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超魔法少女グレンオー  作者: 窓井来足
第三章
7/19

「鍛える鬼 その1」

さて、この章でも新しい超魔法少女……いや。

どうやら、超魔法少女ではないようで。

「いやあ、よく歌ったー」


 そう言ってカラオケ店から出てきたのは超魔法少女グレンオーこと暮無桜(くれないさくら)

 そしてその後から。


「久し振りに先輩とカラオケに来たけど、こうして同じ趣味を持った者同士でカラオケに行くのは中々いいね」


 と言いながら出てきたのが超魔法少女ストームこと永礼嵐(ながれらん)である。

 特撮オタクである二人は。

「超魔法少女の親睦を深めるため」という理由をでっち上げて、オウリュウとフーコを連れてカラオケにきていたのだ。

 ちなみに、というか勿論。

 歌った曲は両者とも一部のアニメソングやゲーム関連ソングを除いてほぼ全て特撮ソングであった。

 当初桜の方は主に彼女の生まれる前に作られたような昔の熱血系特撮ソングを。

 嵐の方は最近の言われなければ特撮ソングとはわからないようなタイプの曲を中心にそれぞれ歌っていたが。

 途中からは二人で一緒に歌う場面も多かった。

 更にオウリュウとフーコも桜たちの住む世界に来てから、そういう作品を『研究』をするためにその手の曲もかなり聴いていたので。

 彼らも二人の超魔法少女の歌に加わり、このカラオケ会はかなり盛り上がった……らしい。

 その歌った曲の内容は虹華夢幻郷(こうかむげんきょう)では一部再録も含め編集された後。

 CDあるいは音楽データとして発売する予定である。

 勿論、現実世界(われわれのせかい)ではそんな予定は無い。


「しかし先輩は流石というか、昔と変わらず今でも迫力のある歌い方をするね」


 嵐が「昔と変わらず」といっているのは桜が高校時代、文化祭で軽音部にゲストとして呼ばれて歌ったときの事を思い出しての発言である。

 この文化祭の時に、特撮オタクだった軽音部の部長に呼び出された桜は。

 ステージ上で三十年以上前のメタリックで宇宙系な熱血特撮ソングを数曲歌ったのだ。

 ちなみに、その歌った曲のオリジナルを歌っている歌手に雰囲気があまりに似ていたので。

 一時期、通称が「タカコーの女クッシー」になったというエピソードや。

 その歌った曲の歌詞内容のために桜は周囲から「やはり女装男子だったのか」と疑惑を持たれ。

 翌年、同性から貰ったバレンタインのチョコの数が例年の五倍以上となったとかいう伝説もあったりする。

 なお、この時が桜の人生における第一回目のモテ期であり。

 第二回目は小さなお友達にモテている現在だったりするのだが。

 本人はそんなことはさっぱり気にしていないのだった。


「まぁね、今でも腹筋を一日千回こなしているし」


 先の嵐の質問に眩しい笑顔で答える桜。

 グレンオーとしての活動や、アルバイト、さらにそれとは別に先輩の手伝いもある中。

 腹筋を千回する余裕が果たしてあるのか?

 そんなにこなせるなら例の歌手に並ぶことができるんじゃないのか?

 など、疑問を持たせるこの桜の発言。

 これに対して嵐は、


「いや、それは流石に嘘だよね?」


 と訊ねる。

 否定ではなく疑問系なのは「桜ならやりかねない」という気持ちが嵐の中にあるからである。


「いやぁ……はははっ」


 笑って誤魔化す桜だが。

 この笑いが「嘘についてツッコまれたから」なのか「事実を隠すためのもの」なのか――。

 嵐は「腹筋の回数の真偽はともかくとりあえずこの先輩、底が知れないというか……ヤバい人だ」と改めて思った。

 と、その時。

 超魔法少女感覚に感知あり!

