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プロローグ

 真っ暗な部屋の中で、唯一の光源であるPCに向かって、俺こと大南梃太おおなん じょうたはネトゲに勤しんでいる。


「あ、くっそ。そこで特殊攻撃するのかよ……誰か回復ヨロっと」


 PCの画面上では、俺が作って育て上げたキャラクターが、現実では見知らぬ誰かが操るキャラクターたちと共闘して、難敵なレイドボス戦を繰り広げている。

 今は水曜日の未明の時間だというのに、寝ずに起きていて大丈夫なのかと問われれば、大丈夫なのである。

 なんていったって、俺って仕事もしない親の脛齧りな、駄目人間のニートなのだから。

 ニート的な用事があれば排泄は極力我慢して起き続け。眠たくなったら眠り。腹が空いたらあり物を食べる。

 徹夜昼寝は当たり前、昼夜逆転が如何したのかと言う様な生活。

 働けだなんだと両親に言われても、俺みたいな奴がこの不景気にブラック企業ですら正社員になれる訳もなく。更にはバイトも中々決まらず、決まっても直ぐクビになる。

 ならネットを利用して広告収入をと画策したところで。

 ブログは書く事無くて一週間もしないうちに更新停止。

 ゲーム攻略情報は、より廃レベルの人らが埋めてしまう。

 巨大掲示板からの飛ばし記事は、やる事が多い割りにアンチやら規制やらで諦めてしまった。

 なのでそんな根っからの愚図な俺は、ニートしか出来る事が無いのだ。

 

「よし、よし! スタン状態になった『みんな一斉に奥義だ!』っと」


 了解の文字が並ぶチャット画面を見つつ、自分のキャラクターが使用出来る中で、一番ハイダメージを与えるスキルを選択して実行。

 数秒の溜めエフェクトの後に、両手剣を振り上げたキャラクターから、派手な光効果が発生しレイドボスにダメージを与える。

 周りのキャラクターたちも、色々な色の光を放ちレイドボスへと魔法やら剣技やらを叩き付ける。

 ぐんぐんと減るボスのゲージを見ていると、最後は全身黒装備の双剣者が駒のように回転しながら斬り付けて止めを刺した。


「ふぅ……『おつ~っす。しばし休憩するんで、自由解散で~』っか」


 ゲームシステムで経験値とアイテムが自動的に振り分けられたのを確認していると、参加者全員から『乙~』や『Z~』と声が上がる。

 中にはレアドロップの名前を出し、高価買取スレッドをその場で展開する者もいる。

 獲得したアイテム名は違ったので、転送ポイントへと自キャラを動かしつつ。

 ふぅっと溜め息を吐いて体の力を抜き、テーブルの傍らにあったペットボトルの水を取ろうとした時。


「――ぐぐぅううぃ!?」


 急に胸を締め付ける痛みが。

 体が硬直しつつも筋肉から力が抜けるような、そんな変な感覚を味わいながら、俺は椅子から転げ落ちる。

 床に体を打ち付けて、かなり大きな音が出たと思うが、それを聞き分ける余裕が今の俺には無かった。


「――うぅぅ……」


 口から泡を吹くが、喘ぐだけで息も吸えず。

 なので自分の意思で体を動かす事など出来るはずも無い。

 更には段々と思考が端から白く塗られていく。

 

「――はッ、はッ、ッ……」


 体が生きようと必至に抗っている。

 一方で俺の心は、こうなってしまうのは仕方が無いなと達観していた。

 人生で上手くいった事など数えるほどしかないのを悲観して、自堕落で不摂生な生活を続けた結果なのだから、と。

 生きていても仕方が無い部類の人間なのだから、このまま死ぬのは当然ではないか、と。

 

「そうだな。死ぬか……」


 体の方も抵抗を止めたのか、ポツリと喘いでいたはずの俺の口からそんな言葉が出てきた。

 そして言葉を吐き出し肺の中に空気が無くなった事で、脳に酸素が供給されず、俺は意識を失った。






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