-序々章-
-儚くせつなくむなしい…そんな義だった。-
旅人はある異様なものを目にする。
二人ぶんの黒い骸骨が縛られながらもすがりつく様にして石に絡み合っているその光景は不思議と言う他ない、何か想像を超えた事があったに違いない。
その地域の民家の住民に話を伺った。
-昔-
身分が違えば愛し合うことが許されなかった時代。とある二人の男女が恋をした。一人は姫君、一人は平民。
二人はその関係を極力密かにするよう努めていたが、ある日ついにその関係が皆に知れ渡る事になる。それを許さまいとした村の民は議論をした後、その男女に唯一、これに耐えられるならば身分の違う愛が認められる特例のただ一つの儀式『苦無の石』を提案する。
『苦無の石』の概要はこうだ。
愛し合う男女が二人で石に巻き付けられ二人が互いに傷を付けられる、二人合わせて背中への罰が108を超えた時に初めて二人は身分の壁を越えた愛人同士になるというものだった。その背中の傷を数多に抱えながらもその愛人のことを想えば苦しみは無と同義だろう、かりに途中で死亡する(儀式が失敗する)ならばそれはそれでその程度の愛であったのだろう…という話であった
だがその平民は知っていたらしい。
この儀式『苦無の石』
ならぬ
『空無の石』
なのだと言う。
旅人はもう、すっかり聞き入っていた。