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十一話 竜に相談って、それってどうなの?

 麓の村と、貢物に見せかけた罠という交流をしてから数日後。

 そんな風にモノローグを頭の中で入れると、やっぱり何かが起きるらしい。

 

 今日は日も昇らない時から、洞窟内に入る人の気配を感じた。

 誰だろうかと、昨日夜遅くまで偏屈鍛冶オヤジの記憶を物語として読み進めていたため、未だに眠く動きが鈍い頭で考える。

 

――どうやら先日にやってきた、あの着飾った少女の様です。

 確か、ミバリィとか言う、見た目から悟れない酒豪と大食漢の持ち主だったな。

 それが一体どんな用で、一人ぼっちでここに来ようとしているのだろうか。

 取り合えずは、人間の格好の方が向こうもやり易かろうと、人間化の魔法を使ってショタっ子姿で待つ事にした。


 

 洞窟の出入り口に人の気配を感じて振り向いてみれば、先日とは違い村娘風の――言ってしまえば芋っぽい薄汚れた、中世ファンタジーに良くある上下一体型の洋服を着ているミバリィだった。


「あのぉ~、何をしていらっしゃるのですか?」

 

 その彼女の問いの先にあるのは、恐らく俺の手にあるモノだろう。

 右手に生え変わりの牙を加工して作ったハンマーを持ち、左手で持つのは金床の上に置かれた赤々と熱せられている赤い鱗。


「ちょっと知識を手に入れてね、やってみようかと思って」


 つい暇だったため、鍛冶オヤジの記憶に出てきた竜鱗の盾というモノを作ってみようと思い立ったのだ。

 最初は手探りで、怖々とハンマーを振るっていたのだけれど。

 ミバリィが歩いてくるのが遅かったため、何度となくハンマーを振るっていたら大分上達してしまっていた。

 因みに竜鱗の盾の方だけれど、未だに完成系には程遠い。

 まあ鱗の方は熱してくっつけて、元の倍以上の大きさと厚みにはなっているので、防具として使えないわけでは無いんだけど。


「まあ俺の暇つぶしなんてどうでもいいでしょ。それでどうしてここに?」

「ああッ!!」


 俺の身体から出た廃物利用の暇つぶしはもういいやと、出来損ないの鱗の盾をマグマに放り投げる。

 牙のハンマーの方は、今度気が向いたら竜牙の剣にする為に取っておく事にしたのだ。

 だが、マグマの中に鱗の盾が落ちるのを見て、ミバリィが「何て事を!」と言いたげな表情で悲鳴を上げた。

 なんだどうしたとミバリィを見ていると、ずぶずぶとマグマに飲み込まれていく鱗の盾を惜しむように見ている。


「どうかしたんですか?」

「い、いえその。とても勿体無いと思いまして……」

「勿体無い?」


 身体から引っぺがすのでなければ、一年に一回の脱皮時期にしか得られない竜の鱗は、確かに貴重といえるかもしれない。

 しかし俺がここに着てから八年――もうそろそろ九年に入るのだ。

 それなりの数の鱗が、この火口の至るところに落ちているのに、それが勿体無いとはと、首を傾げてしまう。


――竜の鱗は、防具は勿論の事。珍しい調度品や、重病を癒す妙薬の材料として、使用される事もあります。

 ああなるほどね。

 ファンタジーなお話に良くあるタイプの利用法だ。

 そうなると、あれかな。ミバリィもその方面に使いたいとか思っているのだろうか?


