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07

「さて、秋雨君。詳しい話は後でいいとして、1つお願いあるんだけど」


 いかにも本題だ、という雰囲気で話し始める依頼人。


「はい。なんですか?」


 弘毅が頷く。その話をするために、わざわざ二人になったのだろう。

 一瞬の静寂。そして、直ぐに依頼人は口を開いた。


「……僕の家で働いてくれ!」


 それは、依頼人の目的だった。弘毅が魔法を使える、と聞いて役に立ちそうな人であったら家に迎え入れたい、という願い。

 ――吸血鬼の依頼はもちろん大事だったが、依頼人にとって弘毅のことが一番の目的だった。


 だが、そんな依頼人の思いを余所に、弘毅はあまりに突然だったので素で答えた。


「それは……万屋があるんで無理ですかね」


「……。答えてくれてありがとう」


 その答えは想像ついていたので、簡単に納得する依頼人。


「いえ、すいません」


 弘毅は頭がこんがらがっているからか、咄嗟にすいません、という言葉を発した。


「いや、謝らなくていいよ。こっちこそ変なことを頼んだ」


 弘毅は、依頼人が先程と性格が違うと思うが、どちらかというとさっきまでの依頼人の性格は意図としてキツくしていたのがあり、実際は初対面の人にあんな挑発的な態度は取らない。


「……では、ぼちぼち行きますか?」


 とはいっても、弘毅はそんなこと全然知らないので、依頼人に戸惑う弘毅だった。

 それでも、今は目の前の問題をどう片付けるかが先決と判断して、先に行くように促した弘毅。


「うん」


 二人――ばれると面倒だから全然喋らない鬼々を含めると三人――は、紅魔の館に入っていった。








 門の前では、青年の護衛が一人で座って、美鈴の顔を見ていた。

 本当は気を失っていない美鈴、油断をしてしまい青年に気づかれていた。しかし彼女自身はそれに気づいていない。


「あの、門番さん。気絶しているフリはもういいです」


 相変わらず目をつぶっている美鈴に話しかける青年。反応はしないだろう、とダメもとで放った言葉に美鈴はビクッと動いた。


「ばれてるっ!?」


 一度、美鈴は起き上がってから、彼を見る。


「……本当に引っかかった…………」


「騙したのっ!?」


「そうなりますね」


 さっき動いていたのを見てたんですよ、と付け加えた。


「……そうですか。あなたは依頼人の?」


「はい。家長の部下みたいな感じです。今、倒れているのは、家長の親戚の人です」


 家長とは依頼人の事だ。美鈴は、一瞬何かを考え、倒れている護衛の方へ行った。


「あ、念の為に」


 美鈴は倒れている護衛の首元に手を添えると、気を操った。


「?」


 何をしているのかわからない青年に美鈴は説明した。


「ちょっと気を……ね。これで当分は目覚めないはず」


「はは、ありがとうございます」


 その返事に首を捻る美鈴。


「礼を言うの?」


 同じ家の仲なくせに、と思う美鈴。青年は、苦笑いを浮かべながら、落ちている小石を手で拾った。


「見ましたでしょ、あの性格。先輩は家の中でも好かれてないです」


 ごもっともである。青年は、小石を握り、美鈴の方を見た。


 突然、青年は小石を突然美鈴に向かって投げた。風をきりながら飛ぶ小石。それを見て驚きながら、美鈴は急いで避ける。


「ッ!?」


 怒りながら、構える美鈴。それを見て、青年は急いで謝った。


「す、すいません。確かめたかったので」


「……あ」


 予想がついた美鈴だったが、それを知ってか知らないか青年は話を続けた。


「あの、さっきの秋雨さんとの戦い。本気ではなかったですよね?」


「……そうですね」


 確かめるような言葉に、素直に美鈴は答えた。


「僕も僕で、何かしたいとは思ってたけど、そちら側では、もう既に動いてくれてたんですね……」


 その言葉に、目を見開いて興味を持つ美鈴。

 苦笑いしながら、青年は言った。そして、少し長いですよ、と前振りをして話を始めた。


「いきなり、先輩――この人が巫女様と吸血鬼が一緒に歩いていて怪しいから、退治しよう、と言ったんです。それを聞いて、家長も勘違いをしてしまいました。それから、家長は外れの万屋……秋雨さんに退治頼もうと言いだしてしまい……」


 どうやら、この言葉から考えるに、大体この人――倒れている護衛の所為らしい。そして、依頼人と馬鹿な護衛だけが霊夢とレミリアの関係を勘違いしている様だ。


 彼は、外界から流れてきた絶版された商品のラベルが貼ってあるペットボトルを取り出し、ひとつ美鈴に渡した。中身はお茶に変わっているが。


「考えれば、家長は秋雨さんについて、知りたかったんだと思います。……そして、先輩は、吸血鬼を許せなかったんですね。無駄に正義感が強いんですよ」


 美鈴は礼を言って、ペットボトルを受け取った。


 家長と馬鹿な護衛は、幼少の頃から大事に育てられて、家長は勉学、馬鹿な護衛は、武術を主に教えられていた。勉学はこれからの家の為。武術は家長の護衛の為に。そのために、幻想郷の状況に疎いのだろう。……流石に疎すぎるが。


