表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

君と私と雨

「雨って、鬱陶しいよな」


 外をぼんやり眺めて、彼はつまらなそうに言った。


「……急にどうしたの?」


 生憎彼の鬱陶しがる雨空とは程遠い、梅雨時には珍しい爽やかな快晴。言っている意味が分からない分、彼の方が鬱陶しいのでは。


 彼は窓の外から目をそらさない。いつもの丸い目は薄く、細められている。表情からも、退屈そうな様子が窺えた。


「雨が降るとさ、君が寒い思いをする」


「そうだね」


 珍しい。彼が私中心の発言をするなんて。明日は土砂降りにでもなるかもしれない。


「君が、濡れるとか髪がぼさぼさになるとか言って駄々を捏ねる」


「仕方ないじゃん」


 癖っ毛にとって深刻な問題なのだ。というかやっぱりそういう理由もあるのか。


「傘を持ち歩かなきゃならなくなる」


「傘ないと濡れるよ」


 けれどまぁ荷物になって面倒だと言うのは同じ意見だけども。


「君が、傘を差して歩かない。濡れると文句を言うくせに」


「……」


 荷物が手一杯なのが嫌だから仕方ないんだ。そこは見逃してほしいのだけど。


「風邪引くって言っても、ちっとも聞かない」


「……実際引かないもん」


「俺、しょっちゅう会える訳じゃないんだから、心配かけさせないでよ」


 外を見ていた彼は情けない顔を此方に向けた。


「……ごめん、でも」


 君に心配してほしくてやってる訳じゃないのにな。そんな生意気な言い訳が頭に浮かぶ。言いたいのはそんなことじゃないのに。


「私は雨、好きだよ」


「なんで?」


「君を横取りする太陽が隠れて、君が私を見てくれるようになるから」


 晴れの日より、素直になれる気がする。心無しか、程度だけど。


 君はあっけに取られたような、間の抜けた表情を此方に向けた。そんな顔をしたまま固まるものだからとてつもなく居心地が悪い。

 しばらくして、彼はもう一度窓の外を見た。春ほど穏やかでもなく、夏ほど暑くもない、爽やかな快晴。

 そんな空と同じ、溢れんばかりの清々しい笑顔を浮かべた。


「でも、やっぱり俺は晴れてる方が好きだな」


「そうだろうね」


 晴れ空の下で元気いっぱい動き回る彼を思い浮かべる。その彼は今と同じ笑顔をしているもの。


「でも、君が素直になってくれるなら、雨も好きだな」


 嬉しそうに私を見る彼が、少しだけ憎く見える。なんでそんなに素直なんだろう。なんでそんなこと口に出来るんだろう。


「もし、雨が降ったらさ」


 ぽつり。キラキラと笑う彼から目をそらして呟いた。


「うん?」


「いっぱい、いっぱい話そうよ」


「うん。楽しみにしてる」


「じゃあ、てるてる坊主つくろっか」


「素直じゃないなあ」


 君が好きな晴れの日も、笑顔が見れるから好きなんだけど。


 これは、雨が降っても言えないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