「……それで何のご用なんでしょうか?」


 少し呆然としているミバリィにそう言葉を掛けてみれば、己の失態に気が付いたかのように、真赤に顔を染めて俯いてしまった。

 うーん、急かすのは嫌なんだけど。

 何せ俺ってニートなのだ。自分ひとりで使える自由な時間が、この上なく好きな人種なのだ。

 本当はさっさと用件を言ってもらって、ちゃっちゃと帰って欲しいのだ。

 まぁ、へタレニートの俺は、そんな事口が裂けてもいえないのだけれど。


「し、失礼しました。それで今日お伺いに来たのは、竜様――ジョット様のお知恵を拝借したく、お願いに参りました」

「…………はぃ?」


 最初の数瞬は自分のへタレ具合にゲンナリして、次の数瞬はミバリィが何を求めたのかを理解出来ずに居たために、しばしの空白が発生してしまった。

 その後に彼女が何を求めたのか理解しても、それと俺とが繋がらずに素っ頓狂な声を出してしまう。

 そんな俺の声をどう受け取ったのか、ミバリィは地面に膝を付いて頭を下げて懇願し始めた。


「不躾なお願いだという事は百も承知です。しかしもう私たちは、貴方様におすがりするしか方法が無いのです」

「え、いやね。ちょっと待ってくださいよ。俺に君らへ知識を授けろと言っている積り?」

「はい、その通りで御座います」

「いやいやいや。待て待て待ってよ。俺ってさ、竜よ。この世界の人間の事なんて、欠片も知らんのよ?」


 頭の片隅でチサちゃんの事が思い浮かんだけれど、ミバリィがそんな事を知っているはずも無いので、半分はハッタリで半分は面倒臭さから拒否してみた。

 だってよ、これってアレだよ。

 一度知識を授けてしまったら、後から後から人がやってくるフラグだよ。

 ニートの俺にとって、家に人が押しかける状況って、どんな悪夢か分かってないよね。

 ここ最近、人がやたらとやってきて、内心ストレス感じているんだよ。

 もうね、洞窟埋めようかなぁ……


「それならば、御存知の事だけでも構いませんから」

「……むぅ、まぁ聞くだけなら良いよ。応えるかは別だからね」


 しかし年端も行かない少女が、蹲るように項垂れるようにして懇願する姿を見てしまうと、へタレで女性耐性が無い俺は思わず及び腰になってしまうのだった。

 だけれど、フラグを成立させるつもりはないからね。

 全力で回避する方向は変わってないから。


――誰に向かって弁明をしているのでしょう?

 うん。まぁ。俺の心の中に居る、良心と利己心のぶつかり合いの末に出てきた言葉だから、チサちゃんは気にしない方向でお願いします。


「それで、何か問題でもあるの?」

「問題は大きくは一つ、分けて三つあります」

「三つもあるのぉ……」


 出会って未だ数日で、顔を合わせるもの二回目の相手に向かって、三つも知恵を拝借って。

 どれだけ厚かましいんだと、内心ゲンナリとしてしまった。


「はい。先ずその問題はですが、ジョット様がこの山――ブンボルガー火山にお住みになられた事です」

「それは何。俺にここから出て行けって言っているの?」

「いえ、そうでは御座いません。ジョット様が何処にお住みになられても、人間の我々にとやかく言う資格は在りません」


 つまりは遠まわしにだけど、さっさと出て行け、さもなきゃ知恵を貸せって事だろ。

 うはぁ、なんてこの世界の人たちは厚かましいのか。

 出て行っちゃおうかとも思うが、もうそろそろ九年も過ごそうというこの火口は、岩ばかりで殺風景とはいえ愛着が多少ある。

 なので解決出来るのであれば解決して、このまま住んでいたいとも思う。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、ニートの俺に引越しはハードルが高いです。本当に。


「それで分けて三つってどういう事?」

「それはジョット様を討伐して名を上げようとする冒険者。活動がやや収まったブンボルガー火山の鉱物を狙う商人。そして我々の食料です」


 つまりはまだ子竜な俺を倒して、ドラゴンスレイヤーの称号を得ようとする馬鹿たち。

 火山の特性上、ダイヤや黄金に水晶の産出が望める土地の利権を得ようとする資本主義者たち。

 それが挙って集まってきたので、対応にてんやわんやなのだろう。

 確かに両方とも、俺がここに住んだ所為ではある。


「……まぁ、冒険者と商人は分かるけど、君らの食料ってどういう事。麦やら野菜やらを食べた覚えはないんだけど?」

「いえ。村に集まった冒険者や商人が飲み食いする分で、我々の備蓄が底を着き始めたのです」

「でも、一応金品での交換はしているんだろう?」

「お金があってもお腹は膨れません。それに買われない様にと値を跳ね上げようにも、相手は武力か交渉力がある相手ですから」

「あぁ~、なるほどねぇ~……」


 つまりはだ、冒険者相手に食料品の値上げを打診すれば「ああん? 昨日はこの値段だったじゃねーか!」と脅され、それでも拒否すれば「ヒャッハー! 種籾だって頂きだぜー!」と暴徒化する恐れがある。

