「ヒーロー!! あたし? その1」
第一章は主人公の暮無桜がグレンオーに変身し、最初のバトルを繰り広げます!!
……いきなり、一方的に怪人を攻めるような中身少年寄りの少女(十八歳)という。
作者の好み全開で書いているようなヤツですが。よろしくお願いします。
「ただいまー。いやぁ徹夜で手伝って、疲れたー」
先輩の所での夕方まで続いた手伝いを終え、途中にあるおもちゃ屋で買い物をしてから帰宅した少女、暮無桜は。
玄関で脱いだ靴も揃えず、それでいてちゃんとしっかり手だけは洗ってから自室にドタドタと駆け込み。
「でも、今日はいいもの手に入れたし、これで疲れもぶっ飛ぶぞぉ!!」
と言って、おもちゃ屋の袋の中から特撮ヒーローの変身ベルトの玩具が入っている箱を取り出し。
包装のビニールを箱が傷つかないように丁寧に剥がした。
ちなみに。
この桜という少女、一応十八歳で既に高卒である。
そうでなければ徹夜してそのまま次の夜までの手伝いを先輩が許したことがいろいろ問題になってしまう。
それでも「少女」と記述しているのは、このように変身ベルトで遊ぼうとしていたり。
着ているTシャツに、東京都の南にある市を舞台にしたローカルヒーロー作品のイラストがプリントされていたり。
また、バッグの方には自身の考えた桜とハートをモチーフにしたオリジナルヒーローのシンボルマークがプリントされていたりするようなヤツなので。
中身が少女ということで「少女」と記述しているというわけだ。
まあ、実際のところ、どちらかと言えば「少年」かもしれないが……。
「しかしまさか、これが一万万八千円で手に入るとはねぇ。すっごくお得な感じ」
その少女が、箱の中から取りだしたのは、電車をモチーフにしたヒーローの変身ベルト。
大人向けの商品として販売されたそれは、定価は三万七千円程度だったが、現在、インターネットオークションなら、平均七万円で取引されている。
なので、そういうことを考えると、確かに彼女は、変身ベルトを相当安く手に入れたことになる。
だが、それは相場と比較すればの話で。
とある夢のために高卒でフリーターになり、時には徹夜などもして先輩の手伝いをしている桜にとって、かなりの出費のはずなのだが。
彼女は全くそんなことは気にしていない。
いや、むしろ「少しの贅沢をしなければ、働く気が失せる。ということは必要経費だ」ぐらいに思っているのだった。
「箱よし、説明書もよし、ベルトだけじゃなくって、細かいものもちゃんと付いている――完璧!」
中古商品なので、何か足りないのではと思い、確認した桜だったが、ひと揃い中身が存在することを確かめ、安堵する。
さて、これを着けて変身ポーズでもとったりして遊ぶか。
そう彼女が思ったその時。
部屋の窓を「コンコン」とノックする音が。
ここ、二階なんですが――と、思いながら、窓の方を振り向く桜。
そこには……実に、実に奇怪な、そして機械なものが存在した。
どう見ても、この世の物とは思えないようなものが存在したのだ。
それは、いうならば、龍の姿をしたロボット。
少なくとも、そんな感じに見ることができる外見をしたものだった。
大きさは中型犬ぐらいだろうか? 四本の腕に鳥を模したような翼を持っている。
さて、これを目撃した桜は特撮ファンであることもあって「大きさは小さいけれど……どこかの特撮で〈鏡の中の世界〉に住んでいたモンスターに似ている気がする。もしかして、あたしもあの窓ガラスの映り込み中から怪物に狙われているのだろうか?」という感想を持った。
が、すぐに「現実にそんなのいるわけないし。ああ、疲れているんだ。そりゃあ、このベルト買うために、頑張ってバイトしたからなあ……遊ぶのは起きてからにして、今はもう寝よう」とまともな思考に切り替える。
そして、部屋の明かりを消した桜は、そのまま布団にもぐった。
いざ、ダイブ・イントゥ・ザ・ドリームである。
ちなみに服装はTシャツとジャージのままで、しかも帰宅してから風呂にも入っていないのだが、今は変な幻覚が見えてしまうぐらいに疲れているのだ。
そんなことを気にしている場合ではない。
こうして、桜は、今後そなえて眠りに就くことにしたのだった。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。
「――っ! うるさい! うるさい! うるさーい!」
桜は飛び起きて、窓の方に向かう。
ちなみに彼女は、今の台詞をとある特撮の悪役を真似して言っている。
その台詞に、更に大元になっているネタがあることも当然のように彼女は知っているのだが。
桜としては、特撮の悪役のイメージで言ったのだ。
