「あいつがライバルか? その2」
(その1)で登場した新たな超魔法少女であるストーム。
彼女の正体に心当たりがある桜は、とあるところに向かうのですが……。
「久し振りの髙高か……」
ストームと出会った次の日。
丁度バイトが休みだったこともあって、桜は「部活のOGとしての後輩の指導」という名目で母校の髙上丘西高等学校、通称髙高を訪れていた。
勿論、本当の目的は後輩の指導ではない 。
部活の後輩に用事があるところまでは事実だが、その目的は指導ではなく、とある部員にとあることを尋ねることにある。
……まあ、なんて遠回しに言うまでもなく、当然のことながら永礼嵐に彼女が超魔法少女かどうか尋ねるのが目的である。
永礼嵐。
現在高校二年生で、桜の所属していた部活文芸部の現部長。
この文芸部というのは、「文学の部活」ではなく「文化芸術総合部」の略である。
大元はいわゆる小説を書いたりしている、文学中心の文芸部だったのだが。
廃部寸前になっていた漫画部、デジタルアート研究部、ジャズ同好会、喫茶研究会、ボードゲーム愛好会、特撮研究倶楽部、髙上丘高校神秘学会が「文芸部と兼部している生徒が多い」ことを理由に吸収合併され。
結果、今のような「とりあえず文化的・芸術的なものを何でも扱う部活」になっているのだ。
なので、現在部で行なわれている活動もTRPGのリプレイをまとめたり、自作小説を書いたり、美術作品と漫画・イラストの比較研究を行なったり、フィクションによく出てくるオカルト用語の解説書を制作したりと人によってまちまちだったりする。
その文芸部の部室のある北校舎三階に桜は足を運ぶ。
ここにある地学室が文芸部の部室となっているのだ。
何故、文芸部の部室が地学室なのかというのは、実のところ文芸部を立ち上げた時に勤務していた地学の教師が学生時代に文芸部だったという理由があり。
更にここには文芸部誕生の秘話があるのだが。
桜はそんなことは知らないし、またこの物語とも一切関係がないので、今回はそれについては触れないでおこう。
さて、部室の扉の前に立った桜は一応はトントンとノックはしたものの。
「こんにちは~!!」
と元気な声を張り上げながら、中の人が返事をする前にドアを勢いよく開いてしまった。
何せ桜的には自分は未だ部員の一人。
ので、ここの部の扉を勝手に開けるのはごく普通の行いなのである。
「あ、桜先輩だ!」
「お久しぶりです!」
後輩の部員達も「桜先輩は名誉部員だから平然と入ってくるんだろう」だとか「彼女ならノックしただけでもマシだろう」として桜のその行動を特に問題視もしない。
ただ一人。
「先輩とはいえ、現部員以外の入室は許可をもらってからにしてくれたまえ」
と、指摘するのは桜が今回この部活を尋ねる理由になっている永礼嵐だけである。
「あ、嵐。丁度良かった」
桜は注意されたことに対して謝ることもしなければ、文句を言うこともせず、部室の奥の部長の席に座っている嵐の所に、真っ直ぐズカズカと突き進む。
「何?」
自分の前に立って、顔をじろじろ見てくる桜の顔を嵐も凝視。
そしてお互いの目のあったところで、桜は口を開き。
「あんた、超魔法少女でしょ?」
と、訊ねた。
本来、こういう部活が登場したシーンには、本編の進行に直接関わる会話に入る前に、部員や部室についての紹介などそういう意味合いも兼ねた会話の場面があってもよさそうなものなのだが。
そういう所に気を利かせる桜ではない。
何かのスイッチがオンしたら誰も止められない、空気も文脈も読まい。単刀直入ストレートに物語を進めようとする魔法少女、それが桜なのだ。
「……………………」
この唐突な発言には嵐は「部に来て挨拶の次の台詞がそれか」とか「話を切り出すタイミングというものをこの人は考えないのか」など色々な疑問が浮かんだ。
だが、彼女にとってそんなことを指摘するよりまず今しないとならないのは――
「先輩、ちょっとこっちへ」
嵐は桜を自分の側に呼ぶ。
誘われるままに嵐に近づく桜。
その桜の腕を嵐は掴んで引っ張り廊下に桜を連れ出し、そして桜を連れたまま屋上へ駆け足で向かった。
部室には名誉部員と部長の突然かつ意味不明な行動に呆然とした一年生の部員と、「ああ、あの二人ならいつものことか」とあまり気にしないで各々の活動の方に意識を戻した二年生以上の部員が残ったのであった。
さて、屋上に行った二人。
そのうちの一人桜は「え? 何であたしこんな所に連れてこられたわけ?」と言う顔をしてあたりをキョロキョロと見回していた。
