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──付録

「一体いつまでお隠しになるおつもりですか。先日『八咫烏とは関係ないの?』とまで聞かれましたよ」

「よいではないか。あれは我の本体がカラスだと思い込んでおる。思い込ませておけ。あれは小さき物を好むようだからな」

「だからと言ってそのお姿もいかがなものかと」

「よいではないか。かわゆいだろう?」

「かわゆいでは済みません。このところ御名までが麻呂に変わりつつあるのですよ」

「よいではないか。あれがそう呼ぶなら我の名など麻呂でよい」

「せめてお姿だけでも元に戻されては」

「そのうちな。この大きさだからこそあれは気を抜いておる」

「カラスの姿で一緒に入浴するのもいかがなものかと」

「よいではないか。麻呂のままでは嫌がられたのだ」

「本来のお姿にお戻りになれば、一目で恋に落ちようものを」

「見てくれだけに惹かれる女など必要ない」

「定めし乙女ですから、お姿だけに惹かれるわけでは無いでしょうよ」

「我は中身で勝負するのじゃ」

「先日『麻呂って変態よね』と呟いていたとの報告が──」

「変態ではない」

「おまけに『内緒だけどね、麻呂ってハゲみたい』とも仰って──」

「ハゲではない」

「今更烏帽子にこだわるのはいかがなものかと。今は平成の世ですよ。普段は外されてはいかがですか」

「今更だからこそ外せないのじゃ」

「ロンパースまで着て、言葉遣いも気を付けて、それでいてどうして烏帽子だけが外せないのでしょうねぇ」

「我にも謎じゃ」

「一応、『外すと風邪をひくそうですよ』と答えておきました」

「お前か! 『麻呂って烏帽子取ると風邪引くって本当? 毛がないと寒いもんね』と妙に悟ったように言われたわ」

「おお、声真似がお上手で」

「誤魔化すでない」

「ですから普段は烏帽子を取れば済む話です」

「……烏帽子を取ると元の姿に戻るのじゃ」

「また中途半端な術を。ですから術の手を抜かぬよう口を酸っぱくして申し上げておりますのに。そもそも元のお姿にお戻りになれば済む話でしょうに」

「恥ずかしいじゃろ?」

「はい?」

「だから、恥ずかしいじゃろ? 素顔を見せるのは」

「どこの乙女ですか。今の麻呂姿より余程凜々しきお姿でありますのに」

「ちょっと怖くないか?」

「まあ、鬼神ですからね。多少は怖がられるかも知れませんが……」

「やはりな。そうだろうと思っておったのじゃ」

「ですが、そなた様はヨダレを垂らさんばかりに素敵だと仰っておりましたよ」

「どういうことじゃ?」

「本来のお姿の姿絵をお見せいたしました」

「いつのまに!」

「割と早い段階で。この御方を祀っております、とお話ししてあります」

「我だと気付いたか?」

「いえ全く」

「……」

「微塵も」

「……」

「ショックで項垂れるくらいなら、最初から本来のお姿をご覧に入れれば良かったものを」

「いつ本当の姿を見せればよいのじゃ」

「存じません」

「冷たいのぉ」

「ではこれにて」

「つれないのぉ」




 ────◇────




「ついにそなた様が『誰かいい人居たら紹介してください』と仰るようになりましたよ」

「そうか」

「落ち込むくらいなら本来のお姿にお戻りください」

「今更じゃないか?」

「どのような御方がお好みですかと伺いましたら、『あの鬼神様のような人がいいです』とお答えになりましたよ」

「誠か!」

「ええ。ですのでこの際、正体を明かすのではなく、新たに鬼神として出会われてはいかがかと」

「欺けと言うか」

「いえ。聞かれない限り言わなければよいのです」

「せこいのぉ」

「どなた様の所為だとお思いか」

「我じゃないもん」

「そなた様が『時々イラッとする』と仰っていた理由が、よもやこうもはっきりと分かるとは」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「そりゃあ、あれだけキャラが違っていたら気付くわけありません」

「そうかの? 腹黒バージョンなんじゃが」

「私ですら己が目も己が耳も疑いましたから。もうネットで要らぬことを検索するのはおやめください」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「そりゃあ、あれだけキャラがぶれてきたら気付く前に引かれますから」

「そうかの? わんこバージョンなんじゃが」

「ですからいい加減ネットで要らぬ事を検索するのはおやめくださいとあれ程……」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「で、今度は何バージョンだったのですか?」

「溜息をつくな。幸せが逃げるぞ。ちょい悪バージョンじゃ」

「ちょい悪はもう古すぎます」

「そうかの」

「ええ。もういっその事本当のことをお話ください。そなた様が最近お姿を目に入れる度に隠れて大笑いしておりますよ」

「なんと。喜んでおるのか?」

「違います……って、聞いていませんね」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「もう諦めたらいかがですか? 既に気付く気付かないの問題ではないと存じますが」

「そなたがな、『鬼神様は烏帽子を被らなくていいんですか?』と聞くのじゃが、被った方がいいかの?」

「……気付いてますね。確実に」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「気付いてないのはどちらでしょうね」

「なんとな?」

「いえ、なにも」

「そなたが『どっちでもいいから統一して』と言うんじゃが、何のことか分かるか?」

「分からない方がどうかしてます」

「何を統一するのじゃ。キャラか? 最近は執事バージョンで頑張っておるんじゃが、どうもイマイチなんじゃ」

「そなた様はあまり構われるのがお好きではないようですから。適度な距離感が大切かと」

「そうか! やはりツンデレというやつが良さそうじゃな」

「キャラはどうでもいいんですよ、もう、今更」

「なんじゃ、最近尾路は苛々しておるのぉ。更年期か?」




 ────◇────




「そなたがまるで気付かぬ」

「左様で」

「ツンデレのツンツンを頑張っておると『鬼神様、更年期?』と言われてしもうたわ」

「左様で」

「我の本来の見た目は若く見えておったと思うのじゃが、違うたかの?」

「麻呂姿の見た目の話じゃないですか?」

「聞いておったか? 本来の姿の時に言われたのじゃ」

「一度そなた様に戯れのように『鬼神と麻呂は同一人物じゃ』とでも仰ってみて下さい」

「なんじゃ、尾路。疲れておるのぉ。そのように溜息交じりに言わずとも良いではないか」

「いいですね。『鬼神と麻呂は同一人物じゃ』ですよ」




 ────◇────




「鬼神と麻呂は同一人物じゃ!」

「えっ? 今更?」

「なんと? そなたは知っておったのか?」

「えっ? 麻呂は知られてないとでも思ってたの? うっかり馬鹿なの? って言いそうになっちゃうじゃない」

「……我は馬鹿なんじゃ」

「時々鬼神様と麻呂を言い間違えたりしてたよ、私」

「そうかの?」

「うん。段々面倒になってきたから統一してって言ったでしょ?」

「そうだったかの」

「うん。で、鬼神様ごっこはもう飽きたの?」

「違ーう! 本来の姿があっちじゃ!」

「そうなの? もうどっちでもいいよ」

「どっちがいいかの?」

「そりゃ、ちびいおっちゃんより凜々しい鬼神様に決まってるでしょ」

「凜々しいかの」

「凜々しいよ。雄々しいの方が合ってるかも知れないけど」

「雄々しいかの」

「雄々しいよ。雄々しいのに綺麗だから不思議な感じがするけど」

「綺麗かの」

「……ちびいおっちゃんの方でいいよ。なんかウザい」






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