表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/142

辺境が背にするもの

迷い込んだ異国の民の運び込まれた小屋を出たアリシアとフランツに、領主が話しかけた。


「少し砂漠というものを体験してみませんか?お渡しした帽子も使ってくださっておりますし、今日はこれでも風が穏やかですから、門の外に出ても問題ないでしょう」


小屋から門まで歩き、領主が門番と話をして門を開けさせる。

そして領主を先頭にフランツとアリシアが門の外に出た。

一度振り返って壁の方を指しながら領主が説明する。


「街の砂は全て壁の外の砂漠から入ってくるのです。先祖たちも最初は壁を高くすることで砂が街に入らないようにと考えていたようですが、どんなに高い塀を作ろうとも、風に乗って中に入ってきてしまいますから、私たちはこの砂と共存することに決めました。それに……」


領主は門に背を向けて、今度は砂漠の方を指して説明を続ける。


「この砂漠の向こうは異国です。あまりに高い塀や壁を設けて向こう側が全く見えないことで、外の警備がおろそかになってはいけません。それにもし高すぎる壁を異国の者が越えて侵入したら、逃げ場を失った街の者たちを危険にさらすことになる。ですから、このように自分の身を砂と太陽から守るような服装をすることになったのです。動かせない物に守られるのではなく個人の身を守るためのものを身につけておくというのは大切なことと考えているのでございます」


二人が感心して聞いていると、領主はさらに話を進めた。


「何人もの者が幾度となく砂漠を知るために旅立ちました。しかし、誰も戻らないのです。戻れなくなってしまっているのでしょう」


この砂漠で多くの友人や知人を失ったのだろう。

領主は最後に少し寂しそうに言った。



「砂漠を歩くことはできるのですか?」


海の砂浜と似て異なるものに興味を示したアリシアが聞いた。


「もちろんでございます。あまり遠くへは行かないようにしていただきますが、門番が見える範囲でしたら自由に動いていただいて構いません」

「はい、わかりました」


アリシアは道に迷わないようまっすぐに進んでいくことにした。

時々振り返り、人が見える範囲を確認しながら一人で歩いていく。

フランツと領主は少し砂の多いところまで前に出たがそれ以上は進まず立ち止まると、アリシアを見失わないように目で追いかけていた。

門の周辺は踏み固められたのか土が混ざっているのか普通に歩けたが、少し離れた場まで来ると、そこは一面砂の海であった。

門の外に出てしまうと、後ろには砂と侵入者を守る壁、正面には先の見えない砂の海が広がっている。


「懐かしいな。私も最初はこの砂の多さに感動して、砂の上を歩いたことを思い出したよ」

「フランツ様が留学でお越しになった時は、今よりも砂煙のひどい時だったと思いましたが……」

「砂漠に出てしまうと、乾燥した砂が多いからね。一面に砂がある状態で、多めの砂が吹き付けても、あまり気にならなかったよ。街にいる時の方が砂は気になったな。その砂煙を忘れるために砂の上を歩いていたくらいだ」


話しながらも二人はアリシアから視線を逸らすことはない。

砂以外何もないこの土地では距離間がおかしくなり想定より遠くまで行ってしまうことがあるため注意して見ている必要があることを二人は知っていたのだ。


「この先は我々の国ではございません。彼らとは言葉も文化も違う。どこから来ているのか分からないし、どのようにこの砂の海を越えてきているのかもわからないのでございます。先ほど話を聞いた限りですと、動物を乗り物として利用しているような話でしたが……残念ながら、私たちはその動物を知らないのでございます」