一方連れてきた方の嵐も同じように屋上を見回す。だが、その行動の意味は当然のことながら桜のものとは目的が違い「屋上に、他に人はいないよな」という確認である。
屋上に自分たち以外誰もいないことを確認した嵐は。
「先輩、いきなりあんなこと言って困るじゃないか」
と、口を開く。
「何? やっぱり正体がバレたらまずい?」
「まずいというか……」
嵐は「この人にはいい歳して、自分たちが魔法少女とか恥ずかしいという感覚がないのか?」そう思ったが、直後に「ああ、ないのか」と考えを改め、説得を諦る。
同時に「この人が妙な発言をしても部員達は『また妄想か何かだろう』としか思わないし、さっきの発言もゲームかなんかの話だと思われて大して気にされていないだろう。だから僕の立場が危うくなることなんて無いはずだ」と自分に言い聞かせる。
こうして、「もうこれ以上この件について話すのはやめておこう」とした嵐は、同時にまた「正体も最早バレバレなので〈謎の超魔法少女〉の件も黒歴史として無かったことにしよう」と決めて。
「昨日の戦い、君は超魔法少女の戦いの目的を知らないのかね?」
話の流れを完全に無視して、話題を変えることにした。
「戦いの……目的?」
話の話題が変わったことと、突然予期せぬことを言われたことで桜は「なんだ、やっぱりストームの正体は嵐だったのか」などのツッコみさえ忘れて戦いの目的を考え始めた。
しかし、彼女の知っている自分達の戦う目的と言えば。
「虹華夢幻郷の平和と安全を守る……ことじゃないの?」
というぐらいのものだった。
「やはりその程度か……」
「え?」
「どうやら先輩は超魔法少女の真の目的を知らないらしいな?」
「真の……目的? って、何? 勿体ぶらないで教えてよ」
「ふん、そんなに言うなら教えてやろう……我々の真の目的は今回、怪人の異常発生の原因となっている奪われた変身ベルトを回収することにある」
「へぇ……」
桜は突然出てきた「怪人の異常発生の原因」とか「奪われた変身ベルト」という言葉にやや戸惑ったが、嵐にそれが何かを訊ねる前に自分で。
「つまり、あたし達が持っているのみたいな変身ベルトの中で、怪人を生み出す能力を持ったやつがどこかにあって、それを回収するのが超魔法少女の仕事って事?」
と、いう考えを導き出した。
長年、ヒーロー作品を見続け、自分なりに分析してきた桜が導き出したその答えは合っていたらしく、嵐はそれに首を縦に振る。
「既にそのベルト由来の怪人も誕生しているところからすると、誰かがそれを手に入れて魔法少女になったと考えるのが妥当だろう……つまり」
「ベルトを回収するためには、どこかにいるあたし達以外の魔法少女を捜さなければならない」
「そういう事だ」
「なるほど」
「『なるほど』じゃあない。昨日の君はそういう事をまったく考えず敵を倒そうとしていたじゃあないか」
「倒そうとしていたって……もしかして、情報を聞き出してから倒すべきだったってこと?」
「その通りだ」
「…………とどめを刺したのはあんたじゃない」
「あれは、もう君がとどめを刺しそうだったから、こちらに注意を向ける意味も込めて攻撃したに過ぎない」
桜は嵐の発言に「本当かなぁ」と疑問を持ったがそれは言わないことにして。
「でも、あたし魔法少女の目的とか、そういうこと聞いていないんだけど」
と、嵐に対して言い訳にもとれるような発言をする。
だが、勿論。この言葉の真意はオウリュウに対しての苦情である。
桜としては「魔法少女になるように契約を持ちかけておいて、詳しく説明しないなんてなんかどこかの白いヤツを連想させて非常に危険だろ。色々と」と言いたいところ。
なのでもし、オウリュウが説明し忘れているなら文句を言おうと思っていたのだが。
「ああ、僕もそれについては言っていないからね」
オウリュウはそう、ごく当たり前のことだというように普通に答えた。
「ちょっと。そういうことはちゃんと説明しておいてもらわないと」
「そうだよ。詳しいことを言わないで魔法少女を選ぶとか、どうかと思うのだがね」
桜としても、嵐としても、そういう重要な事をまったく説明しないというのは明らかに職務怠慢であり、魔法少女の相棒キャラとしての信頼をなくすような行動。
なので、ここは二人そろってオウリュウに詰め寄った。
しかし。
「だって、桜君にそういう面倒臭いことを説明したら引き受けてくれないだろう? 僕は彼女はあくまでストームだけでは対応できない数のネガティヴハートが出現したときの戦力として桜君をスカウトしたんだ。調査の方は僕が独自にやることにしているよ」
と、オウリュウは説明。
これに桜の方は「確かに。そういう面倒なことあたし苦手だし」と思ったのだが。嵐は。
