「あいつがライバルか? その3」
さて、後半は虹華夢幻郷での怪人とのバトル。
今回登場する怪人は果たしてどんな怪人なのか!?
さて、桜たちがそれぞれ超魔法少女に変身して、向かった虹華夢幻郷の怪人出現ポイント。
そこは、おもちゃ屋の前であった。
五年前に魔法少女やヒーローものの作品が桜たちの世界から入ってきたばかりという虹華夢幻郷だが、別に娯楽が無かった世界というわけではない。
むしろ、二つの巨大なジャンルが欠けていた分、それを補う形で別のジャンルが成長していたりもするのだ。
とはいえ、今は呑気にその二つの世界の娯楽の差異について検証している場合ではない。
何故なら。
そのおもちゃ屋の前には怪人がいたからだ。
まあ、怪人がいること自体は話の流れからして当然だが。
問題はこの怪人。
何と容姿は割れたハートや、散った花をモチーフにしている。
つまり、グレンオーやストームのモチーフが破壊された状態になったものをモチーフにしているということだ。
そんな容姿なので、考え方によってはライバルとか敵組織の幹部とかそういう強敵になるタイプの怪人の可能性も非常に高い怪人にも見えるのだが。
二人の超魔法少女はこれを、「あれはただ単に失恋か何かのネガティブな感情から生まれた怪人だから、ああいう容姿をしているんだろう」と認識した。
この判断。
ストームに関しては「幹部というのは今回の場合、敵を生み出している魔法少女以外ありえない。そして、あれの容姿はどう見ても怪人だ。我々と同じタイプのベルトもしていない」という理に適ったものであったが。
グレンオーに関しては「幹部が出てきたときの雰囲気がまるでない。幹部やライバルが出てきたときはもっと、独特の演出とかがあるはずだ。それと、あの怪人の容姿。有名デザイナーさんが『失恋の記憶』あたりをイメージしてデザインした怪人といわれたらしっくりくるような見た目だな」という直感的なものであった。
しかし、失恋がモチーフか。
今までの怪人に比べてその悩みが深そうな分、こいつはかなり強いのかもしれない。
特にあたしの場合、ここまでに相手にした二人が誕生した理由があんまり大したものではなかったし――と、相手が強敵ではある可能性を意識してグレンオーは身構える。
同じようにストームも敵をかなりの力を持った存在と認識。
彼女の場合は性格上、強さに関わらず敵に対してはしっかり構えるように心掛けているのだが、それでも強敵を前にした時の構えにはやや緊張感が漂っている。
そんな二人の耳に飛び込んできた怪人の雄叫び。それは。
「うおぉぉぉ! 何で俺が好きなヒロインにはルートが存在しねぇんだ! チクショー!」
というものだった。
どうやら、この怪人。
恋愛シミュレーションゲームで自分の気に入ったキャラクターは攻略の対象外だったということの不満から生まれた怪人のようだ。
普通の人間がそれを知ったら、「大したことない理由で誕生している」と思うのかもしれないが。
自らがオタクであるグレンオーとストームは。
「ちょっと。あいつ結構強いかもよ」
「ああ、これはかなり手強そうだな……」
などと、むしろ単なる失恋が原因だと思っていたとき以上に警戒した。
さて、怪人は身構えた超魔法少女達を完全に無視して。
「こうなったら、ゲームなんて片っ端から破壊してやるぅ!」
物騒なことを叫びながら、怪人はおもちゃ屋の方に向かっていっていた。
このままでは、店が破壊されてしまう。中には限定品などの貴重な品もあるかもしれないのにそれらも木っ端微塵にされてしまうかもしれない。
グレンオーの頭にはそういう考えが浮かんだ。なので。
「ちょっと! あんた、待ちなさい!」
とりあえずは怪人に止まるように呼びかけた。のだが。
「追加要素の入ったバージョン発売まで待てるかァ――ッ!!」
怪人はグレンオーの言ったことを何か誤解し、止まろうとはしなかった。
「仕方がない。こうなったら僕が――ストームラインッ!!」
ストームがそう言いながら飛ばしたのは昨日怪人を倒した鏃である。
この鏃にはストームが腕に付けている装置で創り出している魔力の糸が後部に取り付けられている。ストームはその糸で怪人を絡め、足止めした。
「ぐっ、何だ……これは? こんなもの、引きちぎってくれるっ!!」
「ならば、ストームラインズッ!!」
