五話 目標達成?
火山のマグマの根元から魔素を集めるようにして、早七日。
供給される魔素の量が多くなったからか、魔力炉の駆動強化も順調に進み、生み出せる魔力も上がった。
その量は、俺が生まれた当初の三倍である。
目標量に直ぐに到達出来た事に、根源まで糸を伸ばさなくてもいけるじゃんかと、知識サポートさんに文句を心の中で言って見た一面もあった。
しかしこれで知識サポートに接続出来ると意気込んで、脳の中にある接続部分から魔力の糸を伸ばしてみた。
順調にするすると伸び進み、きっちりと繋がりも浮かんでくる。
しかし最低でも三倍の量という知識サポートの言葉に嘘は無かったのか、ほぼ全ての魔力を使ったのに知識サポートに接続し切れていない。
むむむ、これでも足りないかと、体を巡らせている部分も使う。
しかし未だ足りないようだ。
まだ魔力量が足りないかと落ち込む。
しかし何処か心の中で、もうちょっとで繋がるのでは、と考えてしまう。
…………
知識サポートさんからは何の音沙汰も無いので、あっているかいないかは分からない。
しかしなんとなく。そう本当になんとなく、もう一押しで知識サポートに接続出来ると思うのだ。
なので、あんまりやりたくは無いが、本当にやりたくは無いのだが、魔力炉を頑張ってもっと限界ギリギリまで活動させようと決意する。
先ずは知識サポートへの接続は少し止める。
次に、魔力の糸を火山のマグマの根元の更に先にまで糸を伸ばし、その糸から体の中に魔素を供給していく。
これは最初、魔力の糸で桶というか籠みたいなものを作って体に運んでいた。
だが非効率的だと思って、試行錯誤した結果である。
これを使うイメージとしてはあれだ。ティッシュなどに水を浸すと、勝手に吸いあがるあの性質。
たしか藁効果とか、そんな感じの名前だったはず。
魔力の糸っていう、糸なら同じ現象が起きても可笑しくないと、勝手に思い込んだらそう出来てしまったのだ。
まあそれは良いとして。
便利なこれを俺がしたがらない問題点が、二つある。
第一に、供給される量が多すぎて魔力炉が過活動気味になり、重い胃もたれのような気分を味わう事。
もう一個が、火山の根元のその先から魔素を無理矢理吸うので、ほんの短時間しか活動を継続できない事。
なので仮に無理矢理知識サポートさんに接続できても、ごく僅かの時間しか利用できない。
しかし繋がりさえすれば、恐らく繋がりの確立は済んでしまうのではないかと俺は考えている。
だって、常時繋がっていないと、知識サポートさんとの接続が切れて使えなくなってしまうのでは、竜とはいえ生後直ぐ生命体の達成条件にしては、余りにも無理難題だろうし。
まあそんなこんなをつらつらと考えていると、伸ばした魔力糸から魔素が次々に供給され、魔力炉が唸りを上げる程に活動し始める。
いや唸るというか、胃を締め付けるというか、ずっしり重くなるというか、気分が悪くなってきた。
このままでは、何も食べていないというのに胃からリバースしそうだ。
なのでさっさと魔力を知識サポートさんへと接続する。
するすると伸びていき、そして伸び止まったところで、体に回っている魔力の方も押し込むように注入する。
魔力炉の活動が活発だからか、押さえ込む端からちょろちょろと体に流れてしまうが、力技で如何にかする。
しかしそんな魔力操作能力の拙さが災いしたのか、知識サポートさんに繋がりきれていない。
もう一歩、ほんの指先一つ分ほどに足りないと感じるが、俺としてはこれでもう一杯一杯なのだ。
頭は二日酔いしたように痛むし、胃は大量の油ものを食べてからボディを食らったかのように気持ち悪いし、供給される魔素が多すぎて体に痛みが発生しかけてるし。
知識サポートさんが何ぼのもんなのか。
もうやだ、こんな思いをするぐらいなら、知識サポートさんとの接続は二度としたくない。
