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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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砂の辺境での交流

商売の話をしに行くと言って立ち去った隣国の者と領主の息子の背中を見つめていたアリシアがぽつりとつぶやいた。


「お礼を言えませんでした……。助けていただいたのですよね」

「そうだね。領主の息子が隣国の言葉を話せる人でよかった。彼が二人が何を話しているかを教えてくれたんだ。明日、改めてゆっくり話をすることになっているから、その時にお礼を言えばいい。私も改めて彼にお礼を言いたいからね」

「はい」


彼らが見えなくなると、二人はその場で向かい合った。


「アリシア、彼らの話しはどうまとまったのか教えてもらってもいいかい?」


フランツは落ち着いたところでアリシアに助けを求めた。

彼らが二人で話すようになってから急に話が分からなくなったのである。

気になってはいたものの、基礎しかないと言っていたアリシアも、彼らの流暢な会話を聞きとって自分の中で理解するのが精いっぱいのようだったため、その場で通訳を求めることはしなかったのである。


「はい。私も全てを理解できたわけではありませんが、まず、私がこの国の殿下という立場の人の結婚相手であるとご説明してくださって、その後は、自分と交流を深めて、商業に活かさないかと話しかけておりました。最後は商人を紹介すると言っておりましたから、おそらくお二人はそちらに向かわれたのではないでしょうか……。それにしても、彼はかなりの語学力をお持ちなのですね。やはり現地で生活されていた方は違います。森の辺境領などに人を派遣しなくても、彼がこの土地で言葉を教えればいいような気がいたしました」


アリシアが尊敬のまなざしを向けると、フランツはため息をついた。


「僕も外国語はしっかり勉強した方がいいような気がしてきたよ。王宮には専門の通訳がいるからどうしても頼ってしまって、なかなか言葉を覚えられないんだ」

「私も隣国の方とお話しするのは数えられるくらいですし、こんなに長く話したことはありませんから不安でした。失礼がないといいのですが……」


領主の息子の流暢な言葉を聞いてしまったアリシアが不安そうにしているのをフランツがなだめた。


「大丈夫じゃないかな。彼は相当アリシアを気に入っていたみたいじゃないか」

「そんなことは……」

「そうだ、王都に戻ったらアリシアに基礎を教えてもらうことにしよう。アリシアは僕の専属講師だね」


フランツの急な申し出にアリシアは困惑する。

一国の殿下に間違ったことは教えられない。

自分が聞きとった日常会話を伝えるのとはわけが違う。


「私では全然足りません……」

「そんなことはない。僕からすれば君の知識、教養は素晴らしいものだよ。もっと自信を持ってほしいな。何となくだけど、アリシアは本当に実践が足りないだけというところまで習得しているものが多いように感じるよ……。さあ、この話は戻ってから改めてということにして、せっかくの夜会だから、少し二人で顔を見せて回ってこよう」

「はい……」


フランツが肩に回していた手をほどき、エスコートするため、アリシアに手を差し出した。

アリシアがフランツに差し出された手を取ると、二人は会場の中央に向かって歩き出すのだった。



中央に出たアリシアとフランツは大きな歓声で迎えられ、会場は一気に盛り上がった。

一度会場で目立ってしまえば、再び挨拶の応酬が待っている。

二人はダンスを披露し、砂の辺境の貴族との親交を深めるため、彼らの話に耳を傾ける。

彼らが並んで話を聞いている様子は、婚約者同士というより、すでに婚姻をしていると言った方がしっくりとくる。



そんな二人の様子を話を終えた商人と領主の息子が遠くから見守っていた。


「お似合いのお二人ですね。殿下もよい人のようだし、これからも交流を持ってもらえたら嬉しいですね」


先ほどまで求婚していたはずの商人が、あっさりと彼らのことを認める発言をした。


「交流をすることはできると思うけど、今日はたまたまこの領地に視察に見えていてここにいるだけで、普段はここから馬車で丸一日くらい移動した王都にお住まいになってるから、来てくれというのは難しいな。彼らは公務で忙しいと思うし」


発言しながら、自分も彼らに会うのは難しい立場であることが思い出された。


「私が行く時はあなたが案内してくれるのではないのですか?」


隣国からの移動を考えれば、一日余分にかかるくらいは、どうとないということらしい。

彼は交流のためなら王都まで赴くつもりのようだ。

領主の息子はしばらく考えてから、返事をした。


「それはいいな」


実は迷い人や隣国のことばかりに捕らわれて、早々に隣国へ留学をしたため、物心がついてから王都に行った記憶がない。


「残念ながら、王都は詳しくなくて案内できないから、彼らに人を紹介してもらって、王都観光を満喫しよう」

「私は商売のために行くつもりですけど、そういうのも面白そうです」


その場所に詳しくなくても、その国の言葉と自国の言葉を操れる通訳が増えるのはありがたい。

それに国の文化は自国の通訳だけでは分からないところが多い。

是非、彼に同行してほしいのだと商人は思っていた。


一方、砂の辺境領の息子は、彼との繋がりを維持すれば、また彼らと会うことができると考えると少しホッとしていた。

次に会う時、フランツの立場は変わらないだろうが、アリシアが王族の一員となっている可能性は高い。

今の状態であればアリシアとは対等な立場のため、気軽に話をすることもできるが、時が経って王族の一員となってしまったら、アリシアも天上の人になってしまうのだ。

この先、二人には理由なく接近することは許されないだろう。

しかし、隣国の商人との取引、外交という大義名分があれば、再開は叶うかもしれない。

お互いにそんなことを期待しながら歓談を続けるのだった。



アリシアとフランツは、しばらく砂の辺境の参加者と歓談をして、落ち着いたところで退席することにした。

慣れない砂漠の視察から夜会に参加しているため、少し休んで回復したと言ってもやはり疲れが出てきたのである。

二人は領主に体積の挨拶を済ませると、それぞれの部屋に戻った。

アリシアは夜会の盛装を解くと、身軽なワンピースに着替えてそのままベッドで休んだ。


一方のフランツはその日の報告のため、エルと話をしていた。


「エル……、この土地に妖精は存在しないのか?」


アリシアも気にしていたことをフランツは聞いた。

アリシアは砂漠の離れた場所で何かを探していた。

おそらく動物か妖精がいないかどうかを確認していたのだろう。

そしてそこに誰かがいたら、見つからないように話しかけようとしていたに違いない。

だから自分たちに背を向けて、離れた場所に立っていたのではないかとフランツは考えていた。


「うーん。オアシスにはいると思うんだけどな。あそこには人間は近付けないんだろ?あと、砂の中にもいると思うけど……、そういえば見かけないな」


言われて気が付いた程度の反応だが、エルも不思議そうに首を傾げている。


「アリシアは……大丈夫だろうか?」


フランツがつぶやいた。


「ん?なんでアリシアがなんだ?王族と違って契約とかしていないアリシアの周りには常に妖精がいるわけではないから、別にいようがいなかろうが、ただその場所に存在しないって感じるだけじゃないのか?いなければ逆に連れ出される心配が減るぞ?」

「そうか……そう考えればいいのか」


フランツにとってエルのいる生活が当たり前になっていたが、アリシアはそうではないということらしい。


「とりあえず、そろそろ報告の時間だから準備を頼むよ」

「ああ、そうだな」


こうしてフランツは国王への報告の準備を始めるのだった。

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