それはともかく、人が徹夜の作業で疲れているにあんなにひたすらノックするなんて、悪戯だとしたら、タチが悪すぎるだろう。
軽く文句を言ってやらなければならない。
そう考えながら窓を開ける桜。するとそこから。
「やっと入れてくれたか。このままだったら窓をぶち破ろうかと思っていたぞ」
と何やら物騒なことを言いながら、先ほどのロボットみたいな龍が部屋に入り込んできた。
そいつは部屋の様子を見回し何かわかったかのように頷いた後、桜に目を合わせる。
そして。
「ふむ。人に名前を聞くときはまず自分からだな」
と声を発する。
どうやら彼は人語を解し、会話をすることもできるタイプのモンスターのようだ。
まあ、この手の作品には良くあることではある。
で、そのモンスターは。
「私の名はオウリュウ。この世界に選ばれし戦士を――」
と続けるが。
「うわぁ、何こいつ! スッゲェ! 何? どんな理屈で浮いているわけ?」
桜はその、オウリュウと名乗ったモンスター自身に夢中。まるで彼の話を聞いていないのだった。
この様子に。
「ちゃんと話を聞けッ!」
怒鳴りつけるオウリュウ。
怒声自体に加え、龍の姿も相まって、その迫力はハイテンションになっている桜を黙らせるのにも十分なものだった。
「で、自己紹介の続きだ。私の名はオウリュウ。この世界に選ばれし戦士を探してやってきた。君、ええと、桜君?」
「え? 何であたしの名前を知ってるわけ?」
「桜君。きみ、魔法少女にならないか?」
桜は「うわあ、怪しい。どこかのアニメのせいでこの手の誘いはただでさえヤバイ印象があるのに、それに追加で何故かあたしの名前を知っていることもあってすっごく怪しい……」と思ったが、それは口にせず。
「魔法少女って、何であたしな訳?」
至極まっとう、当然の疑問を口にする。
これに対してオウリュウは、
「まず、君の身体能力。数日間観察させてもらったが、これは実に素晴らしいものだった」
と答える。
当然、名前もこの観察の時に知ったのである。
しかし。
魔法少女とはいえ、戦士を探しに来たのだから身体能力の確認は大切だというのはわかるが。
数日観察とか。一歩間違えればストーカーである。いや、既にストーカーかもしれない。
ストーカーが二階の窓から侵入してきたと考えると、大変、超ヤバイのだが。
まあ、それはさておき。
「次に」
オウリュウは続ける。
「次に、私が君を選んだ理由は桜君。君がその、変身ベルトで遊んでいたからだ。しかも、それ一つではなく」
オウリュウは尻尾で部屋中にいくつもある、変身ベルトなどの変身アイテムや、特撮ヒーローまたは彼らの乗るロボットやバイクのフィギュアを指し示す。
「これだけのものを持っている。これが君を戦士に選んだ第二の理由だ」
「……なんで、魔法少女が変身ベルトでヒーローよ」
「ふむ。我々がこの世界に来て戦士を選ぶとき、この世界の人間相手に『戦士』をリサーチした結果、〈ベルトで変身し、鎧を纏う〉ものだということになったのだ。だから、そういうのが好きな人に頼んでいるというわけだ」
「……いや、それは魔法少女じゃないから」
「ああ。今となっては知っている。しかし、これには色々あったんだ」
☆ ☆ ☆
「あれは私と仲間がこの世界にやってきた、七年前のことだった。右も左もわからない我々はとりあえず現地の人間に、〈戦士〉について情報を聞き出そうと試みた。
「だが、我々は見ての通りこんな容姿だ。最初に集ってきたのは子ども、しかも男の子ばかりだった。しかし、折角集ってきたんだからここはとりあえず彼らから情報を聞いてみようということにはしたんだ。
「で。その時に我々の住んでいる世界〈虹華夢幻郷〉について彼らにわかりやすいように『虹と華の夢の国』と紹介した。そしたら少年達から『そういうのは女の子が戦うんだよ』という意見が挙がった。だから、戦士は女性と決まった。
「他にも我々は子ども達に色々と質問をした。例えば『変身アイテムとは何か』『変身後の姿はどんなものか』『女の子が変身するものはどんなものをモチーフにするか』ということを訊いたんだ。
「そうすると彼らは『ベルトで変身するんだよ』とか『鎧を着るんだ』『花とかハートとかかなぁ』と答えてくれたし、その上そういう戦士に関する模型も見せてくれた。
「我々は予想以上に、少年達が〈戦士〉に詳しかったことを『子どもが強い者に憧れるのは当たり前。場合によっては大人より詳しいかも』というように判断した。
「だから帰国後、我々は君たちの世界の女性が変身することを前提に、魔導を使って変身ベルトを開発してみたんだけど……残念ながら、我々が正確な情報を得ていなかったことに気がついたのは、その開発の後だったんだ」
☆ ☆ ☆
