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「あたいがさいきょーよ!」


 弘毅が紅魔の依頼を終えて、早三日がすぎた。

 そんな時。弘毅の家の前に仁王立ちで腰に手を当て、高い声で叫び散らす妖精がいた。名はチルノ、という。


「ということで、大ちゃん。今日こそあいつをやっつけるわよ!」 


「……この前たくさん負けたんだしもう無理だよ。帰ろうよ」


 チルノは、人間に負けたことがとても悔しいらしく、何度もリベンジしていた。だが一度も勝てていない。……相手にしてもらえていない、といった方が正しいか。

 そんな様子を見ていたチルノの友達である大妖精――チルノからは大ちゃんと呼ばれている、が帰ろうと催促していた。だが


「大ちゃん、……弱気は損気よ!」


「な、なにを損するのかな……?」


 チルノ当人は、決して諦める気を持っていなかった。

 そんなこんなで、一方的に根を持っているチルノと、それを止められずにいる大妖精。

 弘毅としては、紅魔の後に増えた面倒事としか思っていない。ので、チルノに対して執拗に何かをしなければ、攻撃されてもあしらう程度で逃げるようにしている。


「……とりあえず、よろず屋! そこが住処なのはあたいの力でわかってるのよ! でてきなさい!」


 再び叫ぶチルノ。弘毅の家からは、動きは見られず、誰もいないようにも感じられる。


「住処、っていっても居なかったら意味がないと思う……。それに、探したのわたしな――」


「こうなったら、勝手に入る!」


 チルノがそう言って、ドアノブに手を掛ける時。彼女は気付いた。

 ドアノブに引っ掛かっていた看板に、『出払い中』の文字が書かれていることを。


「……よろず屋を探すわよ、大ちゃん!」


「あーうん。チルノちゃん、もうわたし帰っていいかな?」


「ダメ!」


「やっぱり……」


 チルノの怒りは、弘毅へと向いていた。その被害者は被害者で、苦労をしていたのだが、チルノは知るよしもないことだ。








 当の弘毅とはいうと、博霊神社に足を運んでいた。


「霊夢ちゃん、稽古をつけてくれ……」


「うわ! よろず屋さん、顔色わるいわよ。どうしたの!?」


「……大丈夫だから稽古を…………」


 ある者の所為で、弘毅は疲労困憊している。それが原因で、今修行の為に霊夢に稽古を頼むことになっていた。

 

「とてもそんなことできる状態じゃないし、休みなさい」


 弘毅に何か事情があるのはわかったが霊夢は否定をした。弘毅は誰が見ても心配するほど、顔色が悪く、目線も定まっていなかったのだ。

 あまり人に興味がない霊夢が心配するのだから、相当である。


「とはいわれても、もう一度あいつに襲われたら今度こそ死んでしまう……」


「……相手が誰だか知らないけど、寝てる間ぐらいは守ってあげるから」


「……あ、ありがとう…………ぐう」


弘毅は、その言葉を聞いて安心したのか、こくり、と畳みの床に倒れ込んだ。


「はや! ……私、おちょくられているのかしら?」


「三日で疲れがたまりにたまっていたからの。しょうがないのじゃよ」


 口を開いたのは鬼々。突然の言葉に霊夢は動揺したが、すぐに落ち着いた。


「……札? このごろあまりしゃべらないわね」


 するり、と弘毅の服の中から出てきた鬼々。弘毅はもうすっかり寝ているようだった。


「そうじゃの。わしの力も今じゃすっかり主の物扱いだからの。迂闊に喋っては面倒なんじゃ。それに……」


 含むように言う、鬼々。霊夢はそれに興味を持つ。


「それに?」


「基本、わしは女子(おなご)は苦手じゃ。」


 霊夢は何秒か顔が固まった。


「……へー。あ、確かに妖怪は女だらけね。……あれ、わたしは?」


「……………………わからんが平気じゃの」


「喧嘩売ってるのかしら?」


「買ってくれるのかの?」


 霊夢はため息をつき、ずっと気になっていた核心を鬼々に問う。


「というか」


 顔をあげて鬼々の方を向いて。


「なんでこんな事になってるの?」


 すっかり眠りに落ちている弘毅を指さして呆れる霊夢。


「説明は嫌いなんじゃが……」


「できないわけじゃないんでしょ? なら、言いなさい。……もし」


 霊夢が小さい声でなにかを喋ったが、鬼々は聞き取れなかった。


「? なにか言ったか?」


「……なにも。ほら、さっさと喋りなさい」


「人使いが荒いのう」


「札使い、ね。私は札使いも荒いわ」


 いつも、妖怪相手に札を投げまくりだそうだ。


「自慢ではないの」


 こうして、霊夢は鬼々から事情を聞くことになった。








「やっぱりというか、なんというか……」


 話を聞いて、呆れる霊夢。

 最初は、紅魔の依頼の帰り道。チルノという妖精に襲われ、その場はなんとか撃退した。

 だが、怒りは弘毅へと向かい、あれからたった三日しか経っていないが、弘毅が外へ出ると、何度も襲われるらしい。

 これが苦労事の()である。

 

