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超魔法少女グレンオー  作者: 窓井来足
第一章
3/19

「ヒーロー!! あたし? その2」

さて、後半は変身した暮無桜と、異世界の怪人とのバトルです!!

果たして初変身した桜はどの程度怪人と戦えるのか!?

「げ!! この姿は何だ!? 何であたしは変身しているんだ!? そしてここはどこだー!?」


 桜は色々なことに困惑。


 ちなみに、一つ目、二つ目の疑問については、彼女がジャック・ラカンも驚愕するぐらいに毎日鏡を見て、あれこれ変身ポーズやかけ声、それにオリジナルの変身アイテムを作ったときの動かしかたなんかを練習していたので。

 オウリュウに言われた時に、無意識のうちに何の迷いもなく指示に従って行動してしまったからなのだが。


 そんなことは知らないオウリュウはとりあえず。


「ここは僕の住んでいる世界〈虹華夢幻郷〉だ」


 と最後の質問にだけ答える。

 この回答を聞いた桜は。


「――どう見ても、ただ外に出ただけなんですけど」


 という感想を述べる。

 そう。


 ここは普通の、現代日本のどこにでもありそうな街という感じのところなのだった。


「ん? あ、そうか。魔法少女ものの異世界だから、もっとファンタスティックなものを期待していたのか」


 オウリュウは、やや申し訳なさそうなリアクションをしてから、


「期待を裏切って悪いが、別に〈虹華夢幻郷〉なんていっても、虹とか夢と本当に関係があるわけではない。単にこの世界としての名称――」

 

 と、この世界の名称について説明を続けた。

 だが、桜はそれを全く聞かず。窓ガラスに映った自分を見て、


「うわぁ、何これ! スッゲェ! これがあたし?」

 

 などと一人で盛り上がっていた。

 それに対してオウリュウは、


「ちゃんと話を聞けッ!!」


 と、先ほど桜の部屋でしたのと同じような感じで怒鳴りつける。


 しかし、さっきまでの桜だったらビビって言うことを聞いたのだろうが、窓ガラスに映った自分の変身後の姿を見た桜にとって、もはや自分はヒーロー。

 横でドラゴンが吠えていても、そんなことではもうびびったりしないのだった。


 と、そんな彼らの前方で。


「何で、いつもの店が今日に限って休みなんだ! ウオォオォォォォ!」


 と叫びながら暴れる、一人の、怪人としか形容できないような人物の姿が。

 全身のデザインはどうやら、鍵やシャッターをモチーフにしているらしい。


 これを見た桜は骸骨を連想させる顔つきや、むき出しになった歯、更に全体のデザインから、とある有名なデザイナーさんの描く怪人を彷彿をさせるなあと思い、気になったのだが。

 あくまで目の前にいるあれは異世界の怪人であって特撮に出てくる怪人じゃない。当然、怪人が有名な人のデザインを真似をするわけもないし――ということは偶然だろうという結論に至った。


 まあ、怪人の容姿はともかく。あの怪人がこの世界にとってどんな存在かということも気になったので、桜はオウリュウに。


「あれ何? この世界の住民?」


 と、尋ねる。


 桜はかつて「異世界に行った際に怪人がいたので問答無用で倒したら、実は悪い怪人ではなかった」という展開を特撮で見たことがある。

 それに、最近は「怪人だけどヒーローの仲間」というのもよくあることだ。いや、これに関しては実はかなり昔から――おっと、話が脱線しそうだ。この件はまた今度語らせていただこう。


 ともかく、桜は怪人だから悪とは判断しない、なので当然、怪人が目の前に現われたとしてもいきなり倒しに向かったりはしないのだ。


「あれはネガティヴハートだ」


「ネガティヴハート?」


「そう。君たちの世界で発生した、やり場のない負の感情が、こちらの世界で具現化したのがあいつらネガティヴハートだ。あれは、おそらく、『店に行ったら臨時休業だった』という悲しみから生まれたのだろう」