怪人が糸を引きちぎろうと力を込めたのに対して、ストームはもう一つの鏃を飛ばし、二本の糸で縛ることで応戦。
そして。
「君がそこまで気に入っているキャラクターって一体誰なんだい?」
と尋ねる。
この質問はそんなにそのキャラクターに入れ込む人がいながらルートが存在しないなんて果たしてどんなやつなのか気になったから訊ねたわけでは勿論無く。
キャラクターがわかればそこから「探すべき魔法少女は何のゲームを所有している人と接点があるか」といった情報が得られるからである。
「何でテメェにそんなことを教えないとならねぇーんだ!?」
だが、自分の遊んでいたゲームの内容が気にくわないだけで、ゲームを破壊するというようなマヌケな考えを持った怪人でも。
流石に自分を捕らえた相手がいきなりゲームの話題をふってきて違和感を持たないほどマヌケではない。
怪人は少し考え……
「あ、テメェは。あれか、近頃俺たちを生み出している魔法少女について情報を探っているとかいうヤツ」
ストームの質問の目的は、自分たちの生みの親の情報を得るための質問だと気がついた。
の、だが。
「俺を創ったヤツから聞いているぞ。俺たちから情報を聞き出そうとしているヤツがいるって事を。何か最近は他にも戦うことしかしないヤツもいて、こっちの世界じゃそいつの方が目立っているらしいってのもな。しかし、魔法少女が二人揃ってオタクで、しかも二番手ポジションが中二病気味ってのはどうなんだよ。しかも噂によると実は腐じょ……」
などと、怪人は特に何の考えもなくぺらぺら喋ってしまったので。
「敵はストームの方を先に認識したこと」や「こちらの世界ではあまり情報が出回っていない嵐の素性を知っていること」を自ら明かしてしまった。
「ふむ。どうやらこの様子ではベルトの持ち主は虹華夢幻郷ではなく、主に嵐が住んでいる方の世界で行動をしているようですな。しかも嵐の事を普段から知っている……」
怪人が言った内容を分析するフーコ。
しかし、その横にいるストームはその分析を聞きもせず。
「怪人。君に一つ言っておこう。僕は中二病ではない。あくまで中二病を演じてキャラ作りをしているだけだ!! そして腐ってなんていない!!」
怪人に向かってそう叫んでいた。
この様子だとメットで表情が見えないが、おそらく怒りか恥ずかしさで顔を赤くしている事だろう。
何せ「キャラ作りって、その行動自体が中二病じゃねえの?」という事に一切気がつかずに言い返しているような精神状態なのだから。
この対応がもう少し冷静なものなら。
彼女の発言は「〈超魔法少女〉としてのキャラ作り」という意味にも解釈できたのだろうが。
相手の発言にムキになっている辺り、本当は演技ではなく素でそういう性格なのだろう。
「そんな事もわからない貴様には螺旋地獄を味わせてやるッ!!」
そう言いながら、ストームは腕に付いているストームライン二つの本体に宝石をセット。
ストームライン本体からはそれぞれ。
「Cyclone Jewel!! Full Charge!! Cyclone Strike!!」「Typhoon Jewel!! Full Charge!! Typhoon Strike!!」
という音声が流れる。
この音声は宝石を同時にセットしているわけではない以上、ややずれて聞こえているのだが。
ストームはその辺りも考慮して「上手く聞こえるタイミング」で宝石をセットしているのである。
例え相手の言ったことに対して怒っていても、そういうところはしっかりと外さないのが流石はオタ……ではなく、超魔法少女というところだ。
「ちょ、ちょっと待て。俺、強敵って設定じゃねーのかよ!? もっと戦闘長引かせろよ!!」
怪人は命乞いにもとれるが、「ヒーローものなんだから、怪人をもっと活躍させろ。この作品、出てきた怪人が何の活躍もしないで倒されてばかりじゃねぇか」という読者の不満を代弁したメタ発言にも思える事を口にした。が。
「五月蠅いッ!! 今ここで始末してやるッ!! 喰らえ、ツインストームストライクッ!!」
今のストームにそんな物語としての都合を考えるだけの余裕はなかった。
こうして何のいいところもなく、必殺技を受けた怪人は。
「本当は俺には『失恋光線』という攻撃を受けたものが失恋したみたいな気持ちになってしまう恐るべきのうりょ――うぐああああぁぁぁ!!」
などと、一度も使用できなかった能力に関して未練がましい事を言いながら爆発四散した。