「先輩が、吸血鬼が巫女を操っているって言って、家長はそれをすっかり信じました。それに加えて、さらに一つ厄介事ができました」


「……もう既に厄介ですけど」


 青年は笑いながら、お茶を一口飲んだ。そして話を続ける。


「先輩が紅魔館に巫女様が出入りしたところを見たらしいです。それで、家長と先輩は焦ったのか、秋雨さんの家に向かいました。早急に何とかするために一緒に吸血鬼退治に行くと決めたんです」


 昨日の出来事です、と付け加える。


「そこで僕は、急いで後を追いました。……結局、結果は大して変わらなかったですけれど」


「ああ。それで秋雨さんが紅魔館に、あなたたちを連れてきたんですか」


 納得した様に頷く美鈴。


「はい。なんだか、そちらの邪魔をしてしまったみたいですね」


「……大丈夫。私の家の家長は、逆に楽しんでいそうだし」


「……?」


 こんなにも厄介な事になっているのに、楽しんでいる、ということを聞いて理解できなかったのだろう。美鈴は館の方を振り向いた。


「この館の主人、毎日暇をしていて。あなたは知っているかもしれないけれど、博麗神社で宴会をしたり、この館でもパーティーを開いたり。

 ……とりあえず、毎日暇だっからこういう予想外な事もあった方が、楽しめるから」


「そうですか」


 笑いながら、青年が答える。少し、報われたのか本当にうれしそうに笑っている。


「……結局、知能はあるので、人間も妖怪も同じみたいなものだから」


 文と依頼人も、方法は違えど弘毅の同じところに興味を持ち近づいた。それを考えるとその言葉は、あながち間違いでもない気がする。








 紅魔館の中は、散らかっていた。額縁は落ちていたり、洗濯物がそのまま廊下においてあったり。また、カーペットはところどころめくれており、まるで住民が地震か何かから逃げた様な雰囲気だった。


「うわ。散らかっているなあ」


 依頼人がこぼした言葉。むしろ散らかっているを超えて、ぐちゃぐちゃ、という表現の方が似合っている光景だった。


 そんな廊下を通っていると、二人の視界の先に広間が見えた。

 二人は先に進み、広間まで着いた。


「誰かいるね」


 広間には人影が感じられた。依頼人が緊張している様だった。


「……少しここで待ってて下さい」


 弘毅はさっと注意しながら広間の前に出た。

 そこに居たのは


「咲夜さ……さっきのメイド、か」


 弘毅は急いで呼び名を言い直す。幸いか、依頼人には聞こえていないようだ。


「この館でメイド長をしている、十六夜咲夜です。以後お見知りおきを」


「秋雨弘毅だ。よろず屋をしている。あんまよろしくは言いたくないけどな」


 演技に慣れたのか、それとも本心なのか。弘毅は笑う。それに応えて、咲夜も、笑顔を作る。


「そうですねえ。あなたはお嬢様を会って倒そうとしているのでしょう? そうね。お嬢様に会いたいのなら、すぐに会えるわ」


 その言葉に首を傾げる弘毅。それを見て、咲夜が演技ではない笑みを見せた。


「どういうことだ?」


「こういうことね」


 言い終わると、咲夜は音を鳴らして歩いた。それは、とても優雅な歩き方だったが今は関係ない。

 問題は、その後ろだった。


 咲夜の後ろに隠れていたのか、紅魔館の主、レミリアが姿を現した。


「……えっ!」


 弘毅は驚く。それには、そこに居たという驚きより、文の写真の通り子供の姿をしていて驚いたからだが。

 小さいな、と口を滑らせるところだったが、口をふさぐ弘毅。


「……言いたいことがあるんなら、言ってもいいけど?」


 目で、命は保証しないと言っているレミリア。最初の発言から、威圧的な言葉に弘毅は戸惑う。


「お、お前が、ここの館の主だな?」


 弘毅がすくみながらそう言うと、その言葉に反応したのか、後ろから依頼人が飛び出してきた。主、と聞いて勢い余ったようだ。


「ちょ、秋雨君!? 主ってどういうこと!?」


 そのまま弘毅の斜め後ろまで来る依頼人。

 弘毅の力について知りたがっていて、弘毅は苦手にしているが、根は優しい人なのだろう。


「下がっててください。危ないです!」


「でも……!」


 急いで下がるように言うが、反論される。


「その通り、危ないよ? 簡単に姿を見せたら。……ね、咲夜」


 パチンッと指を鳴らす、レミリア。咲夜はそれに無言で頷いた。すると咲夜は姿を消した。

 弘毅はもうわかったのか、迷う素振りを見せずに後ろを向くと……


「流石は咲夜さん、か」


そこには、地面に伏して倒れている依頼人と、咲夜の姿があった。


「いえ。お疲れ様でした、弘毅さん」


「……で、この後どうするんだ?」


 依頼人が倒れているのを見て、苦笑いをする弘毅。


「それは、もう。依頼人は倒したが、この後、弘毅さんの美しい技に私とお嬢様が魅せられて、私達の負け。その後、巫女は解放されましたとさ。めでたしめでたし……ですが?」


 その素っ頓狂な発言に、弘毅は笑いながらそんな技持ってない、と答えたが、話をきいてくれていなかった。


「……ふう。お疲れ、咲夜。眠気覚ましに紅茶を飲みたいわ」


「はい、わかりました、お嬢様」


 レミリアは紅茶を頼んだ後に、弘毅の方を向いて言った。


「……後で、お願いがあるから、お茶飲んできなよ。咲夜が淹れる紅茶は格別だよ」


 その不敵な笑みから、このお願いは、最初に依頼人がしたお願いとは到底違うな、と感じた弘毅だった。

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