「へぇ……」


 桜は「この世界の怪人って、案外しょぼい理由で生まれているんだなぁ」と思ったが。

 すぐに「そういえば、特撮では結構ハードな問題から怪人は生まれるけど、特撮と同じ枠で放送していたりする、女の子向けのアニメでは案外この程度の悩みから怪人が生まれていたっけ」と思い直す。


 さて桜が怪人の方を窺っていると。

 怪人は何と、近くでヒーローの武器だと思われる玩具を持って遊んでいる子ども達の方に向かって行くではないか。


 子ども達は「ヤベェ! 怪人だ!」「みんな、逃げろー」などと口々に言いながら退散。

 子ども達は怪人が出没するようになってもう随分経つこの世界に住んでいるため、怪人を知らない人たちよりは冷静に避難しているのだが、それでも怪人が突然出てきたので多少は慌てていた。


 その為、その場に自分たちが遊んでいた玩具を置いて行ってしまったのだった。

 そして、怪人の狙いは最初から子どもではなく――。


「俺だけ買えないなんて不公平だ、ブッ壊してやるウゥゥゥゥ!!」


 その子ども達が置いて行ってしまった玩具であった。


 怪人は玩具に向かって鍵の束が先端についた杖を振り下ろす。このままでは子ども達の大事な玩具(たからもの)が木っ端微塵に破壊されてしまう!!


 次の瞬間。


「Axel Jewel!!」


 という声が、桜のバックルから鳴り響いていた。


 そして。

 気がついた時には怪人の杖が届かないところに、さっきまで地面に落ちていた玩具を抱えた桜の姿が。


 桜は魔法少女のアイテムの一つ「アクセルジュエル」を使って加速し、一瞬のうちに玩具を回収、そして安全なところに避難したのだ。


「何故今あたし、この宝石を選んだ……?」


 自分でやっておきながら、驚いている桜。

 それに対してオウリュウは。


「桜君。君のベルトについているポーチは手を入れると『今、使いたいジュエル』が出てくるようにできているんだ」


 と解説しつつも。


「でも、なんで説明無しで加速のジュエルがあるなんてわかったんだい?」


 と訊ねる。これに桜は。


「ええと……大体わかった……から?」


 と曖昧な返事をした。


 実のところ、自分でも現状をイマイチわかっていない彼女が、アクセルジュエルを選んで、しかもちゃんと使えているのは。

 彼女はこのままでは玩具が壊されてしまうと思った時に「加速とか便利なものないの?」と思いながら、無意識にポーチに手を突っ込んでおり。


 そしてその時に手にしたジュエルが全体的には赤色をしていて、青色で「A」の文字が刻まれていたことを見た瞬間に。

「あ、多分加速だこれ。加速能力のあるヒーローって赤いの多いし。文字の方はおそらく〈Axel〉の〈A〉だ」とあまり意識せずに判断したからだった。


 なので「大体わかった」と言う回答はかなり正確な答えである。


 ただ、加速中に普通に行動ができた事に関しては……これはもう、日頃の妄想(イメトレ)の賜というしかないだろう。痛さは強さである。


 まあ、加速できた理由はともかく。

 こうして、無事に玩具を護りきった桜は、玩具をそっと地面においてから。


「子どもは宝物……。この世で最も罪深い者の一つは、その宝物の宝物を傷つける者だ」


 と怪人に向かって説教をする。


 この様子と発言にオウリュウは「やはり彼女を戦士に選んで良かった」と思ったのだが。

 実際のところ、この台詞は「前から言ってみたかったヒーローの台詞」のアレンジであり。

 更に桜が玩具を守った理由も子どもの宝物だからというのもあるが、それ以上に「あの玩具、あたしの世界ではおそらく存在しない作品の玩具だけど……なんかカッコいいなぁ、壊されるなんて勿体ない」と思ったからという個人的理由の方が強いのであった。


 が、結果的に人を助けていて、しかもヒーローっぽいのだから大丈夫だろう。


 さて。説教をされた怪人は、


「何だ? 貴様は?」


 怪人は桜に向かって尋ねる。

 桜は、


「通りすがりの魔法少女!」


 と宣言し。


 タンッ!

