四話 取り合えず一ヶ月
サラサラに流れる溶岩温泉に浸かりながら、魔力の増加を試行錯誤し、知識ネットの接続に魔力を供給する事を続けて三十日。
前の世界と同じ暦ならば、一ヶ月が経過した。
竜の体は魔素さえあれば飲食物がいらない様で、溶岩温泉に浸かり続ければ空腹も渇きも感じなかった。
しかし前世では三日坊主が当たり前だった俺が、どうにかこうにか休みつつも、どうにか一ヶ月も続けて来れた事に自分に拍手を送ってしまう。
まあ、トカゲの手で拍手したところで、綺麗な音が出るわけは無いんですけどね。
それで接続の方はどうなったかと言うと、まだ魔力量が足りません。
意識して火山の溶岩から魔素を収集してみたり、胃の裏にある魔力溜り――《魔力炉》と呼ぶ事にした部分を常時フル稼働させてみたり、外へと流れ出る魔力を押し留めながらも体に魔力を限界一杯に供給したりと。
まあ色々とやっては見たのです。
その甲斐もあって順調に魔力量は当初の二倍程度には伸びました。
しかし俺自身の事ながら、誇れる結果とは言い難いのですよコレ。
……いやね。体感的な伸び率から、ちょっと大雑把計算してみると。
真面目に脇道逸れずに一ヶ月こつこつやれば、当初の三倍の量は余裕に達成できるはず、だったんですけどね。
魔素を収集するのを多くすると、魔素を取った溶岩が固まり周囲に集まって、段々と収集し辛くなる事に気が付いた事に始まり。
魔力炉を長時間フル稼働すると、猛烈な胃もたれを起こしたような不快感が発生したし。
体に限界一杯に魔力を供給すると、前世の高校時代に味わった成長痛の様な物が全身に発生するし。
脳に魔力を集め続けると、二日酔いになったかのように世界が回りだすし。
前世がニートだった俺が、そんな体調不良に似た状態になる事を、休み無く行えるはずが無く。
最初の三日間は我慢して続け。
次の四日間は適宜に休憩を入れながらも、一日中頑張ってみた。
しかし三日適宜休憩を入れて頑張り、一日休みを入れだして。
それが二日頑張って一日休み、一日頑張って一日休みにとなっていった。
これではいけないと一念発起しても、また同じ轍を踏んでしまう。
そんな感じに生まれて一ヶ月を過ごした。
この悪い意味での行動力は、前世がニートであった証拠だと言えばそれまでだが。
折角生まれ変わって未だ一ヶ月だというのに、ニート街道まっしぐらな状況。
我が事ながら、俺ってやっぱり駄目人間――いや生まれ変わったから、駄目竜なのだと落ち込む事頻りなのだった。
なので、休日にしてしまった今日は、どうにか裏技的な方法で魔力量を劇的に上げる方法は無いかと考え中なのだ。
しかしながら知識サポートさんからの返答は無し。
一ヶ月経過したから、時間経過で繋がりが切れたのかなと、魔力を通してみるとまだ反応はある。
なので俺の質問の仕方というか、どういう風に考えるかが間違っているのだと、一日頭を捻っているのだ。
魔力量を劇的に上げる方法はと考える。
…………
魔力炉の増強法はと考える。
…………
知識サポートに接続する別の方法はと考える。
…………
うーんと、じゃあ魔素をもっと効率よく集める方法はと考える。
――魔素を生み出すこの世界の根幹部分から、直接集める。
お、今日初めて返答が来た。
じゃあ、その根幹部分から集める方法はと考える。
…………
まただんまりですか、そうですか。
でもそうなるって事は、俺が考えられる方法って事なんだよなぁ。
それじゃあイメージしてみよう。
魔素があるという根幹部分。それとそこから集めると言う情報。
関連付けて思い浮かんだのは、湧き水がある井戸から桶で水を汲む光景。
つまり、ロープに結ばれた桶を井戸の底に落とし。桶に水を溜める。
そしてロープを引っ張り、桶の水を回収するということ。
それを感覚的に応用すると。
魔力の糸を伸ばして、マグマの下の下辺りを探り。魔素の湧き出し口を探し出す。
その魔素を糸を変化させた器でくみ上げ、体に吸収するといった感じだろう。
まあそんな風に考えては見たものの、あっさりとそんな事が出来るわけも無い。
取り合えず、魔素を魔力の糸で集められるかを調べる為に、先ずはこのブンボルガー火山から湧き出すマグマの魔素を、根元から汲み出す事を始めようか。