「……それより、よりによってあいつに目を付けられるのね」


 苦労事の()は、霊夢のいうあいつ……フラン・スカーレットと交流したこと。

 昨日、紅魔の館に改めて挨拶をしに行ったところ、文から危険と言われていたフランと遭遇。文の言葉を思い出し、冷静に言葉を選び、その場を生き延びたのだが


「まさに、懐かれる姿は滑稽じゃったぞ」


 そう。懐かれたのだ。その後、フランにとってはただのお遊びであるスペルカード戦が必然かのように始まってしまう。

 なんとか応戦するも、フランにとって人間の括りは、咲夜、魔理沙、霊夢である。つまり、フランは弘毅にほとんど手加減なしで戦う。

 間一髪、咲夜が弘毅を助けなければ、危なかったらしい。


「……だからあんなに死にそうなのね……」


「ついでに言うと、昨日の帰り道にも氷精に襲われたぞ」


「……大変ねえ」


「ということじゃ。休ませてやってもらえんか?」


「それはいいわよ。別に一人ぐらい居たってなんの変わりもないわ」


 肩をすくめる霊夢。普段から外来人が博霊神社に訪れることがあるらしく、休ませる様なことも多いため、そんなに気にならないようだ。


「助かるの」


 ふと、霊夢がお茶を机に置き、口を開いた。


「ああ。だから修行したかったのね……。まあ、修行してもあの吸血鬼と戦うなんて無理なんだけど」


「……それは置いておくとして、一つ――頼みたい事があるのじゃが、頼めるかの?」 


 もし、鬼々に目がついていたならば、とても真剣な眼差しを思い浮かぶほど、その声は重みが感じられた。


「そうね。それじゃ、代わりにあんたが何者なのか教えてもらおうかしら?」


 そう言って、霊夢は不敵に笑った。だが


「……それ絡みの頼みじゃったんじゃが……」


「あら、そう……」


 締まらない雰囲気の中、鬼々は自分のことを――弘毅との出会いから話し始めた。







「ということで大ちゃん!」


 元気に騒ぐチルノを見て、嫌な予感を感じながら、大妖精は答えた。


「……なにかな?」


「あのよろず屋はどこにいるのか探してきなさい!」


「えー、いやだよ……」


 チルノはその返事が自分に届くと、うーんと唸り、髪をかいて辺りを見渡す。そうしていると、彼女が右を向いたときに、丁度落ちていた枝が揺れ、音をたてた。


「こっちだ!」


「えと、大丈夫かな……」


 大妖精の呆れをよそに、チルノは枝の音がした方向――妖怪の山の方向へ歩き始める。


「さて、阿呆な天狗に阿呆な河童。殴り込みよ!!」


 妖怪の山を見て思った事を、口に出したと思われるチルノ。既に、弘毅を探すという目標を、忘れているようだった。大妖精もそう見えたのか


「あれ、わたし達、なにしに行くんだっけ……」


 チルノは、あいつよあいつ! あの妖怪もどき人間を倒すの! と本人にとってはとても不本意な言葉で表す。……しっかり覚えていたようだ。


「あら、これはこれはチルノさんではないですか」


 そんなこんなをしていると、一人の烏天狗が二人の前に現れる。


「……だ、誰だっけ?」


「チルノちゃん……。射命丸さんだよ」


 射命丸――文は天狗である。正確には、烏天狗だが。


「その通りです。私の前で天狗をよく馬鹿に出来ますね?」


「え、え? ……ああ。……あっ!!」


 チルノが文の事を思い出すが否や、空を飛んで、文に背を向けて逃げる。文は内心苦笑いしながらも、怒った様子を崩さない。


「……え、えと、ごめん、なさい!」


 大妖精は慌てながら文に一礼すると、チルノを追って空を飛んでいった。

 そうして二人が見えなくなってから、文は隠していた苦笑いを顔に出した。


「うーん、妖精も様々ですねえ。それにしても、弘毅さんはどれだけ苦労してるですか」


 空を仰ぎ見る文。チルノ達の会話を聞いていたのだろう。


「……さて、それでは弘毅さんに挨拶しに行きますか」


 手帳に手を掛けて、チルノ達の事を聞こうと思う文だった。


 その後、弘毅の家のドアノブに『出払い中』の看板がかかっているのを確認した文は


「こんなことで(もみじ)に頼むのも何ですし……とりあえず、霊夢さんに聞いてみましょうか」


 紅魔館よりは近いし、と。

 文は、一度伸びをしてから、博霊神社の方へ飛び立った。

 


 

 遅くなりました。ごめんなさい。

 新章一話目から展開速い気がしますが、どうなんでしょうかね。……自分のペースを早く見つけたい……。

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