 と、飛び上がって宙返り。


 ちなみにこの宙返り。

 強いて言うなら「変身によって手に入れた身体能力のチェック」程度の意味があるのかもしれないが。

 おそらくは特に意味はない。


 まあ、それはともかく、そんな宙返りの後。


「グレンオー!」


 と名乗って桜はポーズを取る。


 名前もポーズも、彼女が高校生時代に文芸部にいた際、小説やイラストのために考えた設定である。

 名前に関しては自分の名前を元に、「暮無だから紅で〈紅蓮〉」と「桜」で「紅蓮桜」という発想でつけたのだ。


 だがしかし、これを聞いた怪人は、


「グレンオー? どこかの時間関係の、電車に乗るヒーローのパチもんじゃねぇのか?」


 と、ツっコむ。

 何故怪人が特撮のヒーローについて知っているのかというのは読者的には気になるが、桜、否、グレンオーはそんなことを気にはせず。


「あ! お前! 初っぱなから言っちゃあいけないこと言ったな!」


 鋭い指摘に対して怒りを露わにする。


 まあ、確かに名前だけではなく外見も、全体的になんとなく怪人の言っている「電車に乗るヒーロー」によく似ているデザインになっていたりするのだが。

 これは桜が腐女子の友達に勧められて見た、特撮にはまるきっかけになった作品がその「電車に乗るヒーロー」だったので、それ以来の特撮ファンである彼女が、戦士の姿として強くイメージしたのがそのヒーローだったためだ。


 そんな事情があるので、姿や名前が似てしまうのは仕方がないと思うのだが。

 本人的には、ちょっと、いやかーなーり気にしていたのだった。


 そのため 怒り心頭に発した彼女の(ハート)は今。


「貴様は許ざん! とっととお家に帰りなさい!」


 と、非常にブラックな炎に燃えていた。

 そして、この怒りの台詞を受けて怪人も。


(なぁに)が『許ざん』だ。俺に勝てると思ってんのか? あぁ?」


 と、かなり頭に血が上っていった。


 彼の場合は、そもそもネガティヴな感情が集まった存在なので、最初からキレやすいのだ。

 なので、あまり刺激しない方が、良いのだが。


「どーせ、最初の怪人なんて、ヒーローの設定とか、実力見せるための噛ませでしょ」


 と、グレンオーがメタ的だが余計なことを言ったので、


「テメェこそ言っちゃあいけないこと言いやがって!」


 怪人は怒りを一層強く持ってしまった。最早、血が上がりすぎて沸騰状態であった。

 にもかかわらず、グレンオーは、


「大体、自分が玩具手に入らなかったからって、子ども相手に狼藉を働くようなのが、強い訳無いじゃん」


 と、相手が気にするようなことを更に口にする。

 この言葉に、怪人はついにキレて。


「俺は『玩具を破壊する』って設定の怪人なんだからしかたねぇじゃねーかアァァァァ!!」


 と叫びながらグレンオーに殴りかかった。


 しかしグレンオーはその突きの拳頭からややずれた部分に自ら当たり、その威力を利用して身体を回転させ、相手の攻撃の直撃を回避。その回転の勢いをそのまま左脚による後ろ蹴りに活かす。


 そして、それを受けてよろけた怪人を左腕を使って地面に向かって叩き落し、右脚ですくい上げるように膝蹴りを炸裂させ。


 更に怪人の身体が自分の肩より高く上がったところで、鳩尾に向かってアッパーを食らわせた。


 最初の回避からそこまでわずか三秒程度である。怪人は約5m先までぶっ飛んだ。


「ぐぅぅ……強い、強すぎる……」


 ……怪人もそう言っているが、最早、魔法少女という動きではない。


 いや、魔法少女ものや変身ヒロインものにはこういう過激なアクションができるキャラクターも結構いるのは事実だし。

 特に先ほど少し話題になった〈特撮の後とかに放送していた女の子向けアニメ〉の初期のころのアクションは「お前ら少年漫画の主人公か!?」みたいな動きをしていたが。そして今もそのシリーズではそういう場面が多いが。


