六話 竜になっても代わらずネットサーフ
見事に知識サポートさんの繋がりを確立してから、もう二年が経過しようとしている。
というかもう二年も経過していた。
いやね、魔力量が増加してから知れる情報の幅が増える事を知ってから。
日中は魔力量の増加を試みつつ、知識サポートさんに接続して、この世界の事を調べて、体が疲れたら眠る。
そんな事を繰り返して、大体の知識にアクセス出来る様に成る頃には、あっという間に一年が経過。
二年目に突入すると、知識サポートさんから魔力で体の強化法が提言されて、それをしながらの知識巡り。
前世で言う所の、ネットサーフィンをし続けていたら、気が付いたら二年目も過ぎていたのだ。
いや本当に日が経つのは早い。
一日の俺の行動はダラダラの極みだというのに、あっという間に日にちが経過しているのだから恐ろしい。
なに、十分に寝てから起きると、まず知識サポートさん経由で、異世界知識ネットワーク――略して異知ネットにアクセス。
どんな事を調べようかなと考えている間に、火山のマグマの根元から魔素供給を開始して、魔力炉を八割で稼動。
全身の骨格筋肉内臓に魔力が染み渡った所で、強化成長魔法を使用する。
これは掛けている部分の成長を、より強靭に無敵に最強にするための魔法ながら、成長期の生物にしか効果の無い魔法。
生まれて三年目の竜である俺には、かなり有用な魔法だ。無論、知識サポートさんからの提言で掛け始めた。
さらに体に負荷を掛けるとより成長度合いが良くなるとの事なので、全力の弱体化魔法を自分に掛ける。これも知識サポートさんの提言だ。
そこでようやく残った余剰魔力を使用して、異知ネットで知識検索を掛けて知識を得るのだ。
この知識検索も、接続した当初は魔力量に限りがあったので、この世界の代表言語を知識サポートさんの教えを受けながら学ぶ事しか出来なかった。
次に学んだのは竜の事。まあ親が放任主義である事と、どこかに竜の園がある事ぐらいしか覚えていない。というかそれ以外に覚える事が無いくらい、テンプレな感じだったのだ。
そして時間が経つに従って魔力が増加し、ファンタジー特有技能である魔法が検索出来る様になった。
竜というのはたいしたもので、片手間で下級から上級まで知識として入れ、知識サポートさんとの実験と実地で学んだ。
その後は竜の魔法を学ぶ。此方も多少は梃子摺りながらも、知識サポートさんの手伝いもあって修了。
次は戦い方かと思いきや、知識サポートさんから、成長しきるまでもう十分との判定が。
なので今は、適当に知識検索をして、適当な知識を入れる事にしている。
つまり前世風に言うと、温泉に一日中浸かりながらネットをするという、見事な上級ニートとして生活しているわけなのだ。
それはまあいいとして。
最近のお気に入りは、個人的に《第一王子さま危機一髪》と呼んでいるもの。
これはこの世界にある七つの大陸の内、争いの耐えない大陸である《ワルナータ大陸》にある、とある強国の王子様の知識だ。
いやこれが波乱万丈で泣かせるのよ。
生まれて直ぐに、父親の妾に首を絞められて殺されそうになったり。
お披露目の誕生会で、紛れ込んだ反乱組織の魔法使いに自爆特攻かけられたり。
許嫁に指定された少女は、家柄だけのボンレスハムで、しかもその親が他国に繋がっていたり。
その少女をとある場所で身を挺して守ったら、ガチ惚れされてしまい。結果その少女が親の悪行を暴露し、少女も含め一族皆処刑されたり。
他にも色々と細かい所で死に掛かったり、危うい状況に追い込まれたり、ちょっとしたラブロマンスがあったり。
しかしそんな境遇にも拘らず、王子様は心も清らかに成長を続けるという、マジに主人公で勇者かつ救世主様なお方。
これは嘘や偽りの無い知識を呼び出したものなので、似非はありえないとは付け加えておく。
