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06

 わずかに映える桜の木々。その桜との違和感を醸し出す、洋館。太陽は力強く光っていて、桜と館をまぶしく光が照りつけていた。そんな蒼く晴れた良き日。


「吸血鬼をぶっ殺しに来たんだよ!」


 私は、唐突の暴言に怒りより先に呆れの感情がして、思わず苦笑いを浮かべた。

 ……ただ弘毅さんにお茶を出して、お嬢様とお話されるだけ、と思っていたけれど、面倒な事態になっているようだ。


「な、なんなんですか、この人たち」


 中国が軽く耳打ちをしてきた。それは、私が知りたいことだ。


「……多分、依頼人の人。何かあって同行しているだろうけど」


 彼を見ると苦笑いしている。


「さ、ちゅ……美鈴、話を合わせて。茶番を始めましょう」


 腹をくくろう。弘毅さんのことですし、話は合わせてくれましょう。








 咲夜たちがこそこそと会話している時、護衛の怒鳴った方――今後馬鹿な護衛と呼ぶ、が怒られていた。


「……距離あるとしても無茶苦茶。妖怪に立ち向かう策は、秋雨君ぐらいしかないんだよ?」


 怒りの感情を見せる依頼人。といっても、本当に怒ってはいない。むしろ、楽しんでいる様子だ。おそらく、弘毅の力が見れる機会かもしれないからだろう。


「相手が女だったのでつい……」


 弘毅は文の言っていた、妖怪を見た目で判断するな、ということに納得した。妖怪とわかっていても、女性だと、油断をするからだ。


「まあ、ここで説教してもしょうがないです。早い段階で何とかしましょう」


 とはいっても、弘毅は咲夜と美鈴が話しているのを見たので、二人の様子を伺うだけだ。弘毅が咲夜たちの方に目をやると、目が合った。

 すると、お互い何かを悟った様に頷く。



「……美鈴、ここは任せました。スペルカード戦(おあそび)でもして、時間を稼いでください。私は、お嬢様に連絡をしてきます」


 咲夜の機転の良い言葉。これに、


「はい、わかりました」


 話を合わせる、美鈴。


「ここは俺に任せてください」


 ここで弘毅も話を合わせるのだが、


「いや、紅魔館の門番は居眠りばかりする者だと聞いた。あいつなら俺が……」


 またもや立ちはだかる、馬鹿な護衛。勢いよく風が吹いて、まるで自然が笑っているかのようだった。


「あの、流石に……相手は妖怪ですよ!」


 流石と言われるあたり、馬鹿な護衛は家の中では武術が得意らしい。青年の護衛が引き留めようとするが、時、既に遅し。


「巫女様を助けに来た。嬢ちゃんには関係ない」


 馬鹿な護衛は美鈴のほうにさっと向かい、胸倉をつかんだ。きょとん、と不思議そうな顔を浮かべる美鈴。そんな様子を見て、笑みを浮かべながら話を続ける馬鹿な護衛。弘毅は呆れが過ぎて、頭を抱える。


「さあ、館の中を案内――ぶふぉあっ!」


 美鈴の綺麗に弧を描く投げ技。それで気絶したのか、動かなくなる。

 ああ、得意の武術はどうしたのだろうか。受けすらも取らない姿、完敗である。


「さて、関係のない外野さんにはさがってもらいまして」


 あくまで関係のない、ということで話を進める美鈴。依頼人と青年の方の護衛が青い顔をして、一斉に弘毅の方を見る。弘毅はそれを見て、


「……よし、手を出したな。カクゴしろ。お前を倒して先に行かせてもらうぞー!」


 気の抜けた感じの言葉を出す。ところどころ棒読みだったが、弘毅なりの精一杯の演技。それに対して、美鈴も答える。


「私は門番。簡単に進ませるわけには……いかないっ!!」


 抑揚のある声。それに、落ちてきた桜の花びらを手のひらで握りつぶす演出付き。なかなかにノリノリである。


「さあ、スペルカードは無制限。いい?」


 といっても、お互いが手を抜くことは確信であるが。


「ああ、望むところだ」


 そうして、茶番(おあそび)の中のスペルカード戦(おあそび)が始まった。







 かれこれ十分ほど。とても優しい勝負が続いていた。……優しいというより、陳腐な戦いになっていた。とはいっても妖怪のスペルカード戦は子供が遊ぶ、雪合戦ではない。そんな戦いを依頼人と護衛は見惚れていた。弾幕の密度が薄いとはいえ、おいそれとは真似できない程の技。見惚れるのも仕方がないのかもしれない。


「ふう、なかなかできますね、秋雨弘毅。……お互いに消耗もしてきたし、これで最後にしましょう」


 彼らの戦いの後ろで、氷の妖精が興味の目を向けていたので、余計な面倒事を避けたいのだ。早く終わらせようとする美鈴。弘毅は、なぜ、美鈴が弘毅の名前を知っているのかを探らない。


「ああ、覚悟しろ!」


 実は、最初の十分間でお互いに一枚しかスペルカードを使っていない。だがこれで最後らしい。

 