 だからといって、初めて変身した時にここまでやるヤツは流石にあまりいないような気もする。


 そんなグレンオーは、敵との間合いが開いた隙を利用して。


「さあて、何か武器は……」


 と、言いながらポーチに手を突っ込み、そこから緑色の本体に銀で「S」の字が刻まれた宝石を取り出した。


「とりあえず、これをバックルに……と」


 グレンオーがJewelをバックルに差し込み、自分の身体の方に引き寄せるという動作を行う。するとバックルから。


「Sword Jewel!! Summon Sword GUREN―MARU !!」


 と言う音声が流れ、それと共に何やら剣のようなのようなものが目の前の空間に現われた。

 グレンオーは空中に浮遊しているそれの柄を手にする。


「へぇ、あれは〈Sword〉の〈S〉か」


 グレンオーは武器の様子をあれこれ確認。そしてすぐに。


「あ、でもこれ……」


 と出てきた武器の構造を見抜き、メギャンと変形させる。


 まだ彼女はこの武器について何の説明も受けていないのだが、ヒーローの武器をいくつも見てきた経験があるため、「この形は、ここで変形するはず」というのがすぐに分かるのだ。


「へぇ、やっぱりガンモードに変形する訳ね。そして……」


 バックルに再び手を突っ込んで、取り出したのは黄色の本体に紫で「G」の文字が刻まれた宝石。


「おそらくこれを……」


 その宝石を武器にある、ベルトのポケットと同じ形の凹みに差し込む。すると武器から。


「Sword GUREN―MARU Gun Mode!!」


 という音声が流れた。ちなみに、その声はベルトのバックルと同じ質のものだった。


 ちなみに、「ソード・グレンマル」という名前は桜が、自身のオリジナルヒーローを考えているときに一緒に考えた武器の名前で。

 その名称は「GUREN―O」の「O」を「マル」と読むところからきている。

 彼女が身につけている魔法少女のベルトは持ち主の戦う意思を具現化するものなので、装備品の名前もその持ち主に合わせた名称になっているということだ。


「よし、それじゃあいきますかァ!」


 と、ソード・グレンマルガンモードで5m先の怪人を撃つグレンオー。


 撃ちながら彼女は「一応、ソード・グレンマルという武器なんだから、先にソードモードを使っておくべきだったかな?」と物語としてはやや問題のあるところを反省する。

 しかし、戦闘としては遠距離にいる敵に銃で攻撃するのは勿論、剣で斬りかかりに向かうよりは正しい判断だ。


 何故かこの手の作品では銃使いなのに接近戦ばかりする奴もいるが……まあ、それは置いておこう。


 さて、そんなグレンオーの攻撃。

 撃ったエネルギー弾はほとんど敵に命中し、効果的にダメージを与えていった。


「よし、いい感じ! ……あれ? そういえば」


「なんだい? 桜君?」


「銃って、素人が撃ってもそんなに当たらないんじゃなかった?」


 いくら妄想(イメトレ)の中では銃の練習もしたし、玩具なら何度も構えたし、ゲーセンでその手のゲームも遊んでいた桜とはいえ、撃った弾は十発中九発が怪人に的確に命中。残り一発も、擦っている。