なので、もうちょっと火山のマグマに伸ばしている糸をもっと奥へと伸ばし、もう少し魔素の供給量を上げてみる。
「UGYUAAAAAOEEEEE!」
途端に、何処かの魔素の湧き口にでも触ったのか、いままでの供給量の倍量が体に流れ込んできた。
胃が裏にある魔力炉の活動に圧迫され、炉から吹き上がった魔力が胃に直撃する。
余りの気分の悪さに、俺は口を大きく開いて喘ぎながら胃の内容物を吐こうとする。
しかし吐く物など無いので、呻き声を上げながら溶岩風呂の中で体を捩る事しか出来ない。
このままでは気持ち悪さに殺されると確信し、大慌てで頭の中心点に向かって魔力を叩き込む。
すると今度は、二日酔いの頭の痛さを極限にしたような、頭の中から五寸釘が生えたのではと思うような痛みが頭に。
「GYUEEEEEEOOOOO!?」
大海原から船へと上げられた大型回遊魚のように、ビッタンビッタンとのた打ち回る。
そこで余りの無鉄砲さに俺の竜の体が愛想を尽かしたかのように、急に魔素の供給と魔力炉の動きが停止する。
途端に胃の重さや頭の痛さが消え、一気に気分が良くなる。
しかし残滓の様に、胃の重さや頭の痛さが少し体に残ってしまったようだった。
もうこんな無茶は二度としないと心の中で硬く決意する。
なにせ俺はニートなのだ。
こんな拷問に似た痛みになど、耐えられるようなものではない。
はっきり言って心が折れた。
人には向き不向きがある。
俺はドMの気持ちなど分からぬオタクだ。
大抵の萌え属性持ちだった前世ですら、SM関係は理解不能だった。
なのでこんな痛みに耐えろなど無理がある。
俺は竜にはなったが、心は人間のままなのだから。
これからは、こんな博打をする事なく、安心の安全圏内での魔力増強に努めますとも、ええ。
何はともあれ、接続出来たのかな。出来ていたらいいなぁ。
――答:接続完了。以後、貴方の疑問質問は全て回答可能になります。
お、何時に無く知識サポートさんからのレスポンスが早い。
何時もは真剣に考えるぐらいしないといけなかったのに、ちょっと疑問に思った程度で反応が返ってくるとは。
しかも今は魔力を接続部に流していない状態なのだ。
つまり一度繋がりさえすれば、魔力は必要ないのかな。
――答:より深く物事を知る場合、代償に魔力を捧げてもらいます。
という事はつまり、魔力量の増加はこれからもずーっとした方がいいって事かな。
――答:世界には竜に敵対する者も数多く、魔力量は多いに越した事はありません。
……という事は大人しくしていた方がいいな。
竜だからと調子に乗ると、そういう怖い人がやって来るってことだろうし。
なに、前世もニートだったんだ。大人しく隠れ住む事に関しちゃ玄人だからな俺は。
知識サポートさんという、素晴らしい検索サイトも手に入ったし、暇を潰すのに困る事は無い!
……言ってて少し悲しくなってきた。
――提:疑問質問への検索結果表示だけではなく、この状態ではこの世全ての知識を見る事が可能です。
おや、何か知識サポートさんから始めての行動が。
提言だろうか。 この世全ての知識を知れるだなんて。
でも、お高いんでしょ?
――答:簡単に知りえる情報は安く、滅多な事で知り得ない事は高いです。その人しか知らない事になると、物凄いお値段です。
まさか知識サポートさんから、冗談の返しが来るなんて、思っても見なかった。
しかし何はともあれ、知識サポートさんとの繋がりは確立されたので、今日はもう頑張るの止め。
大人しくサラサラの溶岩に体を浸して、縁に顎乗っけて一日中だらだらしよう。
明日も体調確認の為にだらだらする。
魔力量増加の為に頑張るのは、明後日から、はい決まりー!
――疑:貴方は駄目な生命体?
その通り。
何たって、俺は筋金入りのニートだからな!