そんな王子様に関連する人たちの知識もあわせて読むと、裏の繋がりや思惑や勘違いなどが分かって更に理解を深める結果に。
ああこれは危ないなーと予測出来たり、ああそこに行っては駄目だよと心配したり、これからどう逆転するのかと手に汗を握ったりしていたら、はまってしまったのだ。
前世ではWeb漫画やネット小説にもなれ親しんだ俺だ、日刊で更新されるノンフィクションノベルにはまらない筈が無かった。
前読んだ辺りでは、その第一王子様と妾下に生まれた男の子――弟王子が、次期国王の座を掛けての学園祭剣闘魔砲トーナメントが始まるところだった。
関係者の知識も読む関係上、トーナメントが終わった頃に一気読みをしようと待っていたので、期待感が高まっていた。
さて読むかと、魔力を代価に知識を得る。
ふむふむ、王子様は順調に勝ち進んでいるな。
対戦相手の知識も見て、両者がどんな思惑で攻撃しているのかも合わせて読む。
――どうやら対戦相手は毒を塗った含み針を使用したようですね。王子には効かなかったようですが。
そうだろうな。王子様、幼い頃から毒殺されかかって、耐性着いてるし。
――毒殺狙いではなく、身体能力妨害を目的とした弱毒性ですからね。
こんな風にチサちゃんと意見を交換しながら、このお話を読んでいる事も多い。
いやチサちゃんって誰だよって思うだろうが、これは知識サポートさんだ。
三年――一年は消極的に、二年は積極的に意思疎通を行った相手に、知識サポートさんでは余りにも他人行儀なので、略して『チサちゃん』と呼んでいるのだ。
本人(?)も『是:了承』との事なので、チサちゃん呼びをしている。
関係ないどうでも良いことだけど、漢字に直すなら智沙が字面で良いかなと、個人的には思っていたりする。
――あ、弟王子が負けましたね。
盛大に悔しがってるね。
イケメンで成績優秀で非の打ち所のない偉大な兄に対する、巨大なコンプレックスもあったから良い所まで行くと思ってたのに。
格下相手と油断して足元をすくわれたのかな。
――対戦相手、弟王子の母親に雇われた暗殺者ですよ。
うぇ!? ああ、なるほど。
弟王子くんが大怪我をする前に止めるためと、あわよくば第一王子を殺すためにか。
――いま、王子の必殺『にこぽイケメンビーム』が炸裂しましたよ。弟王子に。
はい、落ちたー。敗者に優しい言葉を掛けて落としたー。
そしてテンプレなまでなツンデレですね、弟くんは。
第一王子様と後日に模擬戦の約束を取り付けて、表面ムッツリ、内心ウキウキしている辺り、見事なまでのツンデレっぷり。
――このまま順当に試合が進むと思いきや、敵国の工作員が会場に乱入しましたよ。
おお。コレも王道な展開。大会の好敵手が味方になるフラグ的な。
――しかし、腕自慢の猛者が集まる大会だというのに。その時を狙うとは、敵国の工作員は馬鹿なんでしょうか?
ふむ。工作員の記憶を閲覧してみようか。
なるほどなるほど。あわよくば、大会の出場者も殺してしまって、総体的な兵力の低下を狙ったわけね。
模擬剣しか持ってないから、第一王子様だけ狙っておけば、成功確率も上がっただろうに。
――そういうのは様式美というやつです。あ、あの暗殺者と共闘してますね。弟王子が実剣持って助勢に加わったからでしょうか。
第一王子様は流石だね。なんたって、この暗殺者が弟王子くんの母親と通じているって、一目見ただけで分かっているんだからねぇ。
流石に幼い頃から暗殺者を見続けただけはあるよ。
あ、読み飛ばしたかと思ったほど、あっけなく襲撃が終わってしまったよこれ。
――結果的に会場にいた国民からの支持が鰻登りで、弟王子の母親はぐぬぬってハンカチを噛んでますね。
暗殺者も「月の無い夜には、背後に気を付けろ」って律儀に忠告するし。
というか、これはもう仲間になるフラグが立ってるよね。
ふぅ、といった感じで読み進めて、取り敢えずは第一王子様の話しは満足した。
じゃあ次は何を――だれの記憶を読もうかな。