「それじゃあ魔法少女としての勤めを果たせていないじゃないか。大体、いくら怪人を倒しても変身ベルトを回収できなければ、異常発生を止められないんだから意味が無い」
と、指摘した。
実はこの指摘、一見すると正論に見えるが。
嵐の場合、そういっている理由の半分は「虹華夢幻郷で放送しているテレビ版の主人公は桜の方なのに、その桜が単に戦うだけしか仕事をしていないのはおかしい」という感情的なものからきているものだった。
実のところ。
嵐は自ら進んで、その方がカッコいいからという理由で、桜より先に魔法少女になっておきながらあえて二号ヒーローポジションになったのだが。
それでも「魔法少女としての仕事をしていないヤツが主人公をやっていて、自分は二号」というのはあまり気分が良くなかったのだ。
嵐のこの感情を深読みすれば。
特撮に出てくる二号ヒーローのよくあるパターンの一つに「登場時には主人公のやり方を『中途半端』とか『いい加減』などと見なし、突っかかる」というのがあるので、彼女も無意識のうちにそれに則っていただけなのかもしれないが。
まあ、それは気にしないとして。
嵐の指摘に対して、桜は。
「でも、オウリュウはそういう面倒なことしなくていいって言っているし、あたしは戦うだけでもいいでしょ」
と返す。 加えてオウリュウも、
「嵐君。桜君が調査の方でそんなに役に立つとは思えないし、怪人が複数登場した時のための戦闘要員という事に少なくとも当面はしておこうと思っているんだ」
と、言っていることは明らかに桜を(主に頭脳面で)低く見る発言ではあるものの、内容としては桜を援護する。更に、
「うむ、我輩も今まで通り、嵐が情報を集めた方がよいと思う」
嵐の側にいた虎型の機械生命体・フーコも桜とオウリュウの意見に賛同する。
急に会話に入ってきたフーコに桜は。
「そういえばあんた、フーコとか言ったけど……何者なの?」
と訊ねる。
昨日は「オウリュウと似たような存在」ぐらいの感想で、彼の存在についてはあまり気にしなかった彼女だったが、今は気になったのだ。
これは何やらオウリュウも嵐も自分のことを「頭の中が適当な人間」というような扱いをしているので、そうではないというところをアピールしたいという感情が無意識のうちにあり。
それがこうしてフーコについての質問という形で表面化したためなのかもしれない。
さて、理由はともかく。
こうして「謎の存在」っぽく登場したストームと同時に登場しておきながら、彼女よりも情報が少ないまま今に至っていたフーコはようやく、自己紹介の機会を与えられ。
「ふむ、我輩の名はフーコ。オウリュウと同じように魔法少女を捜し、そして発見した少女を――」
と、話し始めた。その時、
「フーコ。悪いが、どうやら虹華夢幻郷にネガティヴハートが出現したようだ」
突如、ストームがそう言って待ったをかけた。
「え? そんなことわかるの?」
尋ねる桜。
彼女が今までネガティヴハートと遭遇・戦闘したのはたった二回だが、そのどちらも現場にいたら偶然出くわしたような出会い方であった。
なので、桜としては何故、嵐は虹華夢幻郷にネガティヴハートが出現したとわかったのか気になったのだ。
「ああ。桜君はあくまで戦闘だけというつもりだったから、その機能は僕が使っているんだけれど。魔法少女の変身システムにはネガティヴハート発生を知らせる機能もあるんだ」
桜の質問に答えるオウリュウ。そしてその答えを聞いた嵐は。
「そういう機能の説明もしていなかったのかね」
と、呆れながらも。
「……まあ、今はそれどころじゃあない。僕は行かせてもらう。魔導填身!!」
変身して、虹華夢幻郷の現場に向かう。
「怪人が出たと知ったら放っておけない。――魔導填身!!」
桜もそれに続いて変身して現場に向かい。
「あ! 別に桜君まで行く必要は無いのに。……仕方がないな」
オウリュウも桜の後を追って現場に向かった。
こうして慌ただしく三人が去っていった後に、一人、ようやく巡ってきた自分の喋る機会を怪人の出現によって失ったフーコが残った。
とはいえ、勿論、魔法少女の相棒役であるフーコがいつまでも一人取り残されている訳もなく。
「………………わ、我輩も嵐の後についていかねば」
などと呟きながら、彼もまた三人の後を追った。
その様子は虎の姿をしているというところから連想させられるような威厳や風格はまるでなく、どこか哀愁の漂うものであった。
(続く)
さて(その3)では再び虹華夢幻郷での怪人とのバトルです!!
今回はグレンオーとストームが協力して戦う……のでしょうか?




