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溺愛王子の許嫁  作者: まくのゆうき


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砂漠の街

「アリシア様、昨日は大変失礼いたしました」


フランツとアリシアが朝食のために食堂へ行くと、到着するなり待ち構えていたアレクが謝罪を始めた。


「いいえ、気になさらないでください。本当のことですから」

「ですが……」

「僕も悪かったよ。君たちの決めたことに口を挟むべきではなかったんだ」


そんな様子を見ていた夫人が穏やかな笑みを浮かべながら、仲裁に入った。


「そのあたりで収めてはいかが?ごめんなさいね、昨日は不愉快なままで夕食を終わらせてしまって……。せめて朝食は楽しく過ごしていただきたいわ。お二人は今日出発されるのでしょう?」


夫人の言葉にフランツが答える。


「はい。朝食をいただいて準備が整い次第出発する予定です」

「そう……、寂しくなるけれど、また王都にも伺いますし、その時はよろしくお願いしますね。これからもアレクとマリーのことも末長くよろしくお願いいたします」


夫人の言葉に笑顔だけを返すフランツの傍で、アリシアは頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


この後、朝食の時間は和やかに流れるのだった。



荷物の積み込みが終わったところで、アリシアとフランツは出発することになった。

朝食の時間から積み込みを始めていたため、朝食後すぐのことである。


「あの……」

「はい」


アレクが言いにくそうに話し始めたので、アリシアがきちんと話を聞こうと返事をしてそちらを向いた。


「お二人のお戻りを王宮でお待ちしております。ですからどうかご無事にお戻りください」


アレクはそう言って頭を下げた。

余程炭鉱でのことが気がかりだったのだろう。


「ああ。必ず戻る。だから安心して待っていてくれ」


フランツがアレクをなだめた。


「アリシアも気を付けてね」

「ありがとう。マリーも体に気を付けて。また王都に戻ったらお話ししましょう」


こうしてアレクたちに見送られて出発したアリシアとフランツは再び馬車に揺られて、次の目的地に向かうのだった。



「次のところは少し特殊な場所なんだ。口に砂が入って呼吸がしにくいかもしれないから、外に出る時はこれを使うといいよ」


フランツはアリシアにストールを薄く長く引き延ばしたような布を手渡した。

さらさらとしていて肌触りのよい布だが、使い道が分からない。


「これはどのように使うのですか?」

「こうやって口の周りを覆うだけでいい」

「そうなのですね」


アリシアが試しにつけてみると、フランツはうなずいた。


「そんな感じでいいと思う。完全には防げないけど、あるのとないのでは全然違うからね。あと、今からつけていると空気がこもって息苦しくなると思うから、まだ外していた方がいい。先に渡しておきたかったんだ」

「わかりました」


アリシアは布を口の周りから外すと、きれいに畳んで膝の上に乗せた。


「このようなものを使わないといけないほどの砂埃なのですか?」

「砂埃、というか、砂そのものが飛んでくるんだよ。周りに砂が多いし乾燥しているから砂が舞い上がりやすいんだろうね」

「辺境にもいろいろなところがあるのですね」


森や山のようなところでは考えられない現象である。


「それから、目からも砂は入ってしまうことがあるけど、何も見えない状態では歩けないから、目を隠すことはできないから気をつけてね」

「はい」


返事をしたものの、実際目にしてみないとわからないことが多い。

しかし、そのような土地にも人が住んでいるというのだ。

きっといろいろな工夫を凝らした生活をしているに違いない。


「珍しいものがたくさん見られると思うから、楽しみにしていて」


二人がそんな話をしているうちに、馬車は目的の街へと到着した。



砂漠の街は砂まみれと聞いていたが、想像とは違い、道は石畳できれいに舗装されており、建物も乾いた石を積み上げて作った重厚なものであった。

馬車はそんな街の中を走り、やがて大きな屋敷の前に到着した。

屋敷に到着した二人は馬車の中で口に布を巻きつけた状態で馬車を降りた。

すると、目元以外の顔全面を覆った人に出迎えられた。


「このような格好で申し訳ありません。ここでは砂埃を浴びてしまいますから、まずは中にお入りください」


挨拶もそこそこに出迎えの人によって屋敷の中に案内された。

応接室に着くと、アリシアとフランツに椅子を進め、自分は顔全面を覆った人はかぶっているものを脱いだ。

穏やかな口調でしゃべるこの人の素顔は初老の紳士であった。

彼は脱いだものを近くの棚に置くと、領主として改めて挨拶をした。


「改めまして、砂漠にある辺境の街へようこそお越しくださいました。室内には砂は入ってこないように工夫しておりますし、お茶も飲みにくいでしょうから、どうぞ口元の布をお取りください」


フランツが口元の布を取り始めたのを確認して、アリシアも布を外した。


「しかし、そちらでもご準備いただいていたのですね」

「以前に来た時、大変だったからな。できる対策はこちらでもしておこうと思ってね。幸い今日は風もなかったし、屋敷の前に馬車を止めてここに来ただけだから、まだ砂埃の洗礼は受けずに済んでいるよ」

「それはこれからでございます。視察で街を回られる際には覚悟していただかなければなりません」

「まだ、相変わらず酷いのか?」

「この街がそんなに変わることはありませんよ」


初老の紳士は一瞬遠い目をしたが、すぐに何かを思い出したかのように言った。


「実は私たちからはこちらをプレゼントさせていただこうと思ってご用意しておりました」


その言葉を待っていたかのように、そこで待機していた人たちが彼が使用していたのと同じ作りのかぶり物を二人に手渡した。

かぶり物は帽子から長い布のようなものが垂れ下がっていて、目元は網目状になっており、背面と目元から下は先ほど二人が使用していたような肌触りのよい布が使われている。

目元が網目状なのは視界を保つためで、口元が布なのは砂の侵入を防ぐためなのだろう。

布は長めで、左右に切れ目が入っていてかぶりやすそうである。

布の長さは長ければ調整も可能だし、下が開いているので飲食もこの状態でできるだろう。

さらに作りは同じだが、使用されている布の種類や装飾を変えることでアレンジされているため、複数の帽子を持っていれば服に合わせてコーディネートもできる。

受け取ったアリシアはかぶり物の角度を変えたり、布に触れたりしながら言った。


「これは……帽子ですか?」

「はい。今まではずっと布を巻きつけて砂を防いでおりましたが、街の服屋がこちらを考案しまして。かぶるだけなので着脱が簡単で重宝しているのです」


彼は一度棚に置いたかぶり物を再びかぶって見せた。


「このようになります。風の強い時は前に付いている布が開いてしまわないように縛ることができる仕組みとなっています」


領主は説明をしながら実際にやって見せる。


「画期的なアイデア商品ですね」


アリシアは自分の帽子を膝の上に置いて言った。


「はい。この商品ができてからは外を歩くのがずいぶんと楽になりました」

「ありがたくいただいておくよ。早速明日からの視察ではこちらを使用したいと思う」


フランツも慈愛の笑みを浮かべてお礼を言った。


「喜んでいただけたのなら何よりでございます。本日からこちらにお泊りと伺っております。至らない点もあるかとは思いますが、どうかごゆっくりとおくつろぎくださいませ」


領主は応接室から二人を客室に案内するように指示を出した。


「ああ、明日からよろしく頼む」


二人はこうして砂漠の街の領主の家に滞在することになるのだった。

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