 しかし商人相手に値上げをしようにも、こんな場所まで利を求めてやってくる海千山千の商売の怪物どもだ。言葉巧みに言い負かされ、気が付けば当初より低い金額で取引してしまう。

 何て事があるかもしれないわけだ。

 それが取り越し苦労ならいいが、本当の事になったら、辺境の小さな村などあっという間に破綻してしまうだろう。

 こういう時に領主がやってくるのが相場だろうに。


――行政の動く速度は牛歩並みです。それに領主にとって、辺境の村の一つなど勘定に入れる程の重要性はありません。

 ですよねー。

 でなきゃ、俺の住処に兵士がわんさかやってきそうなものだものね。

 つまりは如何にかしなきゃ、俺がここから追い出されるか逃げ出す未来がやってくるわけだ。

 これは真面目に考えなければいけない。

 主に俺のニート生活を続ける為に。


「事情は良く分かりました。一つ目と二つ目は解決法は直ぐに出来ます」

「ほ、本当ですか!?」


 キラキラとした瞳を向けてくるミバリィに、俺はちょっとだけ後退ってしまう。

 なにせこんな目を女性に向けられるのは、今世だけでなく前世でもなかったのだからしょうがない。


「先ず一つ目の冒険者ですが。この洞窟を埋めてしまえば良いのです。そもそもここに調査にやってきた冒険者を帰すための穴だったので、埋めてしまっても問題はありません。どうしてもドラゴンスレイヤーになりたいっていう、ガッツがある人なら険しい山を登って会いに来るでしょうし」

「……あのぉ、それだと我々もジョット様に会えなく――」

「そして二つ目ですが。この火山の活動が弱まったのが原因なら、もっと活発にしてあげれば良いのです。なに簡単です、ちょっとだけやってくる魔素の量を増やしてやれば、一年中噴煙の耐えない火山が出来上がりますよ」

「それは止めてください! 我々も住めなくなってしまいます!!」


 フラグ阻止のために、ミバリィの発言を阻止して過激な事を言ってみたが、どうやら成功したようだ。

 これで穴を埋めてしまっても文句は言われないだろう。


「今の二つ目のは冗談です……商人の方々がやってくるのは、多分もうそろそろ落ち着くんじゃないかと思いますよ」

「それはどうしてですか?」


 直ぐに答えて上げたい所だけれど、いまアンチョコを読むのに忙しいので少し時間を空ける。


――村にやってきている商人の記憶を読んでいる所ですからね。

 仕方が無い。だって俺ってただのニートよ。

 働き者で金を稼ぐのが大好きな商人の考えなんて、まるっきり分かるわけ無いじゃない。

 とチサちゃんと受け答えをしている間に、大体の事は分かった。


「商人たちは、この山の鉱脈の状況や、発掘作業に掛かる警備や人員の経費を算出する下見をしているに過ぎないのです。そもそも、勝手に露天掘りなど始めて商売を始めれば、領主に睨まれるのは避けられませんからね」

「つまり、どういうことでしょう?」

「もうちょっとすれば、行商人以外の商人の人たちは、もうやってこないでしょう。それこそ、この山の発掘の許可が領主から出るまでね」


 えっへんと偉そうに胸を張るポーズをして、心配は無いのだと示す。

 これは竜が人間に相対するとき、無意味に偉そうにするのがデフォとのチサちゃんの言葉に従っているからで、俺個人の考えでやっているわけでは無い。

 でも本当にこういう態度を取ると相手も納得するのか、ミバリィもほっと安堵の息を吐き出しているのだから、チサちゃんのサポートは有能だ。


「あとは三つ目の食糧問題だけど、これはもう生産するか取引するしか方法は無いんだよね」

「そうですね。それでどうすれば宜しいのでしょうか?」

「えー、それも聞いてくるの。食糧生産と商人との取引を頑張って、位しか言いようが無いんだけど?」


 安堵の表情から一転して、当惑したような表情に変わるミバリィ。

 でもさ、俺ってば前世からの生粋ニートよ。

 畑作や稲作なんてやった事無い、完璧なただ飯食らいの不労者だよ。

 そんな相手に食糧問題を尋ねるだなんて、赤子に農家が畑の状況を聞くようなものだよ。


――村の食糧生産は上限に達し、取引する材料も無いという事かと思いますが。

 いやいや。転生系の物語ではこういう農業チートの方法があったよね。

 転作だか輪作だか知らないけど、そんな方法があったのを前世で読んだ覚えがある。

 でも、そういう部分は「あー、食料生産量が多くなったのね」って納得するだけのところだから、読み飛ばしちゃう部分だったし、全く覚えていないんですけどね。

 チサちゃんの検索能力で、そういう知識を持っている人が居たりしない?