 虹華夢幻郷のどこかにネガティヴハートが誕生したらしい。


「先輩ッ!」

「わかっている――よぉし、いくぞ!」

「「魔導填身(まどうてんしん)!!」」


 こうして二人は虹華夢幻郷の事件現場へと向かったのだった。


 ☆ ☆ ☆


「チクショー、なんて食べにくいんだッ!」


 そう叫んでいたのは誰がどう見ても。

 あの噂には人類が滅んだ後、世界を支配するともいわれる生き物である蟹モチーフにした怪人のような存在である。

 桜としては今までのように、この怪人がどんなデザイナーさんがデザインした怪人に似ているのか、気になったのだが。

 蟹怪人というのは割と定番な怪人のためか、今回のは「色々なデザイナーさんのを参考にしてみました」みたいな容姿になっていて。

 一人のデザイナーさんに特定するのは難しいような状態になっていた。

 しかし、蟹の容姿をしていることといい、その発言といい。

 どうやら今回の怪人は「蟹が食べにくい」というストレスから生まれたらしい。

 桜はこれについて「蟹、おいしいんだからそれぐらい我慢しろよ」と思い。

 嵐は「蟹だって食べられるために進化したんじゃないんだから」と思ったのだが。

 彼女たちが何を考えたって怪人の行動に影響が出るわけもなく、


「こうなったら俺の能力、『蟹工船』ならぬ蟹光線(かにこうせん)でそこら辺の食べ物を片っ端から蟹に変えてやるッ!」


 と、言いながら商店街の方に向かっていこうとしていた。


「そこまでだッ!」


 グレンオーはそう叫びながらとりあえず蟹怪人の背中目掛けて跳び蹴り。

 そしてよろめいた所に。


「蟹アレルギーの人に迷惑な攻撃はやめたまえ!」


 ストームがストームラインで押さえつけようと、魔力の糸が取り付けられている鏃を打ち込んだ。

 のだが、その鏃は蟹怪人の背中の甲羅ではじかれてしまった。


「くっ! こいつ硬いぞ」

「蟹だから頑丈なのか?」

「馬鹿な、今までの怪人には蟹なんかよりよっぽど頑丈そうなモチーフの怪人もいたはず。その怪人達より硬いとは。こいつ一体……」


 怪人をすぐに倒せなかったことで二人は動揺。

 物語としてはむしろ今までの怪人が簡単に倒されすぎだったのであり。

 普通の「ヒーローもの」ならこれぐらいの事はむしろあって当たり前なのだが。

 今までの戦闘が楽だったこともあって超魔法少女の二人にとっては「ネガティヴハートはあっさり倒せる」というような思い込みが生まれていたのだ。

 ちなみに、何故ネガティヴハートが弱いのかということについて二人は。

「『ヒーローもの』ならともかく、『魔法少女もの』などだと敵の怪人、怪物は物語のおまけ程度に登場することもある。自分達は一応『魔法少女もの』なのでもしかするとそっちの要素としてあまり怪人には苦戦しないのかもしれない」と分析していたのだが。

