一話 生まれ変わったのか?
ぱちりと目が覚めた。
死ぬかと思った胸の痛みと、息が出来ない苦しさは無い。
そうあたかも夢であったかのように。
夢だったのか現実だったのか、判断するのは後回しにして、縮こまった体を伸ばそうとする。
ゴンッ
痛ッ――!?
何だと思って頭の後ろに手を回そうとすると、その手が壁のようなものに当たった。
どういう状況だと、後頭部に感じた痛みで覚醒したので、改めて左右を見回す。
するとそこには、薄暗い――赤い光が薄く透過しているから薄明るいが正解か?――まあそんな感じの壁で周囲を囲われていたのだ。
ぺたぺたと感触を確かめる様に壁に手を這わせると、滑らかな漆喰壁の様な感触。
扉も何も無いSF映画にあるカプセルに入れられた様な状態に、如何しようかと考え込んでしまう。
――全力で叩けば壊せる。
するとそんな考えが浮かぶ。
いやいやまさかと、考えを否定していると、頭にパラリと何かが落ちてきた感触が。
首を後ろに巡らすには空間が無いので、何が起きたのかは厳密には分からなかった。
しかしその何かが落ちた場所から、温かい空気が流れ込んでくるのは感じられた。
仮にその空気がこのカプセルの外からやってきたものだとすると、先ほど頭を不意に打ち付けた部分からだろうと予測が立てられる。
まさかと否定しつつも、もう一度確かめるぐらいはしても良いと、思いっきり後頭部を壁に打ち付ける。
ゴンッ! ゴン
眼から星や火花が飛び散りそうな衝撃を感じて、思わず蹲りかけて目の前の壁にヘッドバットを繰り出してしまった。
頭の前後から痛みが走る中、頭の後ろに感じる空気の暖かさが増した事と、目の前の壁が壊れた事が見て取れた。
このまま続ければ脱出出来ると、恐らく大きく空いているであろう後頭部側ではなく、視認出来る目の前の壁に頭を打ち付ける。
ゴンッ!ゴン!ゴッゴ!
一つ打ち付けるたびにボロボロと崩れる壁に、思わず頭を振る速度が速くなる。
やがて穴は、眼の大きさ程から手が入れられる程になり、頭が通過出来るまでに広がる。
しかし肩幅は頭よりも大きいので、より大きく穴が開くようにと頭を振るい続ける。
やがて目の前の壁の上半分程を頭突きで崩してから、その穴から這い出ようと試みる。
頭はすんなりと通り抜け、肩もあっけなく通った。
しかし背中のどこかが引っ掛かったのか、そこで止まってしまった。
服のどこかが引っ掛かっているのならと、眼を瞑って思いっきり前に体重を掛ける。
すると引っ掛かっていたのが外れたのか、抜け出た勢いで地面の上をころりと前転してしまった。
慌てて誰かが居ないかと周りを見回したが、その景色を見た途端、ここに誰かが居るわけは無いと納得してしまう。
なにせ目の前にマグマの火口があるのだから。
そこでなんで俺は、こんな所に居たのだろうと、ふと疑問に思ってしまう。
それよりも、なんで火口付近だと言うのに、平然としていられるのだろうと首を捻る。
――人ではないから当たり前。
そう何故か考えが浮かび、何を言っているのかと否定しかけて、自分の手が眼に入った。
恐らく夜なのだろう、日の光は無い。
だが火口から流れるマグマの光りによって照らされる、俺の腕。
そこには赤い鱗が生えていた。
いやそれよりなにより、手の平から生えている四本の指と、手首にもう一本という、変則五本指。
そもそも人間の指ではない、寧ろトカゲのような爬虫類に似た見た目。
恐る恐る視線を自分の体に向けてみると、明らかに羽の生えた爬虫類。
――赤竜の子供。
そう考えが浮かび、思わず納得すると共に、何でこんな事になってしまっているのかと頭を抱えたくなった。