「そうか。砂漠の向こうの隣国の方が、そのような知識や技術を持っていて、発展しているのかもしれないな」


立ち話をしている二人のところには、時折乾いたざらざらとした砂の混ざった風が吹き付ける。



アリシアは周囲に乾いた砂しかない大地の上に一人で立つと、じっとその先を見つめた。

風が吹くと砂煙が舞うが、風がやんで見通しが良くなってもその先に何があるのかを確認することはできない。

上から見るのとは異なる光景で、木々もなく、この砂の大地しか見えない中をひたすら進んでいくことを考えただけで途方に暮れそうである。

足元が悪く歩くだけでも疲れるが、それに加えて太陽を浴びた砂が熱を帯びていて、上からも下からも熱せられる感じで体力を奪われる。

アリシアはしばらく遠くを見つめながら、砂の大地を踏みしめていたが、直射日光を浴びて暑さに負けそうになったため一度戻ることにした。



「アリシア様、お戻りですか」

「はい。この先を歩いて進むことを考えると、途方に暮れそうです」

「この街から砂漠に出たもので帰ってきた者はいません。ですから、ここに来る異国の方々はきっと神に守られてここまで来たのでしょう」

「そうかもしれませんね」


アリシアは返事をしつつも、そのようなものの気配すら感じない砂漠をじっと見ていた。


「先ほどはありがとうございました。是非森の辺境領でうちの領民を鍛えてくださいますとありがたく思います」


領主はアリシアが話を聞いた迷い人の件について改めてお礼をし、希望を伝えた。


「私は領主ではありません。ですが、領主である父はきっと皆さまを歓迎いたします。森の辺境領の初等学校は入学の年齢に上限を設けておりませんので、学生さんに限らず、大人の方でも受講いただけますから、もしその気があるのでしたら年齢を気にせずやる気のある方に入学試験を受けていただいて、二年次に編入いただくのがよろしいと思います」


アリシアが簡単に森の辺境領にある初等学校の制度について説明すると、領主は感嘆の声を上げた。


「そうでしたか。年齢の上限がないとは素晴らしい制度ですね。辺境の者というのは、このような海外からの来訪者も受け入れなければなりません。戦を仕掛けられれば戦いますが、基本的には友好関係を築いて平和に暮らすことが我々にとって一番の安全対策と考えています」

「私もそう思います」

「確かにそれが一番平和的解決策だな」


フランツも会話に加わった。


「ですから、先ほどのアリシア様を見て、我々にはまだできることがあると分かったのでございます。壁を作り、街を守り、迷い人の命を救うだけではなく、対話によって異国の者を理解する、そのための手掛かりを得られたことが大きな収穫でございます」

「異国を通じて領地間の交流が生まれるのは素晴らしいことだね。これはアリシアの功績だ」

「いえ、私はそんな……。少しでもお役に立てたのであれば嬉しく思います」


しばらく砂漠を目の前にしながら領地の未来について話をしていた。

どこの領主も自領については思い入れがあり、その領地をよりよくしようと考えているということが伝わってきた。

海も山も、それぞれが生活を良くするために活用できるものをどんどん活用していたし、砂漠では活用できるものが少ない分、少ない資源を維持管理しながら大切に使うということをしっかりと行っている。

国の指名した領主は本当に有能で領民思いの領主ばかりなのだとアリシアは改めて感じていた。



話が途切れたところで、領主が思い出したように今晩の予定を二人に伝えた。


「あの、実は本日、息子が留学から領地に戻ってくる予定でして、今晩は、その息子との交流を行うための夜会がございます。急なお話しではございますが、もし可能であればお二人にもご参加いただきたく思います。是非息子を紹介しておきたいのでございます。お疲れでしたら、館の中が少々騒がしくなりますがお部屋でお休みいただいていても問題ございません。お食事などは部屋に運ばせていただきますし……」


アリシアがフランツを見ると、フランツが自分の方を見つめていた。

アリシアが軽く頷いたのを確認すると、フランツは笑顔で領主に返事をした。


「わかりました。参加いたします」

「ありがとうございます。それではご準備の時間が必要になりますから、早めに館に戻りましょう。街は明日、息子に案内をさせることもできますから」

「はい、楽しみにしております」


こうして彼らは門から街の側に戻り馬車に乗ると、館に戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