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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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異国の共通点

三人は街と砂漠を一望できる壁から、先ほど遠くに見えた人を保護している小屋へと移動することになった。

領主が彼らを保護してからの一連の流れを移動中に説明する。


「先ほどご覧いただいた通り、あのようなものたちは保護した際、とても衰弱しております。大抵の者は意識があまりなく、話すこともままならない状態です。ですから、ベッドに寝かせて水を与えた後、食べ物と飲み物を枕元に置いて、我々は業務に戻るのでございます。時々目を覚ましているのか、食べ物がなくなっていることがありますので、定期的に見に行っては食べ物を追加で置いています。しかし彼らは保護した数時間後から数日後には、いつの間にかいなくなっているのです。おそらく外国の通貨と思われる物を置いて」

「立ち去る際の彼らのせめてもの礼というわけか」

「おそらくですが……。我々もこの通貨については良く存じないので、本当に通貨と呼べるものなのかどうかすら判断ができないのでございます。ですが、同じことが書かれている紙なので、何かしらに使われているのではないかと……」


領主とフランツが話しているところに、アリシアが言った。


「あの、その通貨、もしよろしければ見せていただけますか?」

「今、一枚だけ持っております。こちらでございます」


領主が立ち止まり、きれいに折りたたまれた一枚の紙をポケットから取り出すと、アリシアに渡した。

三人の足が階段の途中で止まる。

アリシアはその紙を受け取って広げると、じっとそこに書かれている文字を確認したり、ひっくり返したりして良く確認してから聞いた。


「あの、この通貨はどのようにされているのですか?」

「先ほども申し上げましたが、よくわからないもので、解るまでは手をつけずに全て保管しております。数十枚の紙ですから……」


アリシアは通貨を元のように折りたたんで領主に返した。


「ありがとうございました。この先、この通貨をどのようにされたいですか?」

「どのように、といいますと?」


何か知っているのかと領主はアリシアの話に食いついた。


「例えば国の通貨に変えたいとか、こちらの国と貿易をしたいとか……」

「貿易は難しいでしょう。何せこちらで保護しなければならないくらいです、何も持っていない方もいらっしゃいますから。しかも、その後どこに行かれたのかも解りませんので、彼らが何者なのかも……」


貿易は取引先との信用が大切である。

領地、大きな話になれば国の関わる話になりかねない。

その相手が何者か分からないということでは、取引対象としてはみなされないということだろう。


「おそらくですが、この通貨を利用しているのであれば、隣国の方か、そこに所縁のある方だと思います。私の領土では貿易上取引のある通貨の一つですから……。ですから、金額にもよりますが、一度、森の辺境領の領主に通貨についてご相談くだされば、両替をお受けできるかもしれません」

「なるほど……ここから森の辺境領まではかなり距離がある。隣国のことは詳しく存じませんが、それに関わる者たちがこの領土の近くにもいるということなのでございますね」

「あくまで仮定の話です。もしかしたら彼らはその国のものではなく、この場所がこちらの通貨を使う国だと思っているのかもしれません。それも会話が成立するならば確認ができるのでしょうけれど……」


アリシアが少し考えてから続けた。


「それから今後、領地内で両替などを行うのであれば、森の辺境領と同じ交換価値にしておいた方がトラブルは少ないかもしれません。彼らがどこに向かっているのかはわかりませんが、こちらへ立ち寄った後森に来ないとも限らないですし、逆も考えられますから……」

「領地内での両替でございますか。考えたこともございませんでしたが、今後このような者が多く現れる可能性もございます。彼らのためにも、自領のためにもそのようなことを検討する時期なのかもしれません」


そこにフランツが割って入る。


「これから先ほどその者が運ばれていった小屋行けば、まだその者はそこに滞在しているのかな?」

「はい、その可能性は高いと思います。どのタイミングで意識を取り戻しているのかはわかりませんが、あの状態ですと、そんなに長い時間滞在せずにいなくなるものと思われます」