「スペルカード!」







紅魔館の中。レミリア・スカーレットは、従者である咲夜の話を聞いていた。


「……なるほど。おつかれ様、咲夜」


「はい、お嬢様」


 まだ昼なのだが、屋敷の中は薄暗く、光が当たっていなかった。それもそのはず、この館の主は日光に弱いのだ。


「それにしても、その秋雨弘毅ってのは面白いな」


 クスクスと、弘毅の不幸を笑う館の主。咲夜から、推測とが混じっているが、今の現状を教わるレミリア。


「じゃあ、待ち構えとけばいいのね?」


「はい。そこでお嬢様に気を取られている時に、弘毅さん以外を……」


 手刀を作り、ストン、と下とす咲夜。なにやら怪しげな雰囲気だが、殺そうというわけではなく、単に気絶させる意味だ。


「ふーん。咲夜、その秋雨って奴はどれくらい強いの?」


 紅茶を飲み、目を覚ましながら尋ねるレミリア。


「? 白黒の魔法使いのマスタースパークを防いだとの事ですので、それなりに戦える、と思いますが?」


 咲夜は、なぜ、聞くのかをわからないまま答える。それを聞いてレミリアは天井を仰ぎ見て、


「へえ」


それだけ、呟いた。


「さて、あの子達には隠れてもらいましょう」


あの子達とは、妖精メイド達の事である。紅霧異変のときは、霊夢たちに迎撃をしてくれたが、今回は事情がややこしい。だから、隠れて静かにしてもらおうという訳だ。


「そっか。咲夜、頑張ってね」


 簡単に言うが、それはとても重労働である。

 咲夜は、笑顔でそれに返し、懐中時計に手で触った。


 瞬間。空間がぶれた。咲夜は時間を操る力を持っていた。時間を操る、といっても、過去には戻れないのだが。


「それでは。……いってきます」


 咲夜は、最後にそう言い残して、レミリアの前から消えた。


「うーん。便利だね、咲夜は」


 咲夜の能力の羨むレミリアであった。まあ、実際に重労働なのは変わらないが。









「スペルカード!」


 その掛け声と共に、まず美鈴からスペルカードが使われた。


「彩符『彩雨(さいか)』」


 すると、彩のある弾幕が弘毅の方向全体にばらまかれる。


「ちっ!」


 弘毅は舌打ちをしたが、弾幕の隙間に軽々と抜ける。美鈴にとっては、いつもより薄い弾幕のため、避けてもらわなければ困るのだが。


「こっちも行くぜ! ……鬼々」


 小声で他の人に聞こえないようにする弘毅。鬼々は納得して、皮肉交じりで言った。


「うむ。昨日考えた奴じゃな。……名付けの才能は相変わらずじゃがな」


「……言うな。さて! 散符『集中砲火』」


 技自体は美鈴の彩雨に似ているか。彩られた気弾ではなく、札だ。何百の弾が美鈴の方向に向かって宙を飛ぶ。

 発せられた札と気弾とがぶつかりあい、互いが散って火花が生まれた。


「あら……ほいっと」


 美鈴の周りには、のんびりと札が沢山、飛んでいる。いわゆる、無駄弾が多い技だった。のんびりとした速さゆえ、避ける範囲を狭めることはでき、それが狙いの一つ(・・)だ。

 ラスト、と宣言したからには適当に負けてくれるだろ、と思った弘毅は、次の行動に出た。


「――そこだ」


 弘毅は美鈴に宣言する。弘毅は、一度美鈴が不敵に笑ったように見えた。


「なにが?」


 弾を余裕そうに避けながら尋ねた美鈴、その瞬間。


「っ!」


 一斉に美鈴の周りを漂っていた無駄弾達がが美鈴に向かって飛んでいく。一応、逃げ道はあるものの、とっさにその経路を見失う美鈴。速度は子供が物を投げたように遅いが、なんせ数が多い。

 美鈴は、どうすることもできず、札の雨に飲まれた。……どうもしなかったともとれるが。


「……秋雨弘毅。なかなかやりますね、ああ……人間にやられるなんて…………」


 ガクリッと倒れる、美鈴。美鈴自体、村里に顔を出したり武術の試合を申し込む人間が居たり、なかなか有名なところでは、人里でも名が通っている。知っている人から見たら、あんな負け方を、と驚かれそうだ。


「倒したのか? 流石秋雨君だな」


 喜びを見せる、依頼人。どうやら、比較的人間に友好的な美鈴のことも知らないらしい。霊夢とレミリアの関係を知らないようだし、知らないのも十分理解できるが。

 そんな中、青年の護衛が不思議そうな顔をして美鈴の方を向く。


「あの……先輩とこの女の妖怪。どうしますか?」


 先輩とは、あの馬鹿な護衛の事だ。


「……どうしようか」


 気絶する二人を見て、青年と一緒に思案する弘毅。弘毅が考えている途中で、


「うん。あの強さなら弘毅君を信頼できるね。では、君は外で、待っていてくれ」


 ピッと青年の護衛を指差す依頼人。どうやら、青年に美鈴と馬鹿を介抱させる気らしい。


「僕と秋雨君で、この館を探検してくる。だろう?」


 確かに、この二人を無視して先行きます、とはいけない。弘毅は、特に拒否する理由もないので、その話を受け入れた。


「秋雨君。二人で話したくてね。お話しようか。いやあ、よろしくね」


 弘毅は、すぐに自分の選択を後悔したのであった。


どうでもいいけど、美鈴って書くとき、みすずって打ってます。メイリンです。

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