02
前回の最後
パンを食べ終わったアルがトーレスに問いかけたところから始まります。
「ねえ、トーレス。えっと・・・その・・・・おじさんが亡くなって寂しくない?」
そうアルに問いかけられた俺は、視線を飲んでいたホットミルクの入ったカップからアルに移し答えた。
「いや、そんなに寂しくないよ。まだ実感がわかないのかもね」
実感がわかないのは本当だ。
でも正直寂しくないわけない。
葬式の時は泣かないように気丈に振舞っていたが、だれもいなくなった時に小さい子供のように人知れずわんわん泣いた。
赤ん坊の頃、馬車での移動中にモンスターの襲撃を受けて両親を亡くした俺を引き取って育ててくれた恩人で、俺を産んでくれた両親には悪いが本当の親のように思っていた人だ。
たくさんケンカもしたし、これから生きていくためには必要だからと訓練をつけてもらっていたが、その訓練は想像以上に厳しく気絶した回数や怪我をした回数など覚えてられないほどした。
初めての狩りでウサギを狩れた時、じいちゃんは俺の息子は天才だ!とはしゃいでいたし俺が熱を出して寝込んだ時は一睡もしないでよくなるまでつきっきりで看病してくれたものだ。
時には子供ぽかったが、俺にとってはどれだけ感謝してもしきれない人だった。
だから正直に寂しいと、辛いと言ってしまいたかった。
しかし俺はそう言えなかった。
そんな俺の答えを聞いてアルは、「そっか・・・」とつぶやいて俺に向けていた視線を下に逸らした。
視線を逸らしたアルは
「やっぱり私じゃダメなのかな・・・・。私じゃトーレスの力になれないのかな・・・」
とつぶやいた。
しかしそのつぶやきは残念ながら俺には聞こえなかった。
しかし下を向いたアルの顔は、悲しそうで泣くのを我慢しているようだった。
そんな顔を見た俺は、何も言えずにしばらく二人の間には沈黙が舞い降り、暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音だけが部屋に響いた。
そして二人の間に少し重苦しい空気が流れる。
そんな空気と沈黙に耐え兼ねた俺は、アルに声をかけることにした。
しかし、アルもこの空気耐えかねたのか伏せていた顔をあげて声を発した。
「「そういえば」」
お互い発した言葉は同じタイミングで、思わず先ほどの空気も忘れて二人して笑った。
「あはは、それでどうした?アルから言っていいぞ」
俺はそう言ったがアルも
「いやいや、トーレスから言いなよ」
と言ってお互いにしばらく譲り合ってしまったが、先にアルの方が折れて話はじめた。
「トーレスはこのままずっとこの村にいるよね?」
そう言ったアルの顔は先程までまで楽しそうに笑っていたのが嘘のように怒られている子供のようでいて、どこか縋るような眼差しをしていた。
アルは俺が冒険をしたいと思う気持ちに気がついていたのかもしれない。
俺自身も先程まで気がつかなかった冒険をしたいという想いを。
いや、本当は冒険をしたいと思う気持ちに気がついていた。
気がついていたのにきっと気がつかない振りをして、自分自身を騙してこのまま村にいるとアルにもじいちゃんにも言っていたんだ。
アルに今更本当の事を言ったらどう思うだろう。
アルは優しいやつだし今が壊れ、このまま離ればなれになるかもと思い悲しむかもしれない。
質問してきた今ですら縋るような目をしているしな。
それでも・・・いや、それだからこそ今ここでアルに嘘をついてはいけないと思い俺はアルと目を合わせ真剣な表情をして口を開いた。
「今すぐじゃないけど春になったら俺はこの村に出るつもりだ。そして冒険者になって世界を旅しようと思う」
「えへへ、そっか・・・・トーレスはやっぱり村を出て行っちゃうんだね・・・。でもトーレスなら立派な冒険者になれるよ」
俺の答えを聞いたアルは、そう言ってその大きな目から涙をこぼしながら笑った。
しかし自分自身で涙をながしていることに気がついていないのかもしれない。
俺が驚きながらそのことを言うとアルは、「えっ」と言いながら自分の顔にふれた。
「えっ?あれ?おかしいな・・・私は・・本当にトーレスなら・・・だから泣いちゃダメなのに・・・笑ってなくちゃいけないのに」
そう言ってアルは自分の手で涙をぬぐいはじめた。
しかしいくら涙を拭っても溢れ出した涙は止まるどころか奥から奥から溢れ出した。
正直俺はアルがここまでの反応をしめすと思ってなくてかなり驚いた。
旅に出ると言っても、離ればなれになることに哀しみながらも結局は笑顔で「頑張ってね」っと言ってくれると思っていたからだ。
しかし蓋を開けてみたらアルは泣いてしまった。
少しの間ほうけていた俺だが、とりあえず泣いているアルを慰めようと思い、アルに手を伸ばしながら立ち上がろうとした。
しかしアルはビクッっと1度体を震し、伸ばした俺の手から逃げるように離れると立ち上がりもう一度涙を拭い「ごめんね」と言いながら玄関の方に逃げるように走り出した。
そんなアルを見て俺は、伸ばした手をそのままに走り去った玄関の方を見ていることしかできなかった。
そしてバタンと扉が閉まる音が部屋に響きアルがこの家から出て行った事を告げた。
その音に我に返り急いで追いかけようと思ったが出来なかった。
自分でも先ほどのアルの反応にショックを受けていたのかもしれない。
俺は、「はぁ」と1つため息を吐くと伸ばしていた手を戻し、立ち上がろうとしていた体制から座り直すことにした。
すると目の前には、アルがお昼ご飯にとパンなどを入れてきたバスケットがそのまま置きっぱなしなっていることに気がついた。
「このままじゃいけないし、明日バスケットを返すついでにアルともう1度ちゃんと話すか」
俺はそう言って明日は村に行くかと予定をたて窓越しに日が暮れ始めた外を見つめた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマークなどは作者のエネルギーになりますのでお気軽にしていただけと幸いです^^
ではまた次回に(。・д・。)ノシ"