「開発したベルトは別のものに置き換えるのは困難だし、最初に女性用に設計したので、男性用に作り替えるのにもコストがかかってしまう。なので――桜君。君みたいに、こういう方面に興味がある女性に、変身して戦ってもらいたいというわけだ」
頭を下げて、必死で頼むオウリュウ。
ドラゴン的にはこの姿勢は「土下座」に当たるのだろうか? という様なポーズを取っている。
さっき怒鳴ったときの威厳などは最早、どこにもない。
その様子に、オウリュウの「何故魔法少女が変身ベルトか」ということに関する説明を聞いていたときは「実際のところ、虹やら花やらがモチーフだったり、あるいはそういう言葉が主題歌に登場したりする男の子向けヒーロー作品も相当な数あるんだけど……まあ、子どもだからなぁ」と本筋とはまったく関係のないことを考えていた桜も。
オウリュウの方に意識を向け、少し断りづらいかもと考えるようにはなった。
だがしかし。
この、オウリュウとかいうのが言ったことは全部嘘であり。
本当はどこかの地球外生命体の末端で、少女の精神エネルギーを宇宙延命のために使おうとしているんだったら嫌だし。
あるいは彼と契約して戦士になったら、終わりのない命懸けの戦いに巻き込まれて、戦わなければ生き残れないようにされてしまうかもしれないし。
何か、断る理由を考えなければ。
そう思った桜は。
「でも、あたし。ほら、もう十八歳で『少女』って歳じゃあ……」
という、とてもさっきまで変身ベルトを買ったことで、盛り上がっていた人がするべきとは思えないような、非常に聞き苦しい言い訳をする。
しかし。その普通の人が言うならなら全うだが、彼女には無理のある言い訳も。オウリュウには。
「安心しろ。この国の法律では、まだ少年法の範囲内だ。つまり少女で大丈夫」
あっさり論破されてしまった。
この言い分は、現実世界ではそろそろ通らなくなるのだが、まあ、まだこの桜の住んでいる世界ではそうなのだから仕方がない。
それに世の中には高校を卒業した、例えば大学生の魔法少女が登場する作品もあるから、前例があるという点でも十八歳の魔法少女がいても構わないだろう。
しかし、このオウリュウとかいうヤツ。
こちらの問いに特に考える仕草も見せず、すぐに返答した辺り、こちらが何と言い訳をしてももう答えが用意してあるのかもしれない。
そう思い、桜は沈黙。
下手な事を言うよりは、相手が諦めるまで粘ろうという作戦だ。
対して、オウリュウは。
「せっかく、カッコいいヒーローになれるチャンスだというのに。桜君、君はこれでいいのかい?」
と桜の気を引くようなことをいいながら、亜空間から変身ベルトを取り出す。
それはハートをモチーフにしていたが、かなり角張っていて、メカメカしく、「男の子向け変身ヒーローのベルト」といわれれば、そのまま納得してしまいそうなものだった。
くっ! あれで変身してみたい……
桜の瞳に、そういう願望による輝きが宿ったのをオウリュウは見逃さなかった。
彼が数日間、ストーカー紛いのことをやっていたときには当然、桜が玩具の変身ベルトを見つけ、購入する場面もあったわけで。
その時と同じ目を、今の桜はしている。と、オウリュウは気がついたのだ。
「……そうだ。変身しなくても、とりあえずベルト、巻いてみればいいんじゃないか? 似合うと思うぞ」
「そうだね」
オウリュウにいわれるがまま、変身ベルトを腰に巻く桜。
「さあ、その宝石をバックルの中心に差し込んで、そのまま自分の方に引き寄せると変身だ! かけ声は魔導填身!」
「よぉし」
そう言いながら、桜は言われた通りに行動。具体的には。
まずオウリュウに手渡された緑色の宝石を右手で逆手持ちし、それをバックルの中心にあるポケットに差し込む。
次に、その宝石をポケットごと、左手で叩くようにして身体の方に倒し。
「魔導填身ッ!」
と叫んだのであった。
すると突如、バックルから「Change GUREN―O」という声が響き、それと共に空間の歪みが現われ、桜の身体は亜空間に移動。
そこはいくつもの光輝く魔法陣が回転し。魔法文字の帯が辺りを飛び交っている、通常の世界とは明らかに異質な空間であった。
そして桜の上にも魔法陣が出現。
その魔法陣が桜の頭から脚にかけて移動すると、頭部以外の部分が通り抜けたとき、その部分に鎧が形成されていく。
そして、最後に桜の前の空間にさっきのより小さい魔方陣が展開され、そこからフルフェイスのメットが登場。このメットは桜が自分で被るまでもなく、勝手に桜の頭部にセットされた。
こうして変身が完了すると、桜は――気がついたら自室ではなく、街の中にいた。
(続く)
とりあえず変身したところで、第一章の前半という事で。
後半は怪人との初バトルですが……お楽しみに!!




