限り廊下で偶然会うことはできないし、ロビンソンが周りにいる人の目を盗むタイミングを見計らっている時間で、彼女は移動を済ませてしまっていると思っていい。
寮の夕食前、ロビンソンはアレクの部屋を訪ねていた。
「やっぱり昼休みじゃないと時間が足りない。教室が離れているんじゃないかな?」
教室移動の時間に偶然出会って挨拶をする、その回数を増やして警戒心を解きたいという思惑で動いている二人だったが、一度も会わないとなると他の方法を考えるべきだということを感じるようになった。
「昼休みはいないとばれると思うけど」
「ばれても探されなきゃいいよ」
「それだと俺が色々聞かれるから困るんだけど」
「僕はそんなに存在感ないと思うよ?みんなアレクが目当てだよ」
「そうやって押し付けないでくれよ……」
ロビンソンを応援しているアレクとしては協力してあげたいと思うところだが、前回温室に行くためにロビンソンが消えた日のことを思い出して苦笑いした。
確かにアレクの方がロビンソンより背が高く、花があるように見えて目立つらしい。
二人一緒にいれば最初に声をかけられるのはアレクの方だ。
でもそれは、ロビンソンには独特の空気があり、気軽に声をかけてはいけないような気にさせているだけで、本来の性格を偽っていても、喋り方をおとなしくしても、見た目を地味にしても、消したくても消しきることのできない存在感がある。
なので、前回、いないことは割と早くばれていた。
彼が抜け出して見えないところまで逃げ切っていたことだけが幸いだったが、食事をしている間中、どこに行ったのか、何をしているのかと聞かれて、知らないと答え続けるのに多くの時間を使うことになったのだ。
「あと一週間しかないんだ。もう一度話がしたい。植物のことじゃなくて、彼女のことを聞く時間が欲しい」
ロビンソンが縋るような目でアレクを見る。
「そもそも校内で見つからない令嬢と話すのは無理でしょう」
「じゃあ、家の前で待ち伏せすればいい?絶対会えるよ?」
「それ危ない人でしょ」
「だよね」
うなり声を洩らしながら目を閉じて上を向いたロビンソンを見下ろしながら、アレクはため息をついた。
「今回はあきらめましょう。やることはやらないと」
「そうだな。もう学校の授業のレベルはわかったし、後は領内街部の再確認と、森はもっと広域の確認がしたい。アリシアは許可があれば観光開発されている以外の、開拓部分には入れるような話をしていたから許可証をもらっておいて、時間ができたらもう少し開拓部門の仕事も見ておきたいかな」
「ちゃんと考えているんですね。安心しました」
「そりゃあね」
ロビンソンは目を開けてアレクを見上げながら続けた。
「それを名目に出された留学許可だから、やることはやるよ」
首の位置を正面に戻してロビンソンは立ち上がった。
「ご飯食べに行こうか」
「そうですね」
アレクはロビンソンに続いて自室を出て、彼の後ろについて食堂に向かった。