 その分析は見事に外れたということだ。


「フハハハハ、俺は今までお前らが出会ったヤツらとは違って複数の人間の感情から生まれたのだ。並みの攻撃など効かぬわッ!」


 蟹怪人はご丁寧にも自分が強い理由を解説。そして、


「お前らを蟹に変えてやるッ! 喰らえ! 蟹・光・線ッ!」


 といいながら、グレンオーの方に先端に鋏の付いた腕を伸ばしてそこから得体の知れない光線を放った。


「蟹なんかになってたまるかッ!」


 グレンオーはそれを素早く避ける。光線をかわされた怪人は、


「ならばこっちだ」


 と逆の手をストームの方に伸ばして再び光線を放つ。


「こいつ、どちらの手からも出せるのかッ!」


 さっきとは逆の手からの光線に一瞬戸惑ったストーム。

 だが「蟹になった魔法少女とか、嫌だな。そういうのは僕のキャラじゃあない」という彼女の思いの強さが導いた事もあって、何とか光線を回避した。

 さて、両手からの光線をそれぞれ避けられた怪人は、


「ちょこまかとかわしやがって! こうなったら乱れ撃ちだ」

 といいながら両手と、さらに身体から生えている六本の蟹の脚のような部位から光線を乱射。その圧倒的な数の光線にグレンオーは、


「くっ、このままじゃあ近づけない。何とかしなくっちゃ」


 と思い、ポーチに手を伸ばす。

 そして引き当てたのは「R」の字が刻んである青色の宝石。

 グレンオーはそれをバックルにセット。

 するとバックルから「Reflect Jewel!!」という声響き、同時にグレンオーの前方に半透明で何やら魔法陣のようなものが描かれている青い壁が出現。


「よし、やっぱりこういうのもあったか」


 バリアを張ったグレンオーはそのまま相手の真正面に飛びだしていく。

 当然、光線をはね返して反撃するつもりでの行動である。

 相手の放つ光線を反射して利用するというのは、「ヒーローもの」の作品では相手に致命的なダメージを与えるような「決め手」にはならないことが多いのだが。

 グレンオーは「まあ、とりあえず光線を無効化できればいいや」と思い、リフレクトジュエルを使い、このような作戦に出たのだ。

 しかし、今回。この作戦には問題があった。

 それは敵の光線が攻撃用の光線ではなく。

〈ものを蟹に変化させる〉といった特殊な光線だったことである。

 この特殊光線が元から「蟹」である怪人に反射して当たった場合のことをグレンオーはあまり深く考えていなかったのだ。

 そんなこともあって、グレンオーは反射した光線が怪人に当たったときに、


「やった! ……か?」


 という「やっていない」時のおきまりの台詞までいってしまったのだった。

 で、蟹光線を受けた蟹怪人がどうなったかといえば、


「うおぉぉぉぉぉぉ!? な、なんだぁぁぁぁぁ!?」


 と叫びながら巨大化し、蟹になった。

 さっきまでの「蟹怪人」とは違い、人よりも蟹に近い姿の「蟹怪獣」になったのである。


「グオォォォォォォ!!」


 唸る元・怪人の怪獣。そこに最早理性のようなものがある様子はない。

 この蟹怪人怪獣化現をわざとではないとはいえ引き起こしてしまった事に責任を感じたグレンオーは、


「……ゴメン。まさかこんなになるなんて」


 と、蟹を見上げながらストームに対して謝罪の言葉を口にする。


「まったく、後先考えないで行動するから」


 そう指摘したストームだったが。

 彼女も別に「光線をはね返したら怪人が怪獣になる」なんて予想はしていなかったので。

 そんなに怒ってはいなかった。


「で、どうしよう。これ……」

「どうしようって……」


 上を見上げたまま呆然とする二人。そこに向かって。


「ガアァァァァァァ!!」


 再び雄叫びを上げた蟹は鋏を振り下ろした。


「うぉっと! 危ない!」


 グレンオーとストームはジャンプで回避。

 蟹光線に比べて鋏の速度は大したことがなかったのでこれは結構余裕を持って避けることができた。

 避けることは。

 しかし。


「これは一撃でも喰らったら致命的かもね」


 ストームが蟹の攻撃が激突した地面を見て顔をしかめた。

 何故ならそこには大穴が穿たれていたからである。

 コンクリの地面をこれだけ破壊するとは。

 今までの敵と比べようがないほどの力になってしまったということなのだろう。

 おそらくは防御力も怪人だったとき以上になっているに違いない。

 こうなると、単に力業で強引に倒すというわけにもいかないだろう。

 そう判断したストームは。


「仕方がない、僕がストームラインを使って何とか足止めするから、先輩は本体に向かってエネルギーを一点集中した攻撃を喰らわせてくれ」


 とりあえず思いついた作戦を提案。

 本来ならもっとじっくり対策を練りたいが、蟹の化物が暴れたら街が大変なことになるのでそんな余裕はない。


「え? でもさっき鏃ははね返されちゃったじゃん。大丈夫なの?」


 提案に対して首を傾げるグレンオーに対して、


「今度は比較的柔らかそうな関節部分を狙って打ち込んでからラインを使って縛り上げる」


 ストームは作戦について補足の説明を付け加える。 


「このまま怪物を放ってはおけないし、やってみるしかないだろう」

「まあ、そうだね」

「よし、それじゃあ早速――」