――転作、輪作に関する知識はありませんね。この世界には無い要素なのかと。

 あーあー、あれかな。

 この世界で植物が育つのには、魔力や魔素が必須だから、堆肥なんか作っても意味が無いとかそういう感じの世界観。

 農業チートをしようとした主人公が躓く原因になるという、例の異世界設定の妙なアレ。


――地力の回復は、土地に魔素が染み渡るのを待たねばならないのが常識です。

 はい確定。

 ということは、この世界の肥料って、土に魔石とか魔晶石とか魔宝石とか砕いて混ぜ込むタイプだったりするよね。


――通常は低級魔物の核を砕いて使用します。しかし砕くための専用の機械が必要です。

 テンプレ乙。

 いやでもさ、それだと村には使えない方法って事でしょ。

 機械は商業ギルド的な組織で専有されちゃって、一般民には使用できない感じで。

 そうなるとさ、もういっそのこと別の品種を育てていった方が良いんじゃないかなと。


――村の納税方法は小麦で行われてます。特産品の無い村ですからね。

 そこまでもテンプレかよ。

 つまり納税の為に一定の範囲の小麦畑が必要で、それのせいで村人の食糧生産力が圧迫されているんだろ。

 これはもう、前世で良い様に物語り内で使われる事で知られた、ポッテイトォ様が居ないと食糧問題は解決しないな。

 もしくはサツマイモ様。


――可食性の芋系統の作物は在ります。しかし毒物として認知され、ごく一部の人たちしか食べてません。

 それも前世と同じタイプだな。ジャガイモを加熱しないで生で食べて、毒に当てられ腹壊すのと同じな。

 じゃあその中で、種からじゃなくて、実というか芋自体から芽が生えて。それでいて鈴なりに付く芋ってある?

 ああ、できれば村の近くで自生するなり、手に入れやすいもの限定で。


――ショショルゥという芋が該当します。ただし、茎や葉は弱毒性で食べられません。食べた場合、軽い幻覚症状を引き起こします。

 おいおい、それってどんな大麻ですか。

 でもまぁ、ショショルゥとかいう植物を育てるしか、今のところ手は無い様だし……

 