これを聞いたストームは内心で「〈俺の考えた必殺技〉みたいのを語るなんて、お前こそ中二病じゃあないか」と思ったが。
横で見ていたフーコは「特殊能力を使う前に倒されるとは何と哀れな。……『超魔法少女グレンオー』テレビ版のエピソードに今回の件を使うときはちゃんとその『失恋光線』というのも要素に入れておこう」と思った。
しかし、「ストームもグレンオーも三次元の方に対しては恋愛的興味はなさそうなのに、どうやって恋愛絡みのエピソードを作るべきか」という問題が頭に浮かび。
最終的には「この怪人はテレビ版には登場しないかも」とさえ思ったのであった。
と……何か忘れているような。
あ、グレンオーだ。
そう思ったストームとフーコは辺りを見回す。
すると今、敵怪人の魔の手から守ったおもちゃ屋のやや離れたところで。
「〈DXソード・グレンマル〉購入ありがとう!! ……はい、サイン完了ッ!!」
玩具を買ってくれた人にサインをしたり、子ども達と握手をしているグレンオーと、それを手伝っているオウリュウがいた。
「グレンオー。君は一体何をしているんだね?」
戦いを人に任せて、自分はファンの相手をしているというのは果たしてどうなのかと思ったストームはグレンオーに駆け寄りながら尋ねる。
「いや……戦いも大事だけど周りの人たちの安全も考えて怪人の側に寄らないように呼びかけていて。それで。まあ、騒ぎが起きないように場を和ませようと握手会とサイン会を急遽開いていたんだけど……」
そう答えたグレンオー。
実のところ「戦いながら情報を聞き出すのは面倒そうだったからグレンオーは戦わずに離れていた。そうしていたら周囲の人々は彼女にサインや握手を求めてきた」というのが、現在の状況になっている理由だったりするのだが。
それをはっきりと言ってしまうとストームたちに何と言われるかわからないので。
グレンオーはサインや握手を求められたときに思いついた「このままファンの安全を確保しよう」という部分だけをストームに伝えたのだ。
この回答に関して。
桜と出会ってからまだ一ヶ月程度しか経っていないが、グレンオーになってからの桜をずっと見てきたオウリュウは「そんなまた、適当な言い訳を」と思ったのだが。
昨年一年間、文芸部の活動を部長として仕切っていた桜を知っている嵐は。
「そうか……そういう事なら仕方がないな」
と、彼女の行動を認め、更には「そういえば、先輩は以前から不真面目に見えて結構周囲に気を遣っていたというか……それで人気もあったし……実のところ、ヒーローとして向いているのかもしれない」とさえ考えてしまったのであった。
まあ、長くつきあっていればその人のいいところも見えてくる訳だが。
逆にそれが偏見というフィルターになり、相手の行動を美化してしまうこともあるということだ。
ただこの場合、このストームの勘違いが結果としては二人のヒーローが協力するようになる要因になっているので結果としては良いのかもしれない。
また、桜のあまりものを考えて行動していないように思えるが、結果としては人のために行動しているというような性格はヒーローでは定番の性格なので。
ストームの思った「ヒーロー向き」というのも大方間違ってはいないようにも思える。
しかし、それはあくまで「フィクションのキャラクターならヒーロー向き」ということであり。
現実的かどうかは怪しいともいえるのだが……。
その辺りが問題になるかは、今後の彼女たちの活躍を見てから判断するとしよう。
こうして、虹華夢幻郷の二人の超魔法少女。
グレンオーとストームは協力して戦っていくこととなった。
しかし、そんな彼女を遠方から見つめる黒い影が。
「まさか俺以外にも超魔法少女を名乗り始めるヤツらがいるとはな……」
一人称は「俺」だが、その声は女性である。
果たしてこの人物は一体何者なのか。
おそらくは「俺っ娘」の超魔法少女、あるいはそういった何かなのだろうが。
「僕っ娘」の次に現われた超魔法少女がそれでいいのか?
というか、第一章と似たパターンで終わっていいのか。
色々と物語の次の展開以外の所で気になる要素が多々あるが……第三章に続く。
今回の第二章で二号ヒーローが登場し。
そしてラストに三号っぽいキャラも登場していますが。
果たして彼女が何者なのか?
それについては第三章をよろしくお願いします☆