 と、ストームが自身の手首に装着されているストームラインの装置をいじり、蟹の怪物の間接に向かって鏃を飛ばそうとした。

 その時だった。

 新たな戦士が現われたのは。


 ☆ ☆ ☆


 その戦士は二人と似て非なる雰囲気の存在だった。

 フルフェイスのメット状のもので顔が隠れているところや、全身のデザインにハートや花が取り入れられているのはグレンオー達と同じなのだが。

 スーツの質感が全体的に「鎧」というより「強化皮膚」というか、有機的なものになっているところがまず大きな違いである。

 また、バックルもグレンオー達が身につけているハート型のメカっぽいものではなく。

 もっとシンプルな、金属プレートに「心」いう字がデザイン化されて描かれているようなものになっている。

 全身の色は黒だが、まるで〈マジョー何とか〉という塗料を使ったみたいな独特の輝きを放っている。

 そして身に着けている装飾の色には赤と銀。

 そんな異形の戦士が、大型バイクのようなものに乗って突如グレンオーたちの前に現われたのである。

 これを見たグレンオーは最初、その存在のことを「あれは……鬼?」と思ったのだが。

 まあ、グレンオーがそう勘違いするぐらい力強い見た目の戦士であった。

 さて、そんな突如出現した戦士は、


「こんなでかい化物、今のお前らが相手にするにはまだ早ぇ! 俺が片づけてやるぜッ!」


 とグレンオー達に向かって宣言した。

 一人称は「俺」で男っぽい言葉遣いだが、声は女性である。

 まあ、こういう作品(せかい)ではよくあることなので気にしてはならない。

 そして異形の戦士はどこからともなく銃を取り出し(この銃もグレンオー達のと違い「実在の銃をヒーロー用に改造した」ようなリアル系のものだった)蟹の背中に向かって発砲。

 更に、


「とうっ!」


 というかけ声とともにバイクから蟹の背中に颯爽と飛び移り、


「オラァ!」


 と、エネルギーを込めた拳で豪快にぶん殴った。

 その一撃で蟹の怪獣は姿勢を保てないぐらいに傾いたのだが、謎の戦士はそれにもかまわず、


「ハアァァ、タアァァ、ウリャァァア!!」


 拳を連続して喰らわせ、


「とどめの一発ッ!!」


 と叫んで一撃を諸手で叩き込んだ。

 すると蟹怪獣は、


「グギャアアアアアア!!」


 と叫喚し、爆発四散したのであった。

 ちなみに、今回の爆発の際はいつものグレンオーたちのマークの代わりに、筆で「心」と書かれたような紋章というか字が浮かんでいた。

 と、まあ。

 こうして謎の戦士によって蟹怪獣はあっけなく片づけられたのであった。

 無論、活躍の場を奪われる形になったグレンオーとストームが突然登場した彼女に何の関心も示さないわけもない。


「お前は一体!?」

「何者なんだ!?」


 異形の戦士に尋ねる二人。それに対して彼女の回答は、


「俺は――敵か味方か、謎の超魔法戦士!! シン!!」


 というどこかで、つい最近聞いたようなものだった。

 それに対して、グレンオーはストームの時と同じように今回もシンの方に手を伸ばし、


「と、いうことは。つまり仲間か。よろしく、シン」


 と握手を求めたのだが、途中でとある事に気がついたらしく、


「……先輩?」

 という言葉を付け加えた。


「先輩? その通り。俺は元・魔法少女。今はもう『少女』って歳じゃあねぇから魔法戦士を名乗って――」

「いや、それはそれで気になるけど。そうじゃなくて」


 シンと名乗った超魔法戦士が「元・魔法少女であったこと」をさりげなく明かしているところに口を挟んだグレンオーは続けて、


「もしかして、シン先輩って、あたしの先輩のシンさん、本名・咲野心(さきのこころ)さん、じゃないかなぁ……って」


 シンの正体についての推測を口にした。

 その推測、どうやら当たっていたらしくシンは、


「さ、さあ。何のことかなぁ……」


 といいながらグレンオー達と視線を合わせないようにそっぽを向いた。

 まあ、元からお互いに仮面をつけているような状況なので、やろうと思っても視線を合わせるのは難しいのだが。


「もう、その声といい、口調といい、どう考えたってシン先輩じゃん」


 白を切るシンに対して、どう考えても自身の先輩だと確信したグレンオーは、


「先輩もかつて魔法少女だったんならそう言ってくださいよ。あ、ちなみに彼女、あたしの相棒のストームっていう超魔法少女で――」


 と相棒を紹介。ストームも、


「先輩の先輩ってことは、大先輩? ってことになるのかな? 先に紹介された通り、僕の名は超魔法少女ストーム、変身前は――」


 と自己紹介を始めた。だが、


「……ま、またピンチの時は駆けつけてやるッ! さらばだッ!」


 そう言ってシンは去って行ってしまったのだった。

 この一連の出来事にストームは、


「先輩。あの先輩の先輩って一体、何者なの?」


 と尋ねたが。グレンオーも、


「さ、さあ。何者なんだろう?」


 と答えるしかなかったのだった。


(続く)

この章のタイトルはまあ、あの作品のパロディですが。

登場した超魔法戦士シンのデザインも実はそんなイメージで描いたことがあったりします。

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