表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

二話 それで先ずは何をすれば?

 自分のおかれた状況が理解できず、暫くの間呆然としていた。

 しかし火口から吹き付ける熱い風と、ボコボコと湧き上がるマグマの音に、鼻を刺す硫黄の匂いが、これは現実であると訴えてくる。

 まさか一時期流行った、異世界転生と言うものだろうか?

 いやそもそも何で竜?

 それよりなにより先ずは親は?

 と混乱しつつ周りを見ても、俺以外の生物が居る様子は無かった。

 更には優しい転生神のチュートリアルは無く、呼び出した神官が居るでもないし、あがめてくれる信者が居る様子もない。

 生まれて即孤児となったらしい。

 色々と状況が浮かび上がるが、何をどうしたら良いのかわからず。

 如何してか思い浮かんだのは、お腹が空いているという、生まれ出て直ぐの生物なら抱いて然るべきものだった。


――卵の殻を食べれば良い。


 ふとそう思い浮かんだ事に、混乱から抜け出しきれて居ない事もあってか、素直に従う事にした。

 俺が抜け出た卵の殻は、上部の半分程に大きく穴が空いているものの、直ぐ近くに直立した状態で置かれてあった。

 丁寧な事に、卵の下の部分には小さな石が置かれ、卵が直立するのを補助している。

 変に几帳面な様子を見て、俺の今生の両親――つまりは親竜たちの性格を感じられた。

 まあそんな事はどうでも良いかと、地面に落ちている欠片は一先ずスルーし、手を卵の穴にかけて殻を手折る。


 ぺきん


 と枯れ枝を折った様な軽い音が出た後で、呆気無いほど簡単に卵の殻が取れた。

 手にしてしげしげと見てみると、鶏の卵みたいに真っ白ながら、厚さは平均的なダンボール程もあった。

 それを食べようとして、自分の口に牙があるのかどうかと、当然な疑問を抱いた。

 殻を持っていない方の手で、開けた口の中を撫でてみると、ノコギリの刃の様に小さな尖った歯が何本も生えているのが指に感じられた。

 うっかりと指で歯を撫でてしまったが、指の鱗が守ったのか、怪我をしている様子は無い。

 まあ竜だしなと、納得しつつ卵の殻を口に入れる。

 厚さの割りにというか、もしかしたら俺の顎の力が強いからか、煎餅を食べるぐらいの気安さで、卵の殻をボリボリと食べていく。

 味は全くしない。

 寧ろ無味という味なのかもしれないと、感想を抱くほどに全くしない。

 ベビーフード的な物は味が薄いというしと、減ったお腹も手伝って、卵の殻を次々に食べていく。

 満足するほど食べ進めると、自分の身体大はあった卵の殻は、頭に帽子として乗せられるほどしか残っていなかった。

 正直食べ過ぎたと後悔した。

 だが一食でこれだけ食べなきゃ満足しなかったという事実を考えると、どうせ節約しても二食分にしかならなかったと、自己弁論で正当化を試みる。

 しかし今後、食料を調達しないといけないとなると、どうしたら良いのかと悩んでしまう。

 なにせこちとら前世は発達した文明に住んでいた、非生産系ニート族だったのだ。

 狩りの仕方や、農耕の知識、そもそもトカゲが何を食べるのかさえ知らない。

 このままでは飢え死にするしかないなと、何処か達観していると、何処と無くまた考えが浮かぶ。


――火山の火口に浸かり、魔素を得れば飢え死には無い。


 ほう、それは便利な事が考え浮かんだと、いそいそと火口へと向かって歩いていく。

 火口から流れるマグマは、家庭のカレーの様なドロドロではなく、インド系かスープ系を思わすサラサラだった。

 これに入らなければいけないのかと、恐る恐る手を差し入れてみると、手に広がる温かさはなんとやや熱めのお風呂の温度。

 いやいや、マグマがお風呂の温度のわけは無いと、傍らにあった石を入れてみる。

 あっという間にその石は溶けてしまう。

 つまり、熱めのお風呂のように感じるのは、俺が赤竜として生まれ変わったからに他ならないと結論した。

 そんな事を知ってもしょうがないな、と自己完結して、マグマの中に入る。


「AAAAOHHHh~~~……」


 思わず出てしまった俺の声だったが、竜の口を通すと獣の唸り声のようにしか聞こえなかった。

 さてマグマに入った事だし、魔素を得なければならないなと考えてみた。

 するとまたご都合主義的な考えが……




 今度は浮かばなかったようだ。

 では如何したものかと思っていると、体がお風呂で温まるのとはまた別な、細胞と細胞の隙間に温かくも冷たい何かが入ってくるような感覚が。

 もしかしてこれが魔素を得るという事なのかなと、その感覚の行く末を感じ続ける。

 手先足先羽根先と皮膚から入ってくるその感覚は、段々と体の奥の方へと進んでくる。

 気道や肺になどの呼吸系、胃や腸などの消化器系などの区別無く、全ての内臓にゆっくりとその感覚は染みていく。

 やがて胃の裏辺りに、その感覚が集まり始める。

 そこで停滞するように一定量集まると、今度はパン生地を練りこむかのようにグルグルと回り始める。

 そのままどうなるのかに意識を集中していると、グルグルと回るところから細い糸のようなものが近くの背骨へと接続した。

 そしてそれは背骨を通り、尾の先から頭の先までの骨を通り始める。

 柔らかい羽根で骨のある場所の皮膚を触れているかのような感触が走り、思わず体をくねらせてしまう。

 最終的に全ての骨、全ての臓器、全ての感覚器に、その細い糸みたいなものが辿り着く。

 すると、体が一気に活性化したかのように、体の内側からカッと温かくなった。

 やがてそれは、体の表面――つまりは鱗の一つ一つにまで辿り着き、そこから外へと流れ出ていく。

 何が起こったのかと、マグマの中から手を外に出してみると。

 冷えて固まりかけるマグマの隙間から、水蒸気とは違う青白い湯気のようなものが立ち上っていた。

 これは何なのだろうかと考えていると。


――吸収した魔素を変換した魔力である。


 と考えが浮かんだ。

 なるほどコレが魔力かと納得すると同時に、何故知らない事がそうであるかのように考えが浮かぶのだろうと、疑問が浮かんだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