 これは流石のグレンオーでも当たりすぎな気がしたのだ。


 この疑問に、オウリュウは。


「ああ、それは君の変身システムに射撃……と、いうより戦闘全般をサポートするものが組み込まれているからだよ」


 と答え、その後。


「ただ、それでもそんなに命中させられる人は少ないと思うけどね」


 とも付け加えた。


「へぇ、じゃああたしって結構、いや、相当強いってことじゃん」


 と、喜ぶグレンオーに対して。


「そんなヤツと戦ってられるかッ! 俺は帰るッ!」


 と、どこからともなく二輪車を召喚して跨がり、去っていこうとする怪人。

 ちなみに、二輪車のキーは武器の杖についている、先端の鍵の束のうちの一本を外して使っていたりした。


 まあ、それはいいとして。


 これにて一件落着……と、思ったのだがグレンオーは。


「ちょっと! まだ倒してないじゃん。どうしよう、オウリュウ?」


 追いかけて倒すつもりでいた。


「桜君、君さっき『お家に帰りなさい』って言っていたような……まあ、帰しちゃマズイからこれでいいんだけど」


 と言いながら、オウリュウはグレンオーに新たな、ピンク色の本体に緑色で「M」と刻んである宝石を渡した。


「それを使えば、君も魔導二輪を召喚できる。それでアイツを追うんだ」


「よし! わかった」


 グレンオーは渡された宝石を今までと同じ手順で使用。


 すると「Machine Jewel!! Summon MACHINE GUREN―HEART!!」というバックルからの音声と共に空中に魔法陣が出現。

 そしてその魔法陣からピンクと黒のカラーリングの二輪車が現われた。


 この、召喚されたバイク。

 見る人が見ると、桜の住む世界で売られている〈Xなんとか250〉とかいうものをちょっといじったような感じだということがわかるのだが。

 これも他の装備と同じく桜の「ヒーローの乗り物」のイメージだからそういう見た目になっているのであって、決して何かのバイクを元として改造して作ったわけではないのである。


 さて、グレンオーはそのバイクに跨がり怪人を追いかけ始めた。

 だが、怪人は交通ルールを無視して危険運転で突っ走り、グレンオーは住民に迷惑をかけないように安全運転。これでは敵を捕らえることができるはずがない。


「くっ! 特撮とかだとこういうシーンは敵と自分以外いないような道でチェイスするのが定番なのに……」


 グレンオーは現実の厳しさに妙なところで嘆く。

 そんなグレンオーに、バイクと同じスピードで飛行してついてきているオウリュウが、また。


「桜君、この宝石を」


 と宝石を渡す。


「? この宝石は?」


 それは緑色の本体に赤色で「R」の字が刻んである宝石であった。


 特撮を見慣れているグレンオーにも、このジュエルの使い方は想像できなかったのだが、渡された以上、とりあえず使ってみることにし、バックルではなくバイクの方にある宝石の差し込み口に入れてみる。


 すると、バイクから「Road Jewel!!」という声が。

 その声と共に、急にバイクがまるで空中に浮かんだかのように先ほどまでより高いところを走行し始めた。


 一体何が起きたのか?

