昔話
ジャガイモ国の王城。そこに1人の幼い娘が住んでいた。彼女は無双。立派な騎士になるために、この年よりポテトサラダに稽古をつけられていた。
「えいっ!たぁぁあっ!」
無双はポテトサラダに勢いよく切り込んでいった。しかし、その攻撃は簡単に受け止められる。
「無双、お前はそれで私に一太刀浴びせるつもりか!」
ポテトサラダはあっさりと無双を振り払う。その勢いで体制を崩し、しりもちをついてしまった。
「あいったたた」
痛むしりをさすっていると、ポテトサラダがよってきた。無双が見上げると、ギロリと睨まれた。
「ぅぐっ……」
「今日はここまでだ。明日までに素振りを100本しておけ。よいな」
「わ、わかりました」
無双は文句を垂れようと思ったが、そのようなことが言える雰囲気ではなかったため、唇を尖らせ精一杯の反抗心を表情に出した。
ポテトサラダは稽古を後にする際、一本の木の横でとまった。
「おい。そこにいるのがばれてないとでも思ったか、魔術師の小童め」
その言葉で、一瞬木の幹が揺らいだように見えたかと思うと、そこから少年が現れた。
「ふんっ!貴様もまだまだ鍛錬が足りぬわ」
それだけいうと、またポテトサラダは歩き出した。
その背中が建物の影に隠れると、少年は無双に駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫か?」
少年は無双にタオルを手渡した。
「ありがとう、ソルト」
無双はタオルを受けとり、ソルトににっこり笑った。それを見てソルトもつられて笑う。
「それにしても、お前の師匠おっかねぇなぁ。俺のお師様も大概だけど」
ソルトは魔術師見習いである。彼の師匠はこの国きっての魔術師であるチュートの弟子である。チュートは弟子であるソルトに対し、よく自作した怪しく発光する薬品を飲ませたり、独自に編み出した術を実験としてかけていた。そのせいで、体が時々岩塩になったり粒子状の塩になったりしたが、その都度チュートが別の術で元に戻していた。
「私的にはそるとのお師匠のほうが怖いな」
「そうか?」
無双は塩にされたらたまったもんじゃないと身震いをした。
それから五年後。ジャガイモ国にアテナが一柱「光アテナ」が美しい姫・吹雪を産み落とした。その頃には無双も以前より強くなっており、その辺の兵士には苦戦しなくなっていた。そしてソルトも、自らが扱える魔術の幅が広がっていた。二人は前と変わらず仲がよく、時間があうときは馬で広い野を駆け回り、たくさん笑いあった。無双が稽古で怪我をしたときはソルトが薬を作り、治療を施した。
ある日、ポテトサラダに呼び出された無双は、アテナの前に頭を垂れていた。アテナは愛おしそうに眠る吹雪を抱いていた。
「アテナ様、無双を連れてまいりました」
「ありがとうございます、ポテトサラダ。貴女が無双ですね」
「は、はい。その通りです」
「かわいらしい剣士さんですこと」
「あ、ありがとうございます」
顔を赤らめながら礼を言うと、それを見たアテナがクスッと笑う気配を感じた。
「今日は貴女にお願いがあって来ていただきました」
「何なりとお申し付けください。アテナ様のためなら何なりと」
「それは頼もしいですね。お願いというのは、子のこのことなのです」
腕の中で眠る吹雪を愛おしそうに眺める。
「この子は強い光の力を持っています。それはこの子が眠るときに強まるのです。そして、15年以内にこの子は覚醒の時が訪れ、眠りにつきます。その時が一番力が強まります。その寝息を浴びれば、体中の力が漲り、魔力は絶大なものとなるでしょう。そのようなことにならないために、無双。貴女にこの子の警護をお願いしたいのです」
「し、しかし。私のような剣士の端くれが姫様の警護など……」
「ポテトサラダが一番信用できるのは貴女だと私に推薦したのですよ」
「えっ……」
無双は思わずポテトサラダの方を見た。ポテトサラダの表情はいつもどおりのしかめ面だった。
「ですから、自信を持ってくださいな。吹雪のことをお願いしますね」
「わかりました。謹んで拝命いたします」
こうして、無双は吹雪の護衛になった。
それからしばらくの後、ポテトサラダが亡くなった。ポテトサラダは自信が病にかかっていることを誰にも打ち明けていなかった。吹雪の護衛も、初めはポテトサラダが請け負うはずだった。しかし、自分の命が長くないことを悟っていたポテトサラダは、信用の置ける、自分が認めた弟子である無双にその任を任せることをアテナに訴えたのだった。
ポテトサラダが亡くなった後、その称号を無双は受け「ポテトサラダ無双」が誕生した。