「それではいなくなる前にその者のところへ行こう。意識のあるところで会うことができれば何かわかるかもしれないからね」

「かしこまりました」


立ち話を中断し階段を下りて外に出ると、馬車も使わず三人は歩いて小屋に向かうのだった。



「こちらでございます」


領主が小屋の中にある部屋のドアの前でそういうと、一応ノックをして中に入った。

それにフランツとアリシアが続く。

すると、ベッドの上にいた者が驚いてこちらを見た。

どうやら意識を取り戻し、体を起こしたところだったようだ。


「お加減はいかがですか?そのままでいいですよ」


アリシアが先ほど出された通貨の国の言葉で話しかけた。

その先はアリシアは二人にも会話の内容が分かるようにと、質問の内容と答えを自国の言葉と他国の言葉で一度ずつ声に出して通訳を兼ねながら短い質問を繰り返す。


「あなたはどちらからいらしたのですか?」

「***************」

「そうですか。隣国の方でしたか。それではここがどこか分かりますか?」

「***************」

「水を求めていたら、こちらの方角にそれらしきものが見えたので、歩いて向かっていた。気が付いたら砂漠で意識がもうろうとしてしまったということですね。そこまではどのように来たのですか?」

「***************」

「砂にも暑さにも強い動物がいて、その動物でここまで来たのですね。この後はどうされるおつもりですか?」

「***************」

「そうですか、その動物と荷物を砂漠に置いてきているからそこに戻って旅を続けるのですね」

「***************」

「わかりました。もう少しお休みになってください。ありがとうございました」

「***************」


最後にお礼を言ったのか、ベッドの上でお辞儀をしようとした動きが目に入った。

それを確認してからベッドの上の異国の者から離れて、フランツと領主の方に向きを変えたアリシアは二人に確認した。


「あの、このような話のようでした。間違いがありましたら申し訳ないのですが……」

「いいえ、充分でございます。かなり貴重な情報でした。それに彼らがここを離れたどこに向かっているのかもわかりましたし。それだけでも大きな収穫です。……あの、アリシア様はそのような言葉をどこで……」


スムーズに会話をしているアリシアに領主が驚いて尋ねた。


「私ですか?初等学校で学んだだけです。図書館で独学もしましたけれど、今話しているのは初等学校で習う会話ですから、難しい言葉は……」


初等学校の商学科目において履修していた外国語の一つを駆使した形である。

森の辺境領には多くの外国の人間が集まり取引を行っている。

そのため、貿易や商業に携わる人間は外国語ができることがステータスとなるのだ。

もちろん上級学校では日常会話だけではなく交渉などに用いるような言葉も多く学ぶが、そこまで学んでいないアリシアでは専門的な話はわからない。


「森の辺境領は他の領地に比べて教育レベルが高いのです。ですからわざわざ王都の上級学校に来なくても、地元の上級学校に進学する方が多いと聞いています」

「そうなのですか……。初等学校でそのような学習を……。今後のことを考えたら、森の辺境領に定期的に留学生を送りたいですね。彼らと少しでも会話ができるようになれればと思います」

「もしかしたら、領地内の上級学校の人を講師として派遣するように言ってくだされば対応できるかもしれません。初等学校よりも上級学校の方がはるかに高度な会話をなさいますし、交代で講師などとして呼んでいただければ、彼らにもいい刺激になるでしょう。通貨のことも含めて領主に話していただければと思います。……その話は別の場所でいたしませんか?」


異国の者の休む部屋で雑談を始めてしまった三人だが、アリシアに言われて、ベッドの上で不思議そうな顔でこちらに視線を向けている人がいることに気が付いた。


「ああ、この話は夕食の時にでもしよう」


フランツがそう言うと領主も同意する。

それを確認して、アリシアがベッドにいる隣国の人にゆっくり休むようにということと、状況の説明をしてもらったことに対するお礼を告げて、三人は部屋を出て小屋を後にするのだった。

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