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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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王都からの留学生

アリシアが入学してから六年が過ぎた春の月、森の辺境にある初等学校に、王都から留学生がくることになった。

王都からかなり距離の離れている森の辺境では、留学生を送り出すことは多いが、受け入れることは少なく、普通の留学生を迎えるのは大変めずらしい。

森の辺境にくる留学生は、親の都合で辺境に越してくる予定で編入を悩んでいる学生か、森の生態系や植物などについて研究したい者などで、その後この土地に住むことを想定している場合が大半である。


ちなみに森の辺境の学力レベルは国内ではかなり高いと言われている。

役人や騎士の登竜門と言われている王都上級学校への合格者を多数輩出している上、領地にある研究部門が成果を上げているためだ。



国内には、学生は国の基準を満たすと、別の学校に体験入学できる制度があり、留学生には一校につき最大三十日の留学期間が与えられる。

なお学校の待遇は各学校の規則に準ずるものとなるが、森の辺境の場合は留学生専用の寮があり、学生だけでくる場合は無料で利用できる。

寮は一人一部屋、ベッドと机と小さいキッチンがついているが、朝晩の二食は食堂で取ることができ、共同の風呂も利用できるため、生活には不自由しない。



森の家族に支えられて何とか乗り切ってきた初等学校の生活もついに後半を迎えていた。


「あいつ、勉強だけはできるからな」


授業で実力を立証した後のアリシアの評価はいつの間にかそのように落ち着き、少なくとも成績のことに関して悪く言われることはなくなっていた。

この一件があってからというもの、少しではあるものの教師たちという人と話す機会が増えていた。

彼らが大人であることもあり、アリシアは言葉づかいを整えれば妖精たちと同じように接しても大丈夫ではないかと思えるまでになっていた。

また、この頃になると、アリシアは生徒相手でも不快感を与えず授業に必要なコミュニケーションを成立させられるくらいの能力を身につけることに成功した。

これは我慢して受講していた貴族科目のマナーレッスンの賜物ともいえる。



今回この制度を利用してやってきたのは貴族の男子二人だった。

一人はアレクというこげ茶色の髪と瞳をもつ青年で、もう一人はロビンソンという薄茶色の髪と厚いレンズの眼鏡越しに緑の瞳が見える青年である。

二人ともスタイルがよく品のある整った顔立ちをしていたため、初日の登校時からあらゆるところで話題になっていた。


彼らの通学初日、授業の教室を移動するたびに留学生の話が耳に入ってきた。

挨拶をすることができたとか、今はどのクラスを受講しているとか、そのような内容が大半を占めている。

正直アリシアにはあまり興味のある話ではなく、生徒全体から観察対象になっている彼らは可哀そうだと感じていた。

彼らが選択している授業がアリシアとかぶっているわけではなく、彼女が特に彼らを見に行こうというミーハーな精神を持ち合わせていなかったことから、授業が終わると、多くの女子生徒たちが彼らのもとに向かうのをただ見送って、自分は次の教室に移動するだけだった。

自分は彼女たちとは違うということを言いたいわけではなく、自分が彼女たちと同じように留学生を見世物にする人になりたくないという気持ちがうっすらとあり、気がつけば彼らを避けて行動するようになっていた。



アレクとロビンソンが留学生として学校に来てから一週間が過ぎた頃、彼らの前を一人で鞄を抱えて渡り廊下に向かっていく黒髪の少女が彼らの前を通り過ぎた。

彼女は自分たちを見ることも立ち止まることもなく、ただ通り過ぎただけだったが、彼女はその一瞬だけで目を引く美しさを持っていた。


「今の娘は?一人みたいだけど誘ったほうがいいのかな?」


アレクが一緒に移動している男性のクラスメイトに声をかけた。

周りには彼らとなんとか話す機会を狙っている女生徒達が群がっている。


「アリシアか。見た目は美人だけど近づくやつはいないな」


彼女が向かった先を見て、すでに姿が見えないことを確認すると一人が言った。


「勉強はできるんだけどさ」

「森で独り言をずっと言ってて気持ち悪いんだよな」

「ああ、そう言えば昔、妖精さんや動物さんと話をしてたーとか言ってたらしいしな。友達もいないみたいだし、今も妖精さんと仲良くしてんじゃねーの?」

「この領地の管理者の長女なんだけど、とにかく変な奴だから、あんまり関わらない方がいいよ」


アレクに向かって男子生徒達は思ったことを次々と口にした。

アレクは彼らの話を次々と受け流して聞いていく。


「アリシア……ね」


ロビンソンは少女の立ち去った先を見つめたまま誰にも聞こえないようにつぶやいた。

そしてため息をついて呼吸を整えると、何事もなかったかのように一緒に行動しているアレクに声をかける。


「お昼の席、なくなっちゃうんじゃない?そろそろ行ったほうがいいかも」


弱弱しく聞こえる彼の言葉に、アレクとクラスメイトは我に返ったようだ。


「立ち話してる場合じゃねー」


と、男子生徒の一人が言うと、慌ただしくみんなで食堂に駆けだした。

急なことで周囲の女生徒たちはついていくことができず、その場に取り残される形となったが、我に返った生徒が一人また一人と離脱していき、廊下は静かな空間を取り戻した。



その日を境に妖精や動物と話ができると言っていたという噂はアリシアの知らない間に学内に広がり、特に同年代の子どもたちから彼女は侮蔑の目で見られるようになった。

アレクとロビンソンの前で彼らがその発言をしたことで、周囲の人たちの多くがその話を耳にした結果である。

一瞬でもアレクやロビンソンの目に止まったこと、さらに男子生徒達が彼女を美人だと言ったことで、女子生徒たちの妬みや僻みの対象となり、尾びれや背びれが付いた話を広げられていったのだった。

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