 グレンオーが地面を確認すると。

 何と、バイクの下に魔力によるレールとでもいうのか、ともかく、道が形成されていたのであった。


「それを使うと好きなところに道を作ることができる。これならば障害物や住民に気をとられることもなく上から追いかけることが出来るというわけだ」


 そう解説をするオウリュウは更に。


「実はこの道には上下というものがない。というよりバイクが乗っている方が上になる」


 と付け加える。


「どういうこと?」


 とグレンオーがそれに対して問うと、オウリュウは。


「まあ、とりあえず試しに、バイクを倒れそうなぐらいまで傾けるイメージで横にしてみてくれ」


 とグレンオーに告げる。


 普通なら「バイクで転倒したら危ない」という常識的な恐怖心が働いて、例えそれが「特殊な力で何とかなる」と知っていても抵抗を持ちそうな指示だったが。

 グレンオーは自身を既にスーパーヒーローだと思い込んでいるので。


「よぉし、やってやろうじゃない」


 とまったく怖れず、バイクを転倒しそうなぐらいに傾けた。


 するとバイクは転倒し、グレンオーは真っ逆さまに……には、なったのだが。

 バイクは魔力で作った道から落ちたりすることはなく。

 まるで逆さまになった時のジェットコースターのように道にぶら下がっていた。

 そしてそのこと以外はさっきまでと同じ状態で走行し続けたのであった。


「おお! 何だこれ!?」


 驚くグレンオーと。


「つまり、そうなるわけだ。これでどんな無茶な運転でも大丈夫ってわけさ」


 自分たちの作ったシステムを誇らしげに語るオウリュウ。

 だが、その自慢がいけなかったのか。


「なるほど。じゃあ、こういうのはどうだ」


 とオウリュウの言葉を受けて調子に乗ったグレンオーは魔力の道を軸にしてバイクをグルグル回転させながら前進する。


「…………………」


 これを見たオウリュウはそういうのは流石にどうかと思ったが。

 自分で「どんな無茶な運転も大丈夫」と言った手前、口には出さないことにした。

 だが、それに追いつかれた怪人は。


「うげっ! なんか変なのが追いかけてくる」


 と率直な感想を口にした。

 してしまった。

 そして、それが。


「お前、さっきに続いてまたしても言っちゃいけないことを言ったな!」


 とグレンオーの怒りに再び火を付けてしまった。

 このグレンオーとかいうヤツ、怪人に対してはやけに怒りの沸点の低い正義の味方である。


 が、まあそれはともかく。


 怒ったグレンオーはまず、相手のバイクのタイヤをグレンマルガンモードで撃つ。

 すると放出されたエネルギー弾は、回転しているバイクから攻撃を放たれているにもかかわらず、一発で後輪に命中。


 もう、ここまで来るとグレンオーの戦闘力はぶっちゃけありえないといっても過言ではない。

 彼女はただのオタクの魔法少女ではなく、魔法少女にして〈戦闘の天才〉なのかもしれない。


 さて、撃たれた怪人のバイクはタイヤが破裂し走行不能になり、そして走っていた勢いで当然のように転倒した。

 普通の人間なら命に関わるダメージを受けた怪人だが、そこは流石〈怪人〉というところだろうか? それだけのダメージを受けても立ち上がる。


 しかし、立ち上がらない方が良かったのかもしれない。

 何故なら……


「さて、必殺技を喰らわせますかっ!」


 と気合いを入れたグレンオーが赤色の本体に黄色で「C」と刻んである宝石をポーチから取り出し、バイクに差し込んでいたからだ。


「Full Charge!! GUREN―O Break!!」


 バイクから声が響くと同時に、グレンオーの(アーマー)とバイクのピンクの部分が、〈グレン〉という言葉にふさわしい紅に変色し、発光! そして。


「うおぉぉぉぉぉ! 喰らえ!! 必殺・回転ぶちかましっ!!」


 グレンオーはバイクが発した技名とまったく違う技名を叫びながら、蓄積(チャージ)されたエネルギーを纏って突撃(チャージ)する!!


 ちなみに、技名について。余談かもしれないが。

「C」の宝石をバイクに差し込んで通常発動する技名はバックルの音声が示す通り、「グレンオーブレイク」となっているのだが。

 今回はグレンオーが魔力の道を中心に回転しながら発動したので「グレンオースクリューブレイク」になっている。


 いきなり強化版の技を放つとは、このグレンオーとかいう魔法少女、豪快でとんでもない魔法少女……と、いうかヒーローである。

 そんな型破りなヤツの技を、バイクの転倒から立ち上がったばかりの怪人に避ける(すべ)などあるわけもなく。

 結果彼は、バイクの直撃を受けてしまった。


 そして怪人は。


「もう、お前はどう考えても魔法少女じゃねぇーーッ!」


 という、もっともな意見を断末魔として上げながらヒーローもののお約束通り爆発四散した。


 この爆発。炎の色が紅と青だったり、攻撃炸裂時から数秒間、魔法少女の紋様が浮かび上がっていたりするという結構特殊なものなのだが、詳しいことは序章にて説明したのでここでは省く。


 今後もこの作品のヒーローが倒した怪人は基本的にそういう爆発をして散っていく予定なので特に描写がない場合はそういう爆発が起きたのだと考えていただきたい。


 さて、「このままだと〈魔法少女もの〉じゃないから作風を変えろ」という厳しい意見にも受け取れる、怪人の最期の台詞を聞いたグレンオーだった。


 が、しかし。

 彼女はそれを。


「そうか。あたしは、魔法少女を超えたんだ! これからは〈超魔法少女〉と名乗ろう」


 と、勝手に、自分に都合のいいように解釈したのだった。


 そして、それを聞いたオウリュウは、「超魔法少女って名称は、ある意味で正しい気もするけど良いのだろうか?」と、止めるべきかそのままにしておくべきか戸惑ったが。

 結局、「今までの先輩が一応〈魔法少女〉という名称でやってきているから止めておこう」と決めた。


 のだがしかし、オウリュウがそれを言い出す前に。


「おい、アイツなんかすげーぜ」


「超魔法少女とかいうらしいぜ」


 という声が。

 オウリュウとグレンオーが声の方を振り向くと、そこには様子をうかがいに来た近所の子ども達がいた。


 ちなみに、グレンオーがバイクで移動しているので当たり前だが。

 この子ども達は〈虹華夢幻郷〉におけるSNSみたいなものによって近所の子どもから「怪人と新しいヒーローが出現した」と連絡を受けてグレンオーを見に来ている子どもであり、さっきの玩具を忘れていった子どもではない。

 ここで玩具を守ってもらった子ども達が、グレンオーにお礼を言いに来ると話としては上手くまとまるんだが、現実はそうはいかないということである。


 まあ、そんな訳でグレンオーにお礼を言う必要も特にない、事件とは無関係の子ども達だったが、


「グレンオー、街を守ってくれてありがとう!」


「とりあえず、握手して。それからサイン頂戴!」


 と、言いながらグレンオーに駆け寄ってきたのであった。


 これに対して、先ほど「子どもは宝物」といったこともあるが、それ以上に「ヒーローとして子どものファンを蔑ろに出来ない」と日頃から考えているグレンオーは。


「よしよし、虹華夢幻郷であたしと握手っ!」


 と言って握手をし。更に「超魔法少女! グレンオー☆」と子ども達の持ってきた色紙にサインまでしたのであった。

 勿論、桜がサインを以前から何度も練習していたことは言うまでもない。


 この様子に。

 オウリュウは「もう、子どもの前で名乗ってサインまでしちゃったから今更改名はしない方がいいな」と考えを改め。

 結局、この〈超魔法少女〉というのを正式に使用することにした。


 また、桜も「戦闘だけではなく、子ども達のために仕事が出来るのなら魔法少女になるっていうのも悪くないか」とオウリュウの依頼を引き受けることを決めたのであった。


 まあ、彼女の場合、戦闘もノリノリでやっていたので、その段階で既に決心していた可能性も高いのだが……まあ、それは気にしないことにしよう。


 ☆ ☆ ☆


 こうして、虹華夢幻郷に、新たな戦士、超魔法少女グレンオーが誕生した。

 してしまった。

 しかし、そんな彼女を遠方から見つめる白い影が。


「超魔法少女は君だけじゃあ、ないんだけどね」


 彼女の正体は果たして一体、何者なのか。

 既に序章でネタバレしている感があるが……第二章に続く!!

文章中の女の子向けアニメ。

現在は特撮の前に放送していますが、書いた当時は前だったという状況です。

ただ、一応そのあたりを考慮して文中の表現も〈放送していた〉と過去形にしてあったりします。


しかし、書いてから載せるまでの間に「十八歳だから未成年で少女」という設定が危うくなったりと。

いろいろあったなぁ……と。

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