「あ、あのぉ~。本当に解決法は無いんでしょうか……」

「ああ、御免ね。ちょっと考え事をしていてね」


 ミバリィにとってしたら、俺が行き成り黙り込んでしまったように見えたのだろう。

 おずおずと、こちらの様子を確かめるような声色で喋りかけてきた。

 それをなんでもないと仕草と言葉で応えて、先ほどチサちゃんとの話し合った結果を伝える。

 するとミバリィは驚いた様な顔付きになった。


「ま、まさか、ショショルゥの根が食べられるなんて……」

「おや。その植物を見た事があるんですか?」

「はい。村では乾燥させた葉や茎を、成人の男性が煙管で吸うのです。荒地でもそのまま育つので、村の外に幾らでも自生してますから、よく採取しに行きます」

「なら問題は無さそうですね」


 となるとその芋がどういうものなのか気になる。

 気になったので、ニート御用達である物質転移の魔法を使用して、手の中にそのショショルゥを呼び出して見た。

 因みに場所の情報は、万能なチサちゃんの提供です。


「へぇ、これがショショルゥですか……」


 行き成り俺の手に現れたショショルゥというらしき植物を見て、ミバリィは目を見張って驚いている。

 それを横目に、俺はその植物を観察する。

 ふーむ。茎はまっすぐ一直線で、葉っぱはぎざぎざでヨモギの様、花はかすみ草のような小さなものが大量に咲いている。

 肝心の根の部分には、人間化で幼児体型の俺の手の平よりも大きな丸い芋が、ごろごろと十個ほど生っていた。


「あーーん――」


 その中の一個を掴み、無遠慮にマルカジリする。まあ今の状態では口が小さすぎて、三分の一程度しか齧れなかったが。

 もぐもぐと噛んで味を確かめると、生の大根のような瑞々しさの中に、デンプンが唾液で糖化した甘さを感じられた。

 その味にこんなものかと満足しつつ、歯で付けた断面を見てみると、そこは真紫色をしていた。

 俺としては前世に在った紫芋などで見慣れているが、ミバリィにとってはそうでは無いようで、紫色の芋を気持ち悪そうに見つめている。

 その姿に、こっちの世界の人間は食糧事情が悪いのに贅沢だと、見た目の悪さは勿論で河豚等の毒魚ですら食料にしてきた日本人の食への探究心を見習えと、そう思ってしまう。


――常識では赤色や紫色は毒の色とされてます。

 確かにそういう色のキノコなら食べたくは無いけれどね。

 しかし食べてもらわない事には、これが無毒であると証明できないわけで。

 俺が食べたんじゃあ、前の酔い潰し用の酒みたいに、毒が効かないから食べられるんだと思われてもいけないし。


「しょうがないなぁ~」


 俺が食べたのではない別のショショルゥ芋を取り、極弱の竜の吐息でじっくりと丸焼きにしていく。

 中まで確りと火が通り、周りの皮がパリパリとひび割れるぐらいに熱してから、真ん中から半分にする。

 見た目の色を抜かせば、蒸し上がったジャガイモに見えるその見た目。

 熱すると糖度が増すのか、割ったところからは甘い匂いが立ち上っている。


「ほら、食べてみて」

「え、えーっと。本当に大丈夫なんですよね?」

「大丈夫です、この部分は無毒ですから。仮に毒があっても、魔法で解毒してあげますよ」


 ニッコリと笑って差し出せば、怖々とショショルゥ芋をミバリィは手にする。

 良く熱した芋を手に触れたミバリィは、熱ッ熱ッとお手玉するというお約束をやってくれる。

 そのまま数分お手玉をした後、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてから、漸くミバリィは口に含む。

 それを見届けてから、俺も手にある残りの半分を口に入れる。

 食べてみると、生とは違ったネットリと粘りつくような食感と、スィートポテトを食べたような甘味が口に広がった。

 見た目は紫色のジャガイモなのに、熱すると蜜芋に変わるだなんて、ファンタジーな植物である。

 そういえば、甘味ってファンタジー世界では高級品だよな、とミバリィを見てみれば。

 やはり甘味が大好きなのは異世界でも共通らしく、少女だというのに貪るように一気にショショルゥ芋を口に入れている。

 そして手に付いた欠片すらも口に入れてから、チラチラと俺の顔とまだ沢山あるショショルゥ芋を交互に横目で見ている。


「あ~~……まだ要る?」

「はい。お願い致します!」


 しょうがないなあ、と小さく呟いてから、面倒なので丸ごと竜の吐息で焼いていく。

 一瞬、葉や茎を大麻タバコ代わりにしている事を忘れてて、慌てて魔法で拡散させた。

 そして出来上がったショショルゥ芋の大半は、ミバリィの胃の中へと押し込まれた事は言うまでもない。

 しかし満足そうな笑顔を見せるミバリィに、これで食糧問題は解決しそうだと安心した。

 でも念のためにチサちゃんに尋ね聞いた栽培法を、ミバリィへと教えて置いた。


「重ね重ね、有り難う御座います」

「いやいや。でもこの洞窟は閉じちゃうから、もう気軽にはここに来ないでよ?」

「はい。このご恩は一生忘れません!」


 寧ろ忘れてくれた方が良いんだけど。

 そう言うのが憚れるほどの良い笑顔を浮べて、残った焼いたショショルゥ芋を手にミバリィは帰っていった。

 それを見送りつつ、今日はニートの俺としてはよく働いた、と俺は内心で溜め息を吐き出す。

 なれない女性のしかも少女の訪問で緊張したにしては、無意味に働きすぎたといえた。

 なので洞窟を閉じるのは明日以降に回して、今日はもうのんびり溶岩浴をしていよう。

 そう決意して早速、人間の姿から竜の姿に戻して、ざぶんと溶岩へと飛び入った。


「へふぅぅ~~~~~」


 溶岩の温かさに身を任せて、縁に乗っけた頭を緩ませ、口から盛大に弛んだ声を出して癒される。



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[気になる点] 因みに竜鱗の盾の方だけれど、未だに完成系には程遠い。 